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特区対談#04

近未来が生まれる場所
千葉市におけるドローン実証の取組

未来の技術ではなく、身近な存在となりつつあるドローン。
他国と比べて日本のドローンを含むエアモビリティの取組は遅れていると思われがちですが、現在、全国各地でドローンやエアモビリティ技術の活用が推進されています。
今回は、国家戦略特区として様々な実証実験を推進している千葉市に焦点を当て、自治体と民間事業者それぞれの立場で、ドローンを活用することで広がるチャンスや未来について語っていただきました。



【対談者プロフィール】



全国で進められているドローン関連事業。決め手はスピード

──本日はどうぞよろしくお願いいたします。
先ほどドローンの実機も拝見しました。ニュースや動画サイトでは見たことはあったのですが、実際に拝見すると、個人が空を飛べる日も遠くはないのではないかと思ってしまいます。
国内のエアモビリティに関する取組が各地で進められているなか、千葉市では国家戦略特区を活用した取組の一環として、2016年からドローンによる実証実験に取り組まれていますね。千葉市での取組の背景・経緯について教えていただけますか。

─小圷氏
千葉市では、2016年1月に国家戦略特区の3次指定を受けました。特区を申請しようとしたきっかけとして、市内に幕張新都心というエリアを抱えていることが大きかったです。これまで、幕張新都心の開発は千葉県が中心となって推進してきました。都市としてのハードの部分がそろってきたこともあり、現在はエリア内のソフト、つまりどのような暮らしを形作っていくのかという部分を推進しています。幕張新都心が新しい都市であることから、様々な挑戦を見据えてきたなかで、未来技術の実証フィールドとしてエリアの魅力を高めていきたいと考えていました。新たな都市ならではの試みを積極的に進めていく手段の一つとして、国家戦略特区の枠組みで進めていくことになりました。
現在、様々な分野での特区の活用を進めるなか、当初から未来技術実証の取組の核として計画していたものとしてドローンによる宅配と自動運転がありました。それぞれの分野で多くの事業者の方々に参画いただけるよう、千葉市として相談支援、財政支援といったサポートも併せて提供しています。

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幕張新都心湾岸部上空を飛行するドローン。


──なるほど、臨海部でもあり、新たに開発された幕張新都心エリアを活用するための方法の一つして、国家戦略特区が位置づけられているわけですね。千葉さんにお伺いしたいのですが、このようなドローンに関する取組は、千葉市以外に全国ではどのように進められているのでしょうか?

─千葉氏
各地の取組として、例えば物流にドローンを取り入れようとしている三重県や、インフラ点検等での活用を進めている福島県などが包括的な仕組みを整えつつあります。特に、離島や中山間エリアにおける取組が積極的に進められています。
こうした取組が全国的に進められている背景としては、法律的な要因と経済的な要因の2つがあると考えられています。法律的な要因は、2022年度までにドローンの運用水準を「レベル4(有人地帯での目視外飛行)」に引き上げるための法的枠組みの検討が進められている点です。ちなみに、レベル3は山間部や離島といった人口密集していない地域では自動運転のドローンを飛ばしても良いというもので、多くの地域で様々な取組が行われています。現在は、レベル3からレベル4への移行に向けた検討段階にあります。レベル4の実現に向けて、様々な実証実験と法整備が行われている状況なのです。
経済的な要因は、端的に言って人手が足りない部分を補完する手段としてドローンや自動運転技術を積極的に推進していこうという動きがあることです。折しも2020年のコロナ禍における生活スタイルの変化によって、配送業等の需給がますますひっ迫してきていますし、今後の社会を見据えると、人口減少や高齢化により労働力が不足していくことは明らかです。ドローンや自動運転技術がその部分を埋めていくことが期待されています。


──ありがとうございます。2022年度までに都市部においてもドローンが飛び交うようになるかもしれないというのは初めて知りました。そのような観点に立つと、国内各地で推進されているドローン関連の取組の重要性も理解できます。一方で、民間事業者としてはそのような特区の取組をどのように捉えているのでしょうか。

─片野氏
当社では、ドローン分野、エアモビリティ分野、次世代のインフラとして電力周りの事業や演算領域を事業領域としています。特にドローン関連の事業は創業以来取り組んできた事業領域で、ハードとしてのドローン実機の開発だけでなく、ドローン操縦者の育成といったソフト面の開発にも注力しています。「次世代を支える新たなインフラ企業となる」というビジョンを掲げている当社にとって、非常に重要な事業として位置づけています。
ドローンに関するハード面もソフト面も注力している立場として、国家戦略特区の枠組みは、様々なアプローチでドローン関連の実証実験に係る取組ができるという点で有用性の高い制度だと捉えています。

