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特区対談#07

誰もが活躍できる街とは何か 東京都障害者雇用を促進する仕組みづくり

障害者の雇用促進および職業の安定を図る障害者雇用促進法は、2019年に雇用義務対象となる企業の拡大、
法定雇用率の変更、2020年には事業主への給付金制度、有料事業主の認定制度の創設等、少しずつ変化してきています。
一方で、企業は障害者が働きやすい環境整備や、自社単独での雇用率達成の難しさ等、
雇用を促進していく上での課題も少なからず抱えています。
今回は、国家戦略特区における障害者雇用率算定の特例制度を活用し、有限責任事業組合
(LLP)の設立を通じて障害者雇用の促進に取り組んでいる東京都の事例を紹介します。





世界で一番ビジネスのしやすい都市へ

──本日はどうぞよろしくお願いします。
東京都は、神奈川県、千葉市、成田市とともに「東京圏」という指定区域として、37の規制改革メニューを活用し、130の認定事業を推進されています。その内容を見ると、都市再生やエリアマネジメント、高度医療、雇用・創業、外国人材の活用、都市公園の保育園設置における女性活躍推進など、非常に多岐にわたっている印象を受けます。その中で、今回取り上げた障害者雇用の促進というテーマはどのような位置づけになるのでしょうか。

─高須氏
東京都では、2014年に最初の区域計画の認定を受けて以来、「世界で一番ビジネスのしやすい都市をつくる」ことをスローガンとして、国家戦略特区メニューを活用した約100の認定事業を推進してきました。ただ、「世界で一番ビジネスのしやすい都市」はどのような都市なのかを考えたときに、必ずしも企業や事業者にとってのビジネス環境の整備だけがなされる都市だけではないと考えていました。
そこで、企業や事業者のみならず、東京都で生活するすべての都民が生活の豊かさを実感できるような国家戦略特区のメニューを活用することが、誰もが働きやすい街、世界で一番ビジネスのしやすい都市の実現に繋がると考えました。その一つとして、障がいをお持ちの方々であっても、それぞれの方が働きやすい都市をつくっていくことが重要という考えのもとで、障害者雇用の取組を推進してきました。


──なるほど。「世界で一番ビジネスがしやすい都市」という言葉を聞くと、様々な企業が活動することで国際競争力を高めていくようなイメージを持ってしまいますが、それだけでなく、都民一人ひとりの目線に立った時の仕事のしやすさを実感できるまちづくりを志向されてきたということなのですね。

─高須氏
はい。国家戦略特区制度における規制改革事項の一つ「障害者の雇用の促進に関する法律の特例」を利用し、本日ご同席いただいている福寿さんが設立されたウィズダイバーシティ有限責任事業組合(Limited Liability Partnership, LLP)を事業主体として、令和元年12月18日に区域計画が認定されたという経緯です。


──ありがとうございます。高須さんから東京都の経緯についてお話しいただきましたが、事業者側の経緯についてもお聞かせください。福寿さんが国家戦略特区の取組をご存じになった経緯についてお話いただけますか。

─福寿氏
私たちは、2017年に原宿でカフェを併設したフラワーショップ「ローランズ social flower & smoothie shop」をオープンしました。この店舗では、切り花や花束の販売だけでなく、健康的なスムージーや軽食を楽しんでいただける店舗となっています。運営に当たっては、接客や調理などのサービスの多くを、障がいを持ったスタッフが提供しているのが特徴です。この店舗がオープンした際、ありがたいことに様々なメディアに取り上げていただきました。おそらくそういった放送や雑誌などの情報を東京都の方がご覧になったのだと思うのですが、しばらくして東京都の国家戦略特区の担当者が店舗にお見えになり、特区の取組をご説明いただいたのがきっかけです。
日ごろから関わりのある中小企業の方々から「障害者を雇用したいのだが、なかなかうまくいかない」という話をよく伺うことも多く、一方で働きたい意欲のある障がいを持った方が多くいるなかで、うまくマッチングできないものかと思っていました。大企業ではない中小企業や小規模事業者が単独で障害者雇用の問題に取り組むことはハードルが高いと感じていたなか、特区の制度を使うことで障害者雇用の取組を少しでも前進させることができるのではないかと考え、年末年始のお休みを返上して分厚い資料を熟読したことを懐かしく覚えています。


