このページの本文へ移動

特区対談#06

中山間農業の存続に向けて
養父市における企業農業の取組

棚田の風景に代表されるような中山間地の農地は、日本の原風景の一つです。しかし、傾斜地が多く存在し、農地の集積・集約が難しいなど
農業には不利な条件もあり、近年は担い手不足や耕作放棄地の増加が問題となっています。
そのような中、兵庫県養父市は“中山間農業特区”として、農業関連の様々な規制緩和に取り組んでおり、
その取組を活用した多くの企業が農業参入に挑戦しています。
今回は、中山間地域における効率的な農業の実現を目指す、養父市や参入企業の皆様にお話をうかがいました。



【対談者プロフィール】



地域の存続のための農業の改革

──国家戦略特区に指定されている区域の中でも、養父市は仙北市と並び、人口規模の小さい自治体ですが、活用されている規制緩和は多岐にわたります。特に“中山間農業改革特区”として農業関連の事業を多数実施されています。養父市でのこれらの取組の概要や背景について教えていただけますか。

─漆畑氏
養父市は人口約2万3千人の小規模な自治体です。市の基幹産業は農業ですが、中山間地域という農地の集約化や大型農業機械の導入等が難しい地域であり、農業の担い手には不利な地域です。人口減少や高齢化により、農業の担い手は減少、耕作放棄地は増加しており、このままでは地域が衰退し立ち行かなくなってしまう危機感を持っています。
これまでも、国や県の様々な支援メニューも活用しつつ地域の活性化を図ってきました。しかし、それらの中には全国一律の、ある意味では画一的な支援内容であるため、今一つ痒いところに手が届かないものもありました。これに対して、国家戦略特区制度は、我々養父市の個別の事情に即した、挑戦のための規制緩和が可能となります。市長のリーダーシップもあり、平成26年から国家戦略特区に係る取組を行ってきました。

特に、重視したのは農業改革、具体的には企業による効率的な農業の実現です。今はまだ市内の各地域に力のある農家がいらっしゃいますが、個々の農家に頼るのも限界があります。そこで、個人ではなく資本や組織力を持つ企業に地域の農業を担ってもらうのが良いと考え、企業の農業参入を促す規制改革メニューを活用してきました。


──地域の存続のために、基幹産業である農業の活性化に取り組まれているということですね。同じような課題を抱える自治体は多いと思うのですが、具体的にはどのような規制緩和を行ったのでしょうか?また、これまでの成果はいかがでしょうか?

─漆畑氏
企業の農業参入の促進に関して言えば、農業生産法人(現在は農地所有適格法人と呼称)の設立要件の緩和※1や、従来、農業委員会の許可が必要であった農地の権利移転を市が行える※2ようにしました。特に後者についてですが、通常、企業が農業参入する際には地域の農業委員会との調整が必要で、どうしても合意形成に時間がかかります。この調整窓口や権利移転許可を市が担うことでスピード感を持った対応が可能となり、企業にとって農業への参入障壁が下がったのではないかと認識しています。

結果的に、計14社が農業に参入してくれました。これらの企業の農業生産高は約2.8億円になります。営農面積は約60.3haで、このうちの約26.1haは作付されていなかった農地のため、放棄地の増加の抑制にもつながっています。これには、国家戦略特区の指定により、養父市の農業改革への姿勢が企業に伝わった点も影響していると思います。
また、従来出来なかった企業単独での農地の取得を可能にしました。合計で約1.6haと限られた面積ではありますが、6社に利用されています。(文章中の各種数値はいずれも令和2年12月現在)

※1:農業生産法人の6次産業化推進等のための要件緩和:農地所有適格法人の役員要件について、その法人の行う農業に必要な農作業に従事する役員又は重要な使用人(農場長等)が1人いればよいこととする。 なお、議決権・構成員要件については、農業関係者の議決権が総議決権の2分の1以上であればよいこととするとともに、法人と継続的取引関係がない者も構成員となることを可能化。 ※2:農業委員会と市町村の事務分担の特例:農地の流動化を促進する観点から、市町村長と農業委員会との合意の範囲内で、農業委員会の農地の権利移動の許可関係事務を市町村が行うことを可能化。

写真


──ありがとうございます。具体的な成果が出ているということですね


企業が取り組む農業だからこその特徴・メリット

──次に養父市で農業に参入された企業の方々にお話をうかがいたいと思います。農業参入のきっかけや、それぞれの取組の特徴について教えていただけますか?まずは小谷様(ナカバヤシ株式会社)からお願いします。