─佐藤氏
先ほど片野から話がありました通り、当社はドローンに関する開発に取り組んでいます。そのなかで、インフラ整備分野で、ドローンを活用して構造物の点検を行うための技術を開発していました。この分野は特に省人化のニーズが高く、それに応えるための技術開発に注力していました。現在では、このコロナ禍でそのニーズに拍車がかかった形となりました。
ひとくちにインフラの点検作業といっても様々な構造物が含まれます。今回は、コロナ禍以前から国内インフラの老朽化と点検人材の不足が全国的に課題となっている橋梁の点検を、事業の対象領域として取組ました。
一方、技術開発は進んでも、その技術を実証できるフィールドがこれまでは無かったのが課題でした。具体的な実証の場があることによってより技術の精度向上や開発の課題が見えてくると考えており、実証の場を模索する中で、千葉市がドローンに関する取組を進めていることを知りました。
正直に言うと、先ほどドローンファンドの千葉さんがおっしゃっていた通り、千葉市以外の自治体でも既にドローンの実証支援の取組をしているところは複数ありました。その中で、千葉市で事業を進めていこうと思った決め手は、千葉市にご連絡をした時に対応が最も早かった、という点が大きかったですね。

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ドローン実証事業について、経営者と現場、二つの目線で説明する片野氏(右)、佐藤氏(左)。


実証に向けた調整フェーズにおけるワンストップセンターの役割

──A.L.I.社 佐藤さんから、千葉市の対応の速さについて言及がありました。千葉市としてもスピード感については意識しておられたのでしょうか。

─小圷氏
千葉市が2018年に設置したワンストップセンター(ちばドローン実証ワンストップセンター)でA.L.I.社からのニーズに対して包括的に対応できたことがお役に立ったのではないかと考えています。ワンストップセンターは、ドローン関連の実証実験を希望する事業者と庁内の関係部署や自治体との間に立って、ニーズに対応した情報提供や実証実験のフィールドの確保に向けた調整を行っています。

ちばドローン実証ワンストップセンターの役割概要

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今回の事例で言えば、ドローンを使って橋梁点検の実証実験を行おうとすると、庁内の道路管理部署等に対する説明および連携が重要になってきます。ただ、当該部署は地域のインフラの安全・安心を担うセクションですので、非常に調整に時間がかかります。本件に関しては、「そもそもドローンとはなにか」というところからの説明が必要でした。我々としてはこのような窓口を設置しながらここ数年間にわたり活動を続けてきたことで、管理部署サイドの理解も深まってきたように感じます。最近では、管理部署に相談しにいくと「ドローン(案件)また来たの?」という反応が返ってくることも多く、いかにできるかを前提に対応してくれるようになったため、以前より調整がしやすくなったと思っています。
インフラ点検以外では、市内各所にある公園内で空撮を行うためにドローンを飛ばしたいという相談も増えてきています。このような相談は公園の管理部署が対応する必要があります。現在では、こうした依頼に対する業務が半ば定型業務化しており、庁内全体のドローンに対する理解度が高まっているようにも感じています。

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千葉市の取組について説明する小圷(こあくつ)氏


──ワンストップセンターの役割として、民間事業者に対する迅速な対応が可能になっただけでなく、庁内への説明や調整を通じた全体的な理解促進にも貢献していたわけですね。一方のA.L.I.社の視点で、ワンストップセンターを通じた千葉市とのやりとりの過程で想定外だったことはありますか。

─佐藤氏
そうですね、例えば、橋梁点検と言っても橋にもいろいろなタイプがあります。そのため、実証する立場で言えば様々なタイプの橋で実験をやってみたいと考えていました。ただ、当初千葉市から提示された橋梁のタイプにそれほどバリエーションがありませんでした。また、点検作業において、ドローンを使わずとも人の手で十分点検が可能な構造の橋もありました。ドローンの現状において、サイズの小型化など開発側の課題も挙げられます。とはいえ、様々な場所での実証も平行して積み重ねていく必要がありますので、「多様なタイプの橋梁を、他の場所でも探す必要がある」と社内では議論をしているところです。
ただ、こうしたフィードバックなども含めて、千葉市での実証を迅速に対応いただけたことで見えてきたことでもあります。千葉市との信頼関係や実績が積み重なっていく中で、今後、千葉市内の様々なタイプの橋をご提案いただけるような関係になっていければ、と思います。