中小企業における障害者雇用の難しさ

──ローランズ社だけでなく、多くの企業が、障害者の雇用について問題意識をお持ちであることについてお話いただきました。普段、障がいを抱えた子供たちへの教育環境について研究や実践をなされている近藤先生は、日本の障害者雇用の現状についてどのようにお考えでしょうか。

─近藤氏
日本型の働き方の特徴はいくつかありますが、週あたりの労働時間の長さと、年間を通じて働くことが挙げられます。もう少し具体的に言うと、基本的に週当たり30時間、年間を通じて働かなければならないという基本的なルールがあります。加えて、日本は解雇がしにくい特徴もあります。従って、一度雇用関係になった場合、長期間単一の組織で働くことになります。
さらに、一つの組織で働いていても、頻繁な配置転換によって様々な部署での業務に従事することが求められることも少なくありません。いうなれば、”スーパーなジェネラリスト”を前提とした働き方になっているとも言えます。一方で、障がいがあって何か困難なことがある方には、あらゆる業務にジェネラルに対応することも当然困難になります。そうした方々の働き方にフィットしやすいのはジョブ型の働き方で、特定の領域で専門性を高めて働くことができれば活躍できる方も数多くいます。
これまで、生活保障の側面も含めて、企業が通年で労働者を雇用し続けるという歴史的な慣行もあり、障害者雇用率の割り当て制度においても、年間を通じて雇用することが前提になっています。障がいのある労働者の中には、なんとか苦労しつつも年間を通じて頑張って働いている人も多数います。けれども、障がいの内容によっては労働時間の制限や季節によって身体の調子に大きな差がでてしまい、どうしても定められた労働環境の枠内で働くのがつらい方もいらっしゃるのが実情です。
私の研究室では様々な障がいのある方が働いているのですが、難病があり、身体介助が必要で、体調面から週6時間程度であれば働けるという方がおられたり、身体の不調の関係で冬場は働けないという事情のある人もおられたりします。障害者雇用率の充足のために障がいのある方を雇用したい、と希望を持っている企業の側からすると、そういう人たちは雇えない、という判断になってしまいます。職務が明確だったり、時間数や就労時期が柔軟だったりと、働き方がより柔軟になれば働けるのですが、通年雇用のジェネラリストを前提とした現在の日本の雇用の仕組みに当てはめようとすると、一部の障がいのある方々にとっては、一般的な日本型の雇用の場は、活躍しづらい環境になってしまっていると言えます。
ただ、最近はコロナ禍への対応により、主に大企業においてリモートワークやテレワーク、さらにジョブ型雇用の取組が広がりつつあります。こういった雇用制度の変化により、障がいのある方々の働き方、起業の雇用のあり方も変わっていく可能性が出てきています。

─福寿氏
普段、大手から中小企業まで様々な企業の方々と障害者雇用についてやり取りするなか、まずは「法定雇用率を満たす」ことが目的となっている担当者が多い印象を持っています。近藤先生の研究室のように、当事者の働きやすさを中心に据えて、積極的に障害者を雇用している企業が増えてきているのでしょうか。

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LLPの取組についてのディスカッションの様子。
様々な業種や立場の参加者が意見を交わすことで、LLP立ち上げの意義や
課題への対応策など検討を重ねたことが現在に繋がっている


