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i-都市再生ガイダンス  - 都市再生の現場で使える、見える化情報基盤のノウハウ集 -

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「i-都市再生」は、平成30年4月26日に開催された都市再生本部において、見直しを行った「都市再生に取り組む基本的考え方」(以下、「基本的考え方」という。)に新たに位置付けられ、「VR技術や地球地図、ビッグデータ等を活用し、都市再生についての空間的、数値的な理解が直感的に得られる、見える化情報基盤「i-都市再生」を構築、活用、普及させ、関係者の合意形成、投資家の理解促進等により、都市再生の生産性と投資の質の向上を図る。」とされました。

その後、内閣府地方創生推進事務局の所掌の元、i-都市再生推進有識者会議は、i-都市再生の概念と方向性の整理、及びi-都市再生の国際標準化、ツールの企画開発等における技術的な検討を進めることを目的に、平成30年度に第1回を開催し、その後、検討を進めてきたところです。

そうした中、令和2年度には、スマートシティやスーパーシティといった取組との連携など、社会のデジタル化の高まりを踏まえ、これまで「都市再生の見える化情報基盤」として見える化に重点をおいたi-都市再生の取組を、「社会の最適化を図る都市情報基盤」として定義を拡張し、今後は、都市を構成する情報と都市活動に関連する静的・動的な情報とを連携させることで様々な課題の分析、検討、解決を図る取組とすることとしました。

さて、「i-都市再生ガイダンス」(以下、「本ガイダンス」と呼びます)は、「都市再生の見える化情報基盤」としての取組にクローズアップしたものであり、i-都市再生の概要を紹介すると共に、まちづくりの現場で利用されるデータやその活用手法などを取りまとめています。内閣府地方創生推進事務局は、平成30年度以降、地方自治体等でのi-都市再生の普及促進を図るため、地方自治体等の職員の研修等の場として、i-都市交流会議を開催し、これまでに400人以上が参加してきました。本ガイダンスの事例編では、その研修会にて発表のあった各自治体の取り組み事例を基に、活用頻度の高い事例等をとりあげていますので、可視化の取組が初めての読者であっても、具体的にイメージでき、実践に移しやすいものとなっています。

本ガイダンスを読むことで、読者がデータの可視化に興味を持ち、日常業務等で試行し、そのデータを可視化することの必要性・有用性を実感していただくことを期待しています。なお、本ガイダンスは前述のとおり、見える化の取組にフォーカスし、取組内容を網羅的、かつ、現場での活用のために取りまとめた手引書であります。今後は、「社会の最適化を図る都市情報基盤」の構築を目指し、i-都市再生のユースケースの開発やまちづくりの現場での活用に基づいて、日々発展させていくものです。

1.「i-都市再生」概論編

1.1 「i-都市再生」とは

□全国で広がるi-都市再生の取組

「i-都市再生」の名称にも含まれる都市再生については、我が国の活力の源泉である都市の魅力と国際競争力を高めるため、平成13年に都市再生本部を設置し、全省庁あげて取り組んできたところです。以降十数年、経済情勢の激変、都市への投資のあり方に影響を及ぼす革新的な技術が進展してきたこと、東京への一極集中是正がなされず、都市における災害リスクの軽減や地方創生の推進が喫緊の課題となってきたこと等を踏まえ、平成30年4月26日に開催された都市再生本部において、「都市再生に取り組む基本的考え方」(以下、「基本的考え方」という。)が見直されました。

「i-都市再生」は、平成30年に見直された「基本的考え方」において示された新たな取り組みです。この中において「i-都市再生」は、都市再生の見える化情報基盤として位置付けられ、「VR技術や地球地図、ビッグデータ等を活用し、都市再生についての空間的、数値的な理解が直感的に得られる、見える化情報基盤「i-都市再生」を構築、活用、普及させ、関係者の合意形成、投資家の理解促進等により、都市再生の生産性と投資の質の向上を図る。」とされました。以降、技術仕様「i-UR」の公開や、国土交通省と連携した全国自治体を対象とする研修実施などの取組みにより「i-都市再生」の構築、活用、普及を進めており、令和2年末現在、300以上の自治体において「i-都市再生」の取り組みが実施されています。