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橋梁点検の様子。オレンジ色のビブスを着用した担当者の視線の先に小型ドローンが飛行しており、橋梁の状態等を記録に収めている。


─小圷氏
インフラ関連は、国・県・市の所管が明確に定められており、管轄する部署もそれぞれ異なります。そのため、最初にお示ししやすいもの、となるとどうしても市が所管しているものになってしまうのが実情です。
さらに、千葉市の場合、人口密集地区とそうでない部分があります。人口密集地区でドローンを飛ばすこと自体に調整のコストがかかってしまいます。一方で、そうでないエリアについては比較的容易に実証が可能です。そこで、ニーズをうかがったうえで、まずはやりやすいところを道路管理部署と検討したうえで回答する、という対応をさせていただきました。
こちらの提案内容が、企業側からすると実証実験をする場としてものたりない……という印象を持たれることもあるかもしれません。そのお気持ちも十分に理解した上で、我々としてもワンストップセンターの開設の目的でもあるように、部署横断の中からまずは小さくでもご一緒させていただき、そこから徐々に、というステップを経て実証を円滑に進められるようにしていきたいと考えています。


日本と海外のドローン法制度の違い

──ドローン技術あるいは活用という面で、諸外国と比較して日本の行政の立ち位置の違いや特殊性はあるのでしょうか?

─千葉氏
一般的に、日本の行政は対応が遅いイメージがあるかと思います。しかし、ドローンやエアモビリティに関しては、個人的には真逆だと感じています。おそらく、すべての先進国の中で、2022年度までにドローンの運用をレベル4の状態に到達する目標を宣言しているのは日本だけです。この宣言は、当初2030年を目標にしていたのですが、8年前倒しの目標として掲げられました。もちろん、現状において技術検証や安全検証が終わっていない段階ではありますが、先に目標年を設定したのは非常に先進的な動きだと思っています。
世界に目を向けると、諸外国の多くは「ルールを作る前にまずやってもいいよ」というスタンスです。たとえば、中国の深センの街中に行けば頭上でヒュンヒュン音がしていて、見上げるとドローンが飛んでいる風景をよく目にします。アメリカも同様です。中国では基本的に、新しい技術の導入などについて、自由にできるけど、国の性質上、ある日突然規制がかけられるリスクがあるため、事業者の立場としてみると実は事業として投資をしにくいという実情があります。アメリカでは、ドローンの個人利用は比較的自由な一方、ビジネスでの利用については色々な規制があります。
このように、国によって様々な運用の特徴がある中で、日本は「官邸ドローン落下事件(2015年)」を契機として、世界でいち早くドローン規制の法律ができました。しかし、規制ができたと同時に、申請して認可されれば飛ばしても良いというルールもできたのです。企業や民間事業者からすると、正式な手続きに則っていれば、ドローンを規制の範囲内で自由に飛行させることができます。事業者にとってみれば、他国と比較して事業投資しやすい環境といえるのではないでしょうか。この安心感は非常に大きいと思います。
ただ、日本では、ドローン操縦においては資格が必要となるため、一般の方がドローンを飛ばすことは難しく、そのため、多くの市民の方々にとっては、ドローンやエアモビリティを身近に感じるということは今のところほとんどないかもしれません。

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ドローン活用における日本の法制度、行政の立ち位置について海外の事例を挙げながら説明する千葉氏。
この日、千葉氏はオンラインでの参加となった。


──諸外国と比べて、日本のドローン・エアモビリティの事業環境における法制度が明確であるというご意見は、普段この領域に関わっていない者が聞くと驚いてしまいます。A.L.I.社としては当初からビジネス領域でのドローン事業の展開をお考えだったとうかがっていますが、このような国内環境の特徴を見据えたうえでの取組だったのでしょうか。

─片野氏
我々は創業以来、ビジネス領域での事業展開を中心に考えていました。先ほど佐藤や千葉さんからも説明があったように、インフラ整備や農業分野など、政府がドローンを推進する分野を中心に、産業構造にイノベーションを図る意味でもビジネス領域が中心だと捉えていました。逆に言うと、toC(一般消費者向け)領域は今のところほとんど考えていません。ドローンのスタートアップ企業を分析すると、コンシューマー領域は中国系の企業が強いです。日本では規制領域が決まっているという観点からも、ビジネス領域が先行して立ち上がっていくだろうとの目論見を持っていました。
もちろん最初に厳しくルールが設定されたので、「もっと自由にやらせてほしいな、もっといろいろなフィールドがあればいろいろなデータも取れるのだが」といった思いがあるのも確かです。だからこそ、こうした国家戦略特区の中でこのようなことができるよ、ということを示していくのは日本らしい進み方なのではないでしょうか。