─近藤氏
良い質問ですね。私は中小企業家同友会の方々とやり取りすることも多いのですが、この会に所属している企業は従業員数が20~30人の規模であることが多いそうです。この規模の企業は、社長や専務が人事関連の業務も担っておられることが一般的です。一方、従業員が50人から100人を超えてくる企業は組織内に人事部ができ、これまで社長がやっていた人事関連の業務を分掌するようになってきます。
社長や取締役の方々は、その会社の企業理念や活躍してほしい職務を念頭に置いて人材確保を考えておられますが、一般的に言って、人事部の立場で障害者雇用を考える場合、いかにして法定雇用率を満たすか、という点に意識がいきがちです。
実際、私がある中小企業の社長に実際に話をしに行って「たまたま障がいのある方なのですが、こういう業務なら担当できます」と説明すると、「うちの職場を助けてくれるんだったらぜひ来てほしいよ」と言われることも多いです。特に、中小企業の場合は大企業と比べて一般社員の勤続年数が非常に短いという調査結果もありますし、人材確保に苦労されている傾向があります。そうした企業の方々に、ステレオタイプ的な障害者のイメージを変えるような、日本型の働き方以外での活躍の事例を伝えて、既存のイメージを払拭してあげると、障がいのある方々も大事な戦力として見てくれるようになります。


──企業の規模によって障害者雇用に対する目線が変わるというのは興味深いご指摘ですね。確かに、企業の存続という観点と法定雇用率の充足という観点で障害者雇用を捉えると、両者に大きな違いが出てきそうです。とはいえ、中小企業単体では思いはあってもできることに限りがあるのも現実としてはありそうです。そういった状況を打開するための、今回の取組でもあるわけでしょうか。

─高須氏
そうですね。簡単に東京都の「国家戦略特区におけるLLPを活用した障害者雇用の特例制度」について説明させていただきます。本来は個々の事業主に対して、従業員の一定割合(2021年3月から2.3%)以上の障害者を雇用することが義務づけられています。しかしながら、単体の企業による雇用の実現が難しい状況があったため、現在は特例子会社と事業協同組合などを活用した障害者雇用率の算定に関する特例制度が設けられています。
この特例制度は、例えば親会社が求められる障害者の雇用者数が5人不足していても、その傘下にある特例子会社が求められる人数よりも20人多く障害者を雇用した場合、二つの会社の雇用者数を合算して15人多く雇用しているとみなせる制度です。

写真

国家戦略特区における障害者雇用率算定の特例制度の概要(東京都資料より抜粋)


事業協同組合の場合も枠組みとしては同様で、雇用促進事業に参画した事業主の雇用人数と事業協同組合の雇用数を合算することができます。
しかし、事業協同組合の設立には申請のために多くのやり取りが求められることや、認可されるまでに長時間かかるなどの理由から制度利用が進まない現状がありました。そこで、設立がより簡便で、異なる業種の事業主の参画も期待できる有限責任事業組合(LLP)でもこの特例制度を利用できるようにすることで、障害者雇用を促進するのがこの取組の狙いなのです。


仲間集めと準備

──制度の内容を伺うと障害者雇用の間口が広がったように思えますが、実際にこの制度を利用するとなると、一緒に障害者雇用に取り組んでいく事業者を見つけ、LLPの設立や運営を誰が担うかといった準備が大変そうな印象を受けます。今回、設立から現実に運用するなかでのご苦労はあったのでしょうか。