「これからの都市計画」巻頭見開き
「これからの都市計画」巻頭見開き
資料)日本都市計画学会誌2016.1特別号

また、令和2年12月22日には、国土交通省における3D都市モデルの整備「Project“PLATEAU”」が公開されました。本事業における3D都市モデルの構築においても、「i-都市再生」の技術仕様「i-UR」が活用されており、更に活用の幅が広がることが期待されます。

Project PLATEAU
Project PLATEAU
ウェブサイト)https://www.mlit.go.jp/plateau/【外部サイト】

このような「i-都市再生」を取り巻く状況を踏まえ、令和2年度よりその範囲を「都市再生の見える化情報基盤」から「社会の最適化を図る都市情報基盤」として拡大し、「社会活動の高度化や日常生活における質の向上を実現させるため、都市を構成する情報と都市活動に関連する静的・動的な情報を連携させることで様々な課題の分析、検討、解決を図る取組」としてその定義を改めました。

□スパイラルアップを通じた都市情報基盤の構築

「i-都市再生」は、「社会の最適化を図る都市情報基盤」へ役割を拡大していると説明しました。「i-都市再生」は、単なる情報システムやデータベースではありません。都市に関する様々なデータの収集、蓄積、そして活用するアプリケーション開発やこれらの現場での活用を含む様々な取り組みを包含したものです。

まちづくりの現場において“可視化による的確な課題の把握”が、更なる“都市構造検討の動機”を生み、“課題に対応したデータの収集”を促し、詳細な“可視化による的確な課題の把握”に繋がる正のスパイラルを生み出します。

「i-都市再生」の範囲
「i-都市再生」の範囲

このスパイラルは、「都市構造可視化 」から始まります。Google Earthのようなフリーツールを使い、統計データといった既存のデータを可視化します。そして、データを活用するうちに、様々な可視化のアイデアが浮かび“課題に応じたデータの収集”といったニーズが生まれます。その際に求めるデータが自治体独自に整備されていれば、それを可視化し、現場でより効果的に活用することが可能です。さらに、データ活用に一定の効果が見込めると、新たなデータ収集のための調査や収集されたデータを計画的にストックする動機が生まれ、課題の把握やその解決策の検討により有効に活用されるようになります。

そして、より高度な可視化・分析・シミュレーションのニーズが生じた際は、集計された統計データではなく、CityGMLを使った個々のオブジェクトデータの作成やセンサデータといったリアルタイムなデータの収集、また、これらを可視化するアプリケーションの開発といった、アプリケーション(Cesium 、VR、AR など)の開発といった、データの収集面、データの蓄積面、アプリケーションの開発面でのスパイラルアップが育成されていきます。

「i-都市再生」は、まちづくりの現場におけるスパイラルアップを通じて、住民や事業者、投資家等へまちづくりの課題や効果、将来像を分かりやすく示す「都市再生の見える化情報基盤」として形成し、ここにセンサデータ等を含む様々な分野の静的・動的なデータも蓄積していくことによって、「社会の最適化を図る都市情報基盤」の構築を目指します

1.2 「i-都市再生」でできること

「i-都市再生」では、都市の現状や課題を様々なデータを組み合わせ3次元で可視化することを基本としています。では、なぜ「データの可視化」が必要なのでしょうか。

それは、市町村等が求められる市街地像を検討するにあたっては、自らの地域の特性や課題の把握が必要となるためです。しかしながら、人口や商品販売額、通勤通学等の統計データは、数字の羅列のためわかりにくく、分析や合意形成に際して、扱いづらい面を有しています。「i-都市再生」では、データの3次元での可視化により、都市構造が変化した過程や将来動向などの経年変化、他都市と比較した都市構造等の差異の発見など、地域の特性や課題を一目で確認することが可能となります。そして、これがまちづくりに関する様々な政策検討・立案の場面で活用できるのです。