─小谷氏(ナカバヤシ)
製本加工業と農業の繁閑差を活用した二刀流ビジネスモデル
弊社は1923年に大阪で製本加工を祖業とした企業で、養父市に立地している兵庫工場はその専用工場です。この地域で50年近く操業してきました。弊社の製本分野は、主に大学図書館の蔵書を中心とした特殊製本が中心で、大学図書館の運営状況との兼ね合いから、繁忙期(夏・冬)と閑散期(春・秋)と需要の波があります。昨今では、書籍の電子化等の影響で繁閑の差が大きくなり、閑散期の採算が悪化していました。特に図書館製本を担う会社や加工所は、事業の縮小や廃業が相次ぎました。そのため、弊社は我が国の文字文化を未来に繋ぐ役割を担うのか、資本主義の原則で不採算事業の見直しをするのかの岐路に立たされていました。弊社は前者を選択し、製本技術の伝承も含めこの兵庫工場の操業を続けることを決めました。
しかし、特殊製本の技術を習熟するには経験と時間が必要で、簡単には職人が育ちません。職人育成には安定的な雇用の維持が必須で、人員整理を行った事業継続の選択肢は無かったのです。

そこで、2015年から、繁閑時期が製本加工業と逆転しているにんにく栽培を始めることにしました。農機具メーカーと知り合い、アドバイスをもらったことがきっかけでした。製本工場の繁忙期には工場勤務の人員を増やし、閑散期にはにんにく栽培の農作業従事者を増やす。この結果、農業単体ではまだ黒字になっていませんが、製本業の売上とにんにく栽培の売上を加えたトータルでは黒字化を図ることができ、安定的な雇用の維持に繋がっています。また、地元の農業高校の卒業生を新たに雇用することも出来ました。

写真 写真

製本工場とにんにく栽培の繁閑差の違いを利用し、トータルでの黒字化を図り、雇用を維持している。


弊社が農業参入した理由は、養父市で事業継続と雇用の確保、地域社会への恩返し、新たな営農形態へのチャレンジと、必ずしも国家戦略特区制度に魅力を感じたからではありません。ですが、先ほど漆畑さんが説明されたように、事業会社が農業に挑戦するため、規制緩和により市に農地確保の調整をリードしてもらえたのはありがたかったです。
結果としてスピード感をもって営農地の拡大ができ、初年度は0.7haだった作付面積が今では10ha弱まで広げられています。また、養父市をにんにくの産地とするには年間を通じた出荷の確立が必要で、数千万円程度の換気機能付き冷蔵庫機を設備投資することが必須でした。これは農業生産法人を設立した形態では困難で、事業会社だからこそ実現できた事案だと思います。


──本業と農業を組み合わせることが雇用維持に繋がっているのですね。大変興味深いです。
続いて藤田様(株式会社Amnak)のお話をうかがわせてください。

─藤田氏(Amnak)
組織力・機械を活用した山間地農業
養父市の建屋(たきのや)地域の能座(のうざ)というところで主に酒米生産をしています。本業は建築会社の経営者です。本社のある兵庫県三木市で地域や農業への恩返しという意識で酒米生産をしていましたが、近年の温暖化により稲が高温障害を起こしているのではないかと悩んでいました。
その頃、養父市が国家戦略特区に選定されたことを知り、調べてみると三木市から北に100km程度で標高も高いため、気候が酒米生産に適しているのではないかと思い、2015年から養父市で農業を始めることにしました。
取り組むにあたって意識していることは、条件の悪い山間地でも企業体としていかに力強く・効率的に農業を行うかです。三木市では平地で農業をしており、パイプラインの栓を捻ればすぐに水が出る便利な環境です。養父市で農地を探した時も、市職員の方から平地も紹介いただいたのですが、山間地での農業こそ課題が多く地元の方も困っているとのことで、そのような場所でこそ自分達が挑戦すべきではないかと思い、今の建屋地域を選びました。


──山間地での農業にあえて挑戦するというお話が印象的です。一方、先ほどのナカバヤシ社とは違い、地域の方から見れば、よく知らない会社が来るように映るのではと思うのですが、周囲の農家の方からの反応はいかがでしたか?