─福寿氏
今回の取組が国家戦略特区の諮問会議で成立したのが2019年12月で、成立までに約2年間の準備期間がありました。その後、ウィズダイバーシティLLPを設立し、実際に事業を開始できたのが2020年4月です。最初のLLP参画および算定特例制度活用は、ローランズと関係があり従業員が50人くらいの企業と一緒に事業を開始しました。
ちなみに、当時のローランズの障害者雇用数は45名で、もう一方の企業は法定基準と比べてマイナス1名という状況でした。両社の雇用者数を合算すれば基準を満たすことはできるのですが、私個人としては、「障害者雇用をシェアする」仕組みにはしたくないと思っていました。そうではなくて、「まずは合算するけれど、本来雇用される1名分の雇用を一緒につくっていこう」とそれぞれの会社の知恵を出し合うことが大事だと考え、実際に取り組んできました。ありがたいことに、参画企業の数は当初ローランズと社労士事務所の2社だったのが、現在は6社になり、障害者雇用を増やしていける体制をつくれてきたと認識しています。
一方で、LLPの参画企業の多様さは事業展開上の課題でもあります。参画企業が花卉を取り扱う企業や社労士事務所などから構成されていますので、ウィズダイバーシティLLPとしてはフラワー関連業務や社労士関連業務まで対応可能なのが確かに強みですが、業務を発注したいと考えている企業から見ると「発注したいが発注できる業務がない・わかりにくい」という状況をつくってしまっていると感じます。参画企業以外のクライアント企業も増えてきていますので、様々な企業が発注しやすいわかりやすいサービスをLLPとして取り揃えていくことが重要だと考えています。


──確かに、「いろいろできます」と言われるよりも、具体的にどんな業務ができると示していただいた方がわかりやすいというのはあるかもしれません。ウィズダイバーシティLLPとして、具体的に現在提供しているサービスはどのようなものがあるのでしょうか。

─福寿氏
例えば、社労士業務の中には、専門家による対応が必要な業務とアシスタント業務(書類の整理、提出や郵送等)があるのですが、後者の業務をサポートするアシスタントスタッフとして週3回の頻度で2名の障害当事者がお伺いして業務を対応しています。他にも、フラワーギフトの提供、フラワーショップのディスプレイ環境のメンテナンス、お中元お菓子の材料の準備(フルーツのカット等)などの実績があります。
今後は、企業のウェブサイト構築やRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション。事業プロセス自動化技術で、主に定型作業をロボットによって代行・自動化する技術のこと)関連の業務を担うような取組を進めているところです。大企業でなくとも、中小企業がチームとなることで障害者雇用を促進していくことが可能だということを、この取組を一つのモデルケースとして示していければと考えています。

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LLPに発注のあった贈答用の商品を製作するスタッフ


──数を満たすことだけではなく、一人ひとりが働ける環境をつくっていくという姿勢に多くの方が共感され、LLPへの参画や業務の発注といった協力の輪が広がっていったのではないかと思います。実際に事業が開始されるまでの期間に、東京都も伴走しつつ様々なサポートや調整があったかと思いますが、行政としての役割や実際の動きについて教えてください。

─高須氏
進めるにあたり、事業の趣旨に賛同された事業者を集め、LLPを設立するまでの過程における福寿さんやローランズ社の皆様のご尽力が何よりも重要であったと思います。
東京都が特にサポートしてきた部分としては、事業を始めるに先立って国とやり取りし、承認が降りるまでの調整のプロセスです。本件は国内最初の事例のため、国も慎重に検討していただいた分、ともすればビジネスを行う事業者の立場からすると時間がかかってしまいがちですので、都が介在することによってなるべくコミュニケーションにかかる時間を短縮できるよう調整することを心がけました。それでも、実際には事業開始までに2年を要してしまったのは、事業者の方へのご負担が大きかったのは反省点であり、今後の改善点だと認識しています。

─近藤氏
規制緩和の間に立って事業を取り持つという点では、東京都がしっかりその役割を果たしていただいた印象を持っています。
一方で、雇用や福祉的な支援の現場が市区町村にあることを考えると、都道府県が障害者雇用の現場感覚を理解したうえで介入できるのか、という部分が、取組を進めていく上での課題としてあるのではないかと思っています。特に東京都の場合は特別区という行政区分もあるので、より複雑だったのではないでしょうか。