これまでも「データの可視化」は、地理情報システム(Geographic Information System、以下「GIS」と略します。)により行われてきました。GISは、統計データをはじめとする様々なデータを、2次元の地図上で表示する仕組みであり、データの内容やその数値の大小に応じて色や形、大きさを変えることで、データを分かり易く見せることができる有効なツールです。その一方で、2次元では平面でしか情報を表現できないため、地図を見慣れている人でなければ、現実空間を想像しづらいといった課題がありました。「i-都市再生」では、現実空間に近い3次元上に時系列の観点を加えた4次元でデータを可視化し、一般住民やステークホルダー等といった統計データに馴染のない対象への即知的な理解を得やすくしています。

Project PLATEAU
3次元での可視化の例
立体の建物に浸水面を重ね合わせることで、
建物が水没する様子をよりリアルに表現できる
ウェブサイト)Project PLATEAU

上記の特性を踏まえ、「i-都市再生」ができることとして、4つの目的別に紹介します。

  1. データに基づく地域の把握・分析
  2. 政策の検討・立案
  3. 市民参加や合意形成の促進
  4. その他

1.2.1 データに基づく地域の把握・分析

はじめに「i-都市再生」の最も基本的な活用方法である「データに基づく地域の把握・分析」について紹介します。

□都市構造の可視化

人口等の統計データを、ある大きさのメッシュで区切り、それを3次元グラフ(3Dグラフ)として表示することで、より都市構造を直感的に把握できるようになります
3次元空間では、自由な方向、角度から閲覧することが可能です。また、統計データは全国で整備されているため、市区町村単位だけでなく、都市圏や都道府県などの単位で可視化することも容易です。また、3Dグラフでは人口密度を色で区分し、人口総数を高さで表現することで、異なる2種類の情報を同時に比較することができます。

3Dグラフの表示例
3Dグラフの表示例

また、都市を構成する建物などのオブジェクトを一棟一棟可視化することで、都市構造をより詳細に把握できます。前述の統計データのような一定エリア内での集計データとは異なり、個々のオブジェクトの情報を可視化することで、例えば、各建物固有の属性である建物用途や構造種別、建築年などを色分け表示し、地域の特性を把握できます。さらにこの建物データに、用途地域や浸水想定区域等の区域のデータを重ねることで、区域の見直しや防災等の検討において、地域の特性をより考慮しやすくなります。

建物の表示例
建物の表示例

1.2.2 政策検討・立案における活用

次に、先ほど紹介した3Dグラフや都市オブジェクトの表示により可能となる「政策検討・立案」の場での活用方法について紹介します。

□EBPMに基づく検証

3Dグラフ表示や都市オブジェクトの表示により都市の現状や課題の可視化は、政策検討・立案に役立てることができます。このような取り組みはEBPM(Evidence Based Policy Making:証拠に基づく政策立案)と呼ばれます。EBPMは、政策の企画をその場限りのエピソードに頼るのではなく、政策目的を明確化したうえで合理的根拠(エビデンス)に基づくものとすることです。都市の現状や課題の分析・可視化は、EBPMの具体的な方法の一つと言えます。これまで、都市の現状や課題の把握では、経験値や経験年数が必要とされてきましたが、このようなデータの分析・可視化は、これを一定程度補うことも期待できます。

下図は、洪水浸水想定区域と人口分布とを重ね合わせた事例です。浸水深が深いほど青色が濃く表示されており、グリッドの高さが高いほど人口が多いことを示しています。浸水深が深く人口が多い地域では、洪水時に甚大な被害が生じる恐れがあり、避難所の規模や避難施設までの退避ルートが適正なのかといった確認や、台風などの際の事前の避難計画の立案など、地域の特性に応じた具体的な検討ができます。また、なぜこのような対策が必要なのかといった理由も、こうしたデータの分析・可視化により納得感のある説明ができるようになるでしょう。