─藤田氏(Amnak)
友好的に受け入れていただきました。市が窓口になってくれましたし、地域の方にも自分達だけで地域の農業を守っていけるのか?という危機感があったのだと思います。参入にあたって地域の方向けの説明会を実施した時には、当時の農会長さんがその2日後に地域の総会を開催してくれて、すぐに受け入れを決めてくれました。養父市のサポートも手厚いです。参入当初からずっと同じ職員の方に担当していただき、様々な相談にも乗っていただいています。
私たちもその期待に応えたいと思っています。初めに3haの土地をお借りしたときには、大型の田植え機と人出を揃えて1日で田植えを終わらせました。普通の農家ならば数日かけた作業ですが、地域の方に企業農業の力強さや我々のやる気をみていただきたかったため、あえて1日でやりました。実際に、このことがあって地域の方々に認めていただいたと思います。

今では、合計水張面積で約13haの田んぼを耕しています。田んぼは200枚弱あり1枚平均は8aと狭小の田んぼが多いため、作業の効率化を図っています。2019年には農林水産省のスマート農業実証プロジェクトに兵庫県から唯一選出されました。山間地なので傾斜地の草刈りが必要で、特に夏場は大変な重労働なのですが、無線遠隔草刈機によって作業時間が大幅に短縮でき、作業負荷も軽減されました。

写真 写真

スマート農業実証プロジェクトの様子。全国で148実証が選定されており、兵庫県では唯一の選出。


──ありがとうございます。最後に堀江様、石田様(住環境システム協同組合)から、企業参入の経緯や取組み内容を教えていただけますか。

─堀江氏(住環境システム協同組合)
屋内型水耕栽培農場の開発・展開
私たちも、農業関係ではない事業を本業としています。住環境システム協働組合という社名から分かるとおり、グループ会社向けに木材建材の共同購入・販売や事務手続き支援を行ってきました。ただ、IT化が進む中で組合としての存在意義が薄れており、新規事業を探していました。その1案として検討したのが、現在養父市で展開している屋内型の水耕栽培農場です。ビニールハウスをより強固にしたものをイメージしてもらえれば良いかと思います。
兵庫県でも北部に位置する養父市は、冬に雪が積もることが往々にしてあります。ある年は一気に60㎝程度の降雪がありました。その時、雪に押しつぶされてビニールハウスが200棟位だめになってしまいました。この状況を見て、私たちが扱っている木材建材で頑丈なものを作れば雪にも負けないのでは、と思ったのが一つのきっかけです。
もう一つのきっかけが、大阪府立大学の植物工場を見学させていただいたことでした。拝見した設備は大規模なもので、我々では手だしできる代物ではありませんが、それをより小規模化することでビジネスチャンスに繋がらないかと考え、開発に乗り出しました。特に、既存の屋内栽培設備の課題となっていた電気代を抑えるために、温度管理をする空間を区切るタイプの設備にしました。メーカーにも協力いただき、1年間かけて何とか実現させることが出来ました。

写真

開発された水耕栽培システムの内部の様子。通常のビニールハウスより強固で、生産性も高い。


ちょうどその頃に養父市が国家戦略特区制度で農業改革に挑戦する話を聞き、長年にわたり地域で商売をさせてもらっている自分たちこそ協力すべきではと考え、水耕栽培農場でレタスの生産に乗り出しました。事業性はまだ検証中ですが、生産システムとしては収量も高く、年間を通じて安定した栽培が出来ています。作業負荷が低いこともポイントです。いわゆる工業的な生産ができるので、通常の路地栽培よりやビニールハウスに比べて作業が簡単で、高齢者や女性にも適しています。断熱効果もある屋内生産設備のため、暑さ寒さ、天候も関係ありません。


──三者三様に企業としての特徴を生かした農業をしていらっしゃるのですね。各社の取組をサポートされている市職員の立場からは、各企業の取組はどのように映っていますか?

─漆畑氏
普段からみなさんと接している中で、やはり企業農業のポテンシャルは高く、それぞれの特色ある活動をしてくださっていると感じます。
ナカバヤシさんの本業と農業を組み合わせた取組による経営の安定化や地域の雇用維持、これは企業が農業に取り組む一つの意義ではないでしょうか。それ以外にも、地域の農家に対して乾燥機を貸したり、販路を提供したりと、地域の農業を引っ張っていただいています。

Amnakさんは、地域の方から大変信頼されていて、「建屋(たきのや)地域はAmnakさんがおるから大丈夫や」と声を聞いたこともあります。経営のスピード感にも驚かされます。2年前から冬季の事業としてお餅の生産、販売を始められました。販路拡大の営業ですぐに15店舗まで卸先を拡大されました。酒米から作った日本酒も海外販売にチャレンジされています。また、細かいことかもしれませんが、その日の収量が数値ですぐに分かるようになっています。個人農家ではこうした細かなデータ管理は難しいでしょう。企業農業ならではの経営管理ではないでしょうか。

写真

生産した酒米による日本酒、生産地である能座地区、但馬エリアの名前を冠している。最近は海外輸出にも取り組む。


住環境システム協働組合さんは、新たな生産システムに研究開発から実践されており、それを実現されています。本業のノウハウを活用されていることや、開発投資の規模から考えても、個人レベルでの取組では到達は難しいでしょう。省スペースで収量も高く、新たな農業の形として他2つの企業とは違った形の改革だと捉えています。


異業種からの参入・新たな土地での挑戦による困難

──これまでのお話を聞くと、それぞれの取組で成功しているように感じるのですが、農業参入、あるいは新しい地域での営農にあたっての困難や課題はなかったのでしょうか?