─福寿氏
正直なところ、準備の期間中、あまりの大変さに5回くらい心が折れそうになったこともありましたが、この特区の取組に今後の障害者雇用促進の可能性を感じていたので頑張れたと思います。
算定特例の制度を使うために認められている組合が、元々は事業協同組合や水産加工組合の設立に時間を要するに限られていたので、設立に時間がかからないLLPを算定特例の枠組みに含むことで、より迅速に事業を始められるのが当初の狙いだったと思います。ただ、実際には、特区内でこの取組を進めるために算定特例を認めてもらうのに時間がかかってしまい、LLPのメリットを十分に発揮するのが難しかったように思います。
加えて、算定特例自体は活用方法によっては障害者雇用を促進できる可能性があるのですが、今回のLLPによる仕組みは特区内での取組であることから、LLPに参画し障害者雇用を推進する事業者が東京圏内に立地する事業者に限定されてしまうことも課題だと考えています。
全国の障害者雇用に関してノウハウがある企業や、障害者雇用を促進したいと考えている企業のマッチングが図れる仕組みをつくっていきたいと考えています。結果的に、2年という期間は非常に長いものでしたが、新しい雇用の仕組みをつくるために、たくさんの考える機会をいただけたと今では思っています。

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一人の起業家としても積極的に情報発信を行っている福寿氏。
その視点は自社の事業という枠にとどまらず、国の制度のあり方にも及ぶ


─高須氏
本件で特に時間を要したのは、特例を活用するにあたっての資格要件や事業計画の確認の部分でした。ただ、今後こういった事例が増えてくれば、国の審査の過程もより効率的に運用されると思っています。
加えて、福寿さんからおっしゃっていただいた特区の圏域に関する課題については、特区の性質上やむを得ない部分もありますが、事業者の目線に立つと使いづらさが感じられるのも理解できます。実際のニーズを踏まえた、使いやすい仕組みを整備していくことが重要だと考えています。


──たしかに、企業の事業展開は行政区域に限定されるわけではありませんし、障害者雇用に対して課題を持っている企業は全国にいらっしゃるわけですから、圏域をまたいだ事業展開も必要な気がしますね。


インクルーシブな社会(誰もが社会の一員として生活できる社会)とは

──ここまで、特区活用の経緯から事業が始まってからのお話をうかがってきましたが、障害者雇用の今後についてはどのようにお考えでしょうか。

─高須氏
今回設立したLLPに参画する企業や団体が増えると同時に、ウィズダイバーシティ以外のLLPも生まれてきてほしいですね。
東京都としては、すべての国家戦略特区に係る取組が、いわゆるビジネス、企業活動に関わるものである必要はないと思っています。もちろん国際競争力を高めていくための取組も重要ですが、それと同等に、東京都で暮らす方々にとって、東京という都市が暮らしやすい街になるための取組も重要だと考えています。
国家戦略特区の枠組みを、誰もが活躍でき、住みやすい社会を形成していくための政策手段として活用していきたいですね。

─近藤氏
今日お話をうかがい、もっと聞きたいことがたくさん出てきました。私は常々、障害者雇用率自体を積算型にするのはどうだろうかという提言をしています。
既存の障害者雇用率の制度では、一人の人が年間を通じて週30時間以上働いて一人分の雇用としてカウントされます。短時間雇用と呼ばれる週20時間以上30時間未満では0.5カウントです。しかしながら、先ほども少しお話した通り、週20~30時間働くことが難しい人もいます。それに対して、例えば、様々な組織や部署で少しずつ超短時間(週数時間~20時間未満)雇用し、それらの労働時間を合算して、所定の条件を満たしていればその企業の一人分の雇用としてカウントする、という方法もあり得るのではないでしょうか。
あるいはそれ以外にも、自治体内での超短時間雇用を合算して、地域の中で、週30時間換算で何名分の雇用を生み出しているのかを可視化するような仕組みがあってもよいのではないか、と思っています。実際に私たちは川崎市や神戸市と連携して、「超短時間雇用モデル」という雇用・労働のモデルを作り、地域の中で超短時間雇用の創出や、安心して働ける本人支援、起業支援の仕組みを地域実装しています。そこでは積算型の雇用率も独自に算出しています。

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積算型雇用を一般企業や地域全体で運用することができれば、
これまで一般企業で働くことが難しかった障害者の就労の機会が広がると期待される