洪水浸水想定区域と人口分布との関係
洪水浸水想定区域と人口分布との関係
3Dグラフの高さが高いほど夜間人口が多く、メッシュの色が濃いほど浸水深が深い。

□景観等シミュレーションに関する検証

3次元で表示することで、より現実空間に近い表現が可能になります。例えば、新しい施設を建設する際に、周辺建物への日陰の影響がどうなるのかといったシミュレーションや、建設後の景観やその印象がどう変わるのかといったシミュレーションも可能になります。

VR技術を活用した景観の把握
VR技術を活用した景観の把握

1.2.3 市民参加や合意形成の促進

「i-都市再生」の3次元での可視化は、コミュニケーションを円滑化させ、合意形成等の促進に活用することができます。

□直感的な把握とイメージの共有

「i-都市再生」を活用し、現在と将来の世界を重ね合わせて可視化し、自由に視点が移動できれば、まちづくりに関わる機会が限られる住民であっても、将来のまちを「自分事」として想像しやすくなります。

右図は、建物の3次元モデルを使い、都市計画道路の整備を検討している通りをVRで再現した例です。VRによって限りなく実体験に近い体験を得ることができます。現在の様子を可視化するだけではなく、都市計画道路が整備された通りがどう変わるのか、将来像を可視化することができます。さらに、こうしたVRはインターネットを通じて閲覧やシミュレーションができるため、気軽にツールにアクセスし、専門家に限らず誰でもまちづくりの活動に参加することが可能になります。

これまでまちづくりに関する住民説明や住民参加型のワークショップ等の多くは、集合型で行われることが多く、場所や時間が限定されていました。まちづくりに興味をもっていても、これが制約となり参加できなかった住民がいたかもしれません。インターネットを通じて、いつでもどこでも誰でも参加できる環境を整えることで、より多くの人が積極的にまちづくりに参加することができるようになるでしょう。熟練の技術者やデベロッパー、職員等の知識と経験(ともすれば勘)に頼らずとも現状や将来を把握できるようになるということは、最初に述べたEBPMの実現につながります。

VRによる可視化の例
VRによる可視化の例

AR都市デザイン調整システム
AR都市デザイン調整システム(九州大学)
タブレットのカメラを衛星写真(左図)に向けると、対象地の立体地形モデルが画面に映し出され、地形モデル上に各種属性データが表示される(右図)。対象となる地域の様々な情報をビジュアル化し、複数の人が同時にインタラクティブに得ることで、地域の将来計画や課題を即座に共有・協議できる。

1.2.4 その他

「i-都市再生」の活用分野は都市計画や都市再生の分野にとどまりません。データを可視化することが必要な分野、また、データを可視化することでより効果が見込める分野であれば、どのような分野でも利用できます。

□教育分野での活用

例えば、教育分野が挙げられます。教育分野では、都市計画・まちづくりの重要性の認識が向上しています。一方、現場ではいまなお紙面の地図帳の利用が一般的です。2次元表記による平面的な資料により、「地図が嫌いな子供」・「地図が読めない大人」が増加していると危惧されています。地域・故郷の魅力について考えさせるための工夫も、より一層重視されており、 教育現場では教材のデジタル化への期待が高まっています。都市・地域ごとに整備される「i-都市再生」のデータを有効活用し、地域学習・学校教育を中心に多用途の活用を想定したデジタルコンテンツとプラットフォーム開発の検討を行うことで、まちの 課題や可能性を分かりやすく伝え、理解・関心を深め、将来のまちの担い手育成とITによる運営効率化を図ることが期待できます。

学校教育での「i-都市再生」活用の試行
福岡県宗像市における学校教育での「i-都市再生」活用の試行

2.「i-都市再生」実践編

本編では、「i-都市再生」の実践編と題し、3次元地図上にデータを可視化するにあたり、必要となる知識を紹介します。

□3次元地図と地理空間データ

本ガイダンスが対象とする「データの可視化」は、「3次元地図上でデータを表現すること」です。広義にはデータの可視化とは、「データを目に見える形で表現する」ことですので、文章で記述したり、表形式やグラフ形式で表現したりすることも含まれますが、本ガイダンスでは相手に分かり易くデータが意味する情報を伝えることを目的とし、その手段として、「3次元地図」を使用します。