─小谷氏(ナカバヤシ)
これは当たり前のことですが、やはり農業は大変です。植え付けや収穫の時期だけ働けばよいのではなく、日常的な草刈りや消毒があり、それが当初の想定以上に手間がかかります。農家の方には頭が下がります。我々は組織的に取り組んでいるので、例えば体調が悪い時には他の社員がフォローするといった対応が取れますが、個人農家の方の中には代わりがきかないこともあるでしょう。
また、収益という意味でもやはり農業生産だけでは厳しいものがあります。やはり6次産業化を目指し、付加価値をつけていかないといけません。
それと、農地が点在していることも課題です。作付面積を増やしてはいますが、小さい土地が点在する状況は移動や管理が大変です。企業で取り組むスケールメリットを最大限活用する意味で、せめて1ha単位での農地集約が可能な仕組みを構築してほしいですね。そうすればもっと参入企業は増えるのではないでしょうか。

─堀江氏(住環境システム協同組合)
私たちは、開発した水耕栽培農場の取扱いで行政の関係部署との調整に苦労しました。先程お話したとおり、雪にも耐えられるビニールハウスという発想で開発を進めてきましたが、構造が丈夫なだけに事情を知らない人からみると建築物のようにも見えてしまいます。仮に建築物だとすると、建築基準法に準拠する必要が出てきますし、農地法の観点からも許可が下りません。そのため細かな要件を確認し、ビニールハウスと同様のものと認めてもらうため、県との交渉を養父市の後押しのもとで進めてきました。前例のないことのため仕方ないのですが、誰に何の許可を取ればいいのか手探りで進めることは大変でした。

写真 写真

水耕栽培農場の様子。部材には県産材を活用している。


農地確保の選択肢としての企業農地取得の規制緩和

──ちょうど農地というお話がでたのでお聞きします。先ほど養父市の実施している規制緩和として、企業が農地を取得できるようにする取組のお話がありました。一般論として、農地の企業取得は撤退リスクや目的外利用といった懸念もあるなか、養父市ではなぜこの規制緩和の実現を目指したのでしょうか?

─漆畑氏
端的に言うと、企業の農業参入の方法を多様化したら良いと思ったからです。企業が農業を始める場合、農地の調達方法はリースが一般的です。養父市の参入企業の農地の多くはリースで農家から借りていますし、その方法で調達できるならそれで問題ないと考えています。
しかし、農地を企業が自社で所有するほうが良いと考える場合もあります。具体的には農地に改良を加えたり、ハウスの設備投資をしたり、果樹を植えたりする場合です。リースでも出来ないわけではないですが、契約を解除されるリスクも当然あるわけです。貸し借りの関係上、強く反論できないケースもあるかもしれません。その場合、企業としては資本を投じた農地を返さないといけません。このリスクが企業参入を妨げる可能性に少しでもなるのであれば、この規制を緩和すべきだと考えました。

また、農家の中には自身では農業が出来なくなり、かといって後継者もいなく、いつまで農地を持っているべきなのか、自分がいなくなったらこの農地はどうなってしまうのか、誰かに農地を譲れないかと考えている方も一定程度いらっしゃいます。しかし、条件のよくない中山間地域は取得される可能性は低く、耕作放棄地になってしまうかもしれません。このような状況を阻止できる可能性を少しでも広げるために、企業による農地取得が認められるようにしたかったのです。

もちろん、制度が悪用されるのではないかという懸念も様々寄せられましたし、市としてもその可能性は考えました。例えば、企業によって優良農地が買い占められるのではないか、業績が悪くなったら容易に撤退されるのではないか。あるいは、転売されたり、産廃置き場に使われたりするのではないかといったものです。市の置かれている状況からはそのようなことは正直考えにくいですし、撤退リスクは個人農家でも同様にあります。また、農業目的以外の利用はそもそも農地法で規制されています。
しかし万全を期すために、養父市では企業が農家から農地を取得する際には市が仲介(地権者から市が農地を買い取ったうえで、企業と売買契約を締結する)し、不適切な利用や撤退により耕作放棄地となった場合には、その農地の所有権を市に戻すことができる仕組みを作りました。
この手法は、養父市では市内の農家の状況をある程度把握できており、コミュニケーションも取れていることから出来ることでした。より規模の大きな市町村では別の仕組みが必要かもしれませんが、それは各々の自治体が実態にあった制度を考えられると思います。

