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東京では買えない生活や幸せが地方にはある

伊佐 知美さん(編集者、ライター)

移住によってがらりと変わる
日常の暮らし

移住によって、住む場所や仕事、つきあう人が一気に変わります。どこに住むのか、何をするのか、そして誰と一緒に生きていくのか。移住について考えることは、自分の人生を世の中の流れに任せるのではなく、主体的に選ぶきっかけになります。
私自身、新潟県の高校を卒業して、東京での都会生活にあこがれて18歳で上京しました。以来、首都圏を中心に生活してきましたが、20代半ば頃から、「今、求めていることは東京に本当にあるのだろうか」と漠然とした疑問を抱くようになりました。そして「東京を離れること」も考え、移住を実現した女性たちから話を聞くようになりました。
実際、2020年9月から那覇市に短期賃貸マンションを借り、20年10月からは本格的に沖縄県内に拠点を構えるように。現在は、沖縄と東京の2拠点生活を始めています。周囲でも私と同じように地方移住を真剣に考えているケースが増えてきているように感じます。

多くの人にとって移住に関する関心が高まった大きなきっかけの一つが、2011年3月の東日本大震災。それまで、私を含め多くの人が大きな社会的なシステムに身を任せるのが当たり前だと思っていました。ところが、大震災を機に、それでは様々な点で日々の生活が立ち行かなくなることが明らかになりました。その結果、主体的に暮らしを選び取る手段の一つとして地方移住が注目されました。さらに新型コロナウイルスの世界的な感染拡大も、通勤を含む働き方など、これまで当たり前だと思った生活を見直す動きに影響していると思います。


ライフイベント実現も
地方が有利

地方には、買うことのできない生き方や幸せがあることを実感し、移住によって新たなライフスタイルを選択する女性たちが増えてきているように思います。彼女たちは、自らの存在が地域のコミュニティーに認められ、必要とされているということに新たな可能性を見いだそうとしているのではないでしょうか。
就職、結婚、出産などのライフイベントも、都会より地方の方が実現しやすいのではないでしょうか。何と言っても地方移住によって、家賃や食費など生活コストがおおむね下がります。住宅ローンに縛られず、移住先で近所の農家から収穫物をお裾分けしてもらって、野菜やお米をほとんど買わなくなったという知り合いの女性もいます。

自然に触れながらゆったりと子供を育てるのにふさわしい環境も、首都圏のような大都会より、地方の方が整っているのではないでしょうか。地方は決してパラダイスではありませんが、都会に比べて生活と仕事が分断されにくく、自分で納得しながら生活を組み立てていきやすい環境がそろっていると思います。

気に入った服を試着する感覚で「試住」してみる

photo 長沼茂希

移住成功の決め手は、場所選びとしっかりした下調べ。東京には自治体のアンテナショップやふるさと回帰支援センターなどで移住についての相談会などが頻繁に開かれているので、まずそこを入り口に情報収集をしてみるといいでしょう。
移住先は生まれ育った場所に戻るUターンや、気に入ったところに住むIターンなどがありますが、都市部からいきなり田舎に引っ越すのに不安を感じる人には2段階移住を勧めたい。東京から仙台などの比較的大きな地方都市に移住し、そこで情報を集めながら生活に慣れてから、さらに小さな都市に移り住むことで、ライフスタイルの激変によるリスクの軽減を図れます。

移住に関心はあるけど、「やっぱり不安」という方には、「試住」がおすすめ。気に入った服を選ぶときに試着するような感覚で、長期休暇を取って移住してみたい所に短期賃貸マンションなどを借りて住んでみる。暮らしてみて気に入らなかったら、東京に戻ってくればいい。いずれにしても退路を断たず、選択肢を用意しておくことがスムーズな移住をするためのコツではないでしょうか。自治体によっては、こうした移住を促すために長期滞在のプログラムを独自に実施しているケースもあるので、こまめに情報収集をすることが大切です。
移住先で壁にぶつかって、思い悩むことがあるかもしれません。しかし、それらを前向きに乗り越え、移住を通して自分の意志で道を切り開いていこうという人生は、これからのすばらしい生き方になると思います。

PROFILE

伊佐 知美さん

編集者、ライター。1986年、新潟県生まれ。
横浜市立大国際総合科学部卒。これからの暮らしを考えるウェブメディア「灯台もと暮らし」(http://motokurashi.com)創刊編集長として、世界各地を旅しながら取材、執筆活
動を行う。著書に地方に移住した女性に取材した「移住女子」(新潮社)。

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