3次元地図上で可視化できるデータは、「地理空間データ」とも呼ばれます。地理空間データとは、地球上の位置に関連付けることができるデータです。

つまり、3次元地図上でデータを可視化するには、地球上での位置を示す「座標」の情報が必要です。「座標」に相当する情報としては、緯度経度や平面直角座標などがあります。また、座標がなくとも「建物名」「住所」のように、それがどこかを識別するラベル(「地理識別子」と呼びます)が含まれていれば、ラベルを座標に変換することで、3次元地図上に表示することができます。

ここでは、通常のデータとは成立ちの異なる地理空間データの理解を深めるため、「可視化できるデータの種類」「データのフォーマット」を学んだ後、「可視化の実践」として可視化の方法を紹介します。

統計データの可視化
3次元地図上でのデータの可視化例(統計データの可視化)

□可視化の実践フローチャート

本ガイダンスに従い、3次元地図上でのデータの可視化を実践する場合には、その習熟度に応じて以下の2つのフローチャートに従って、本ガイダンスを読み進めてください。

可視化の実践フローチャート

はじめて可視化に取り組む方は、データの可視化とはどのようなものなのか、まずは実際に目で見て体感いただくため、ブラウザを使って登録済みのデータを可視化してみましょう。

自分がもっているデータを重ねてみたい、など、より高度な可視化に取り組みたい方は、どのようなデータを可視化することができるのか、どうしたら可視化できるのかなど、順を追って可視化に取り組みましょう。

 

2.1 可視化できるデータの種類

まちづくり等の現場において活用でき、かつ、可視化できるデータは、①各自治体が整備・更新する法定図書②統計局等の機関が公開しているオープンデータに分類できます。これらのデータの特徴や使用する際の留意点について、紹介します。

□法定図書

まちづくりの現場において活用できる情報の要件として、「信頼性」、「網羅性」、「継続性」が挙げられます。証拠に基づく政策立案であるEBPMの推進には、必然的に「信頼性」の高いデータを使用しなければなりません。また、数値的な納得を得るには、都市間の比較や経年変化の把握が必要で、これには日本全国で同じ項目が時系列で整備されている「網羅性」「継続性」が必要です。

上記のような要件を満たす情報として、行政が法令に基づき整備する情報があります。例えば全国で5年毎に整備される国勢調査は、国や地方だけでなく、民間企業や研究機関などでも経営や研究などの基礎データとして、幅広く使用されるため、統計法にて基幹統計調査としての位置づけが規定されている情報です。

また、各自治体において作成される各種法定図書も「信頼性」、「網羅性」、「継続性の」揃ったデータであり、下表は、各自治体が法令に基づき定期的に更新する法定図書として作成する代表的な地図です。地図だけではなく、台帳や調書にもまちづくりに必要な様々な情報が含まれています。例えば、都市計画基本図は、都市計画法に基づく都市計画基礎調査において定期的に作成され蓄積されます。この調査結果は、その変化を把握するだけでなく、立地適正化計画の作成や事業実施等各種まちづくりの施策の各過程において、客観的・定量的な評価・分析などに活用する重要な情報であるといえます。


法定図書として作成される代表的な主題図

図面の名称 所管部門 規定縮尺 関係法令
都市計画基本図 都市計画部門 1/2,500以上 都市計画法第 14 条
都市計画法施行規則 第9条第2項
地番・家屋現況図 固定資産部門 1/1,000以上 地方税法第 380 条第 3 項
地番現況図・家屋現況図基準マニュアル(平成 16 年 3 月 財団法人資産評価システム研究センター)
道路台帳平面図 道路管理部門 1/1,000以上 道路法第 28 条
道路法施行規則 第2条
下水道台帳平面図 下水道部門 1/600以上 下水道法第 23 条
下水道法施行規則 第 20 条3の二
水道台帳平面図 水道部門 水道法第 22 条の三
水道法施行規則 第 17 条三の3