写真


──確かに、企業としては用地取得の選択肢が増えることになりますね。また、規制緩和によるリスクへの対策も取られていると理解しました。本日ご参加いただいている三社の皆様は農地を取得されていますが、所有に至った理由はどういったものだったのでしょうか?

─石田氏(住環境システム協同組合)
先ほど漆畑さんがおっしゃったように、農地に水耕栽培農場を設置するための設備投資が必要だったからです。多額の費用をかけることになるので、土地を借りて万が一にでも返却してほしいと言われたらどうしもようなくなってしまいます。もちろんその可能性は低いですが、自社所有した方が安心できるので購入することにしました。

─小谷氏(ナカバヤシ)
農地の排水対策をする必要があり自社保有を考えていました。同時に、地権者の方からも譲りたいと言われたので、農地を購入させていただきました。

─藤田氏(Amnak)
地権者の方から希望があり、買わせてもらうことにしました。特に設備投資をするわけではないので、リースでも良かったですしそのほうが費用的には安いのですが、地域の方々に我々の本気度を感じてもらう意味合いもありました。


──現時点では養父市内で6社が農地を購入されたとのことでしたが、他に企業から農地を買いたいニーズはあるのでしょうか?

─漆畑氏
これまでに10社程度から相談を受けています。関心度はまちまちで、本格的な検討をしているところもあれば話を聞いてみたい程度の場合もあります。農家側は、農地は絶対に売らないという方もいれば実は売りたいという方もいて、様々です。繰り返しになりますが、農地の所有の選択肢を増やすという意味で、企業も農地を買えるようにして良いと思います。

─藤田氏(Amnak)
関連した話で、私は本業の本社がある三木市でも農業をしていますが、周囲の農家からもう自分たちでは農地の面倒を見られないし子供に譲っても苦労をかけるので、買って欲しいと言われることがあります。三木市は国家戦略特区ではないため、個人名義で既に5ha程度購入していますが、個人所有にも限界があります。企業名義で買うことができれば、もっと耕作地を増やすことができるのに、もったいないなと感じています。養父市のように、一定のルールや制度に基づくのであれば、他の自治体でも同様の企業農地取得を認めるべきではないでしょうか。


持続可能な地域、中山間地農業の未来に向けて


──最後に皆様から今後の抱負をお聞かせください。

─小谷氏(ナカバヤシ)
青果としてにんにくを売るだけでは市場価格に左右されてしまいますし、どうしても見栄えの悪いような品も出てきてしまいます。さきほども触れましたが、安定した売上を上げることとB級品でも付加価値を付けられることを目指して、加工品の生産に乗り出していきたいと考えています。いわゆる6次産業化です。地域の農家と一緒に生産するにんにくのブランド化、養父市の産地化を図るなかで、結果的に耕作放棄地の減少にも寄与できると良いと考えています。

─藤田氏(Amnak)
これからは農業はロボット活用がどんどん進むと考えています。自動運転トラクターやドローンによる農薬散布等、山間地でもそうした技術を活用しながら高効率で楽しい農業を実現したいです。そして、集落のみなさんと共生しながら、山間地における持続可能な農業経営モデルを構築し発信できることを目指しています。

─石田氏(住環境システム協同組合)
これまでの数年間で、水耕栽培農場における生産に関わる検証、ノウハウ獲得はほぼ終わりました。また、初期に設置したものよりも、コンパクトで設置費用も抑えられる製品も開発しています。これからは、この水耕栽培農場を他の方々にも活用してもらい、新しい農業生産を展開していきたいとと思います。

─漆畑氏
我々は地域の存続について危機感を持っています。そのため、本日お話しました、企業の農業参入による中山間農業の改革を含めて、様々な取組を進めていきます。もちろん、挑戦したことすべてが成功するとは限りませんが、自分たちの地域のことを自分たちで何とかする姿勢が重要だと考えています。この際、国や県の支援制度も利用できるものは利用していきますし、国家戦略特区制度による規制緩和も、そのツールの一つとして活用していく所存です。


──ありがとうございました。

ページのTOPへ戻る