─小圷氏
私自身がドローンに関わる部署に配属されたのは2020年度からですが、日々、民間事業者の皆様から「こういうことにチャレンジしてみたい」といった熱のこもったご意見をいただくことが多いです。ワンストップセンターにいただいたご意見を庁内に展開しながら、ドローンへの理解やドローンを活用した千葉市独自の取組を、産官学民といった様々な外部の方々に繋げていきたいと思っています。


ドローンの未来

──今後のドローンやエアモビリティの展望について、どのようなイメージをもっていますか?

─片野氏
我々が現在主軸としている産業用ドローンという意味では、ドローンが活躍できるシーンは非常に幅広にあると考えています。その中で、当社としてまずはドローン産業を支える人材育成に引き続き注力していきたいと考えています。具体的には、ドローンの操縦士や自動運転型ドローンと一緒に現場をチェックするような人材です。技術だけでなく、ドローンを正確に操縦する人がいてこそ、安全安心なドローンの運用が可能になると考えています。ハードとソフトの両面で、ドローン産業の未来に貢献していきたいと思っています。

─佐藤氏
現状は実証実験での運用がメインとなっていますが、もう少し長く運用できるような環境がはやく実現してほしいです。そのために、当社としては、技術の安全性をきちんと情報発信していく必要があります。もちろん、我々だけでなく関連事業者の方々と一緒に活用の可能性を考えていくことが重要だと考えています。

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A.L.I.社が開発しているドローンの一例。社会インフラの点検作業や物流業務など、様々なシーンでの活用が期待されている。

─小圷氏
そもそも千葉市がドローンを活用しようと考えた最初の構想は、定型ルートによる物流でした。今は第三者上空の飛行が禁止されているため海上や河川上空を飛行させているのですが、次のステップとして、JRの線路上を横断して飛ばすことに挑戦しようと考えています。多くの民間事業者の方々との実証実験やJR側との調整を重ねてきて、最近ようやく実証飛行の目処がついてきました(注)。人口密集地区における鉄道関係のエリア上空にドローンを飛ばす試みは、おそらく全国でも珍しい試みなのではないかと考えています。日本には多くの鉄道が敷設されているため、この取組によって得られた知見を千葉市に限らず全国の自治体や事業者に対して貢献することができると考えています。
ドローンの活用推進の観点では、庁内での業務効率化の一環として点検業務などの一部を民間事業者に実証を目的として委託する取組も始めています。例えば、イノシシなどの有害鳥獣対策はすでに委託事業として立ち上がっています。今後は市内企業のドローン活用を促進するため、臨海部の施設点検等への活用も検討を始めています。こうした取組は、千葉市に限らず千葉県内や東京湾周辺の都県、自治体とも連携できるものと考えています。
(注)実証飛行は2021年2月5日に実施。本座談会は2020年12月に開催されており、表現などは当時のまま記載している)

─千葉氏
空は、人類に残された最後のフロンティアだと思います。地上・地下や水中・海底は既に開発が進んでいますが、空の活用はまだまだ発展途上の状態にあります。加えて、地中や海底は深度が深まるほど開発が難しい一方、低高度の空はまだまだ活用の余地があります。これだけ多くの生活者や事業者が集まっている東京ですら空いています。投資家的な観点から言えば、海に潜るより地下に潜るよりも、空はROIが高いという見方です。
今までは技術がなかったために低高度の空の活用可能性が低かったけれども、今後はドローンやエアモビリティが実現することで活用が可能になっていくはずです。空はどの都市の上にも広がっています。この空間が今後活用されるようになれば、個人的にはインターネット産業が立ち上がったのと同じようなインパクトがあるのではないかと考えています。

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自ら操縦桿を握る千葉氏。
空を移動することがより身近になる未来は想像しているよりも早く到来するのかもしれない。



私はいま、免許を取得して週一回程度の頻度でプロペラ機を操縦して空を飛んでいます。自分で操縦して空を飛んで移動すると、毎回便利さを実感します。空の移動は目的地まで直線距離で進むことができますし、途中に障害物や信号のようなものもないので、地上を自動車や電車で移動するよりもはるかにスムーズで迅速に目的地に到着することができます。そんな日が近い未来にやってくると考えています。


──ありがとうございました。

<今回インタビューにご協力いただいた事業者>

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