この方法を採用するうえで、個々の企業の人手不足などの働き方改革ニーズに貢献することはもちろんなのですが、その他の課題のひとつは、企業にとってのインセンティブ設計をどうするか、という点です。私たちと協働している自治体では、中小企業に対するインセンティブとして、現在は超短時間での雇用に協力してくださった企業・団体などをウェブサイトや広報に掲載するなどの対応がなされています。今後、さらに加えて、自治体での公共事業への入札時の評価項目に組み込むなどの工夫もできるのではないかと考えています。
また、大事なことは社会正義を誰が担保するかだと考えています。特例子会社や、企業内での障害者の集中雇用の制度は、特別支援学校のように確かに必要な制度であると思います。ただ、特例子会社や集中雇用の部署ばかりが増えてしまうと「障がいのある人は特別な場所があるからそこへいきましょう」となりがちで、そこで働く以外の方法が相対的に考慮されなくなってしまう懸念もあります。
結果として、働き方の選択肢が狭まってしまうことになれば、障がいがあると働きにくい社会になってしまう。選択肢の一つとして特例子会社などがある状況は望ましいですが、インクルージョン(社会的な包摂)を広げていくという意味では非常に悩ましくもあります。
今回のLLPの取組が排除的にならず価値を持ったのは、福寿さんのような信念のある方が事業を主導されている点も大きいと思います。障がいのある人々を雇用していく上で、雇用する経営者にインクルーシブな社会をつくろうとする信念があることが非常に重要です。「とりあえず特例子会社を設置して、エクスクルーシブ(排除的)になったとしても、法律の数字上の規定に対応しよう」という方向に持っていくことも可能ななかで、福寿さんのような方がおられることで、本来目指されてきたインクルーシブな環境が担保されていると思います。
今回のような制度を使って、障がいのある人々にとって本当に働きやすい環境が提供されているのかどうか継続的にレビューすることで、良い取組が増えていくような働きかけを続けていくことが重要なのではないでしょうか。

写真

近藤氏が参画するDO-IT(Diversity, Opportunities, Internetworking and Technology) Japan
が提供する教育プログラムの参加者。今回の取組を契機として、
雇用の枠組みに多様性と柔軟性がもたらされ、
活躍できる機会が今後も広がっていくことが期待される


─福寿氏
LLPの制度は、利用の仕方によってお金儲けのみの手段になる可能性があります。私たちとしては、手掛けている事業の社会性が担保されつつ、継続できる仕組みをつくっていくことが重要だと考えています。
近藤先生が提案する積算型雇用の取組は、企業が取り組む方法としてとても現実性があると思います。最終的には、法定雇用率がなくても障害者雇用が進んでいくことが理想ですが、まずは雇用率の達成を一つの目標として取り組むことが、インクルーシブな社会へ向かう第一歩なのではないでしょうか。
現在、ローランズが障害者雇用の部分を担っていますが、今後はLLPそのものが直接障害者を雇用していける環境にしたいと考えています。例えば派遣の免許をLLPが取得し、LLPに雇用された社員が短時間も含めた派遣業務に従事できるようにして、様々な企業に対してサービスを提供し、その結果、個々の障がいを持った方の労働時間が合算され、規定の時間を満たしているとみなされるような仕組みづくりができるといいなと考えています。新しいアイデアや仕組みを常に考えながら、障がいを持った人にとってより働きやすい環境をつくっていけるようにしていきたいです。

─近藤氏
特例子会社に障がいのある労働者を集約していくのではなく、特例子会社のような場所がハブとなって、様々な企業や組織とのつながりを広げ、インクルーシブに働ける職場を増やしていくという観点がとても重要だと思います。しかも、それが大企業ではなく、中小企業でもできるのが非常に興味深いですね。本来の理念から逸脱することなく、よりインクルーシブな雇用の仕組みが生まれていくことに期待したいです。


──ありがとうございました。

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