また、法定図書の活用の際の主な留意点は以下の2点です。

  1. 利用制限の有無

    法定図書は、特定の目的に限定して情報収集されている場合があり、これを越える利用は目的外利用として認められない場合もあります。一方で、同じような情報を重複して整備することはコストや情報管理の点で問題となるため、庁内での効率的な情報共有・活用・保護の観点から所管部門との協議が重要となります。

  2. 個人情報の有無

    前述の都市計画基礎調査のように、土地利用や建物に関する詳細な情報を含んでいる場合には、その情報の組み合わせから、個人あるいは個人の資産を特定することが可能となり、個人情報保護の観点で活用ができない可能性があります。現状では個人情報保護の取り扱いは未整理な部分がありますが、利用範囲を限定し、情報管理を徹底する、また、街区や地区等で情報を集計することで個人が特定できないようにする、等の工夫により課題を解決することが重要です。


□オープンデータ

オープンデータとは、国、地方公共団体及び事業者が保有する官民データのうち、国民誰もがインターネット等を通じて容易に利用(加工、編集、再配布等)できるよう公開されたデータです。「i-都市再生」でも、オープンデータを積極的に活用することで様々な検討や分析が期待できます。オープンデータの意義・目的は「1.国民参加・官民協働の推進を通じた諸課題の解決、経済活性化」「2.行政の高度化・効率化」「3.透明性・信頼の向上」であり、この意義・目的を達成するため、オープンデータは以下の項目を満たさなければなりません。

  1. 営利目的、非営利目的を問わず二次利用可能なルールが適用されたもの
  2. 機械判読に適したもの
  3. 無償で利用できるもの

参照:オープンデータ基本指針(平成29年5月30日高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部・官民データ活用推進戦略会議決定)

近年の公共データの活用促進の流れを受け、様々な機関がデータのオープン化を行っていますが、まちづくりの現場では、信頼性や公平性の高いデータが必要であるため、できるだけ現状を反映した新しいデータの使用が求められるとともに、他データと組み合わせて使用する際には、作成時点が大きく異なっていないか、特に注意する必要があります

「i-都市再生」での活用に際し、国機関等が公開するオープンデータの事例については、「i-都市再生ガイダンス別冊4」を参照してください。



2.2 データのフォーマット

法定図書をはじめとする既存データは、利用目的ごとに最適化されており、データフォーマットは様々です。一方で、データ毎のフォーマットの違いが、3次元地図上での可視化においても、分野を横断した多様なデータの連携・利活用を阻害する大きな原因となっています。

また、流通用データフォーマットが多岐にわたる場合、データの受け入れや、出力ごとに、インタフェースの開発が必要ですが、流通用のデータフォーマットが標準化できれば、それに合わせたインタフェースの開発のみで様々なデータを利用することができるようになるのです。

このような問題を解決する仕組みとして「i-都市再生」では、データフォーマットの標準化に向けた取り組みを進めています。

以下では、3次元地図上でのデータの可視化にあたり、3種類の標準フォーマットを紹介します。

  1. CityGML/i-都市再生技術仕様(案)
  2. KML(Keyhole Markup Language)
  3. 3D Tiles

なお、データフォーマットの標準化は、オープンデータを含むデータ流通の標準化であり、現場におけるそれぞれの利用場面で最適化されたフォーマットの利用を否定するものではありません。

データフォーマットの標準化による利活用促進
データフォーマットの標準化による利活用促進

1.CityGML/i-都市再生技術仕様案

建物をCityGMLで記述した例
建物をCityGMLで記述した例
1棟1棟の建物が属性をもち、属性を使った色分けや分析が可能

CityGMLは、3次元の都市を地理空間データとして記述、管理、交換するためのXML形式の一つであり、地理空間データに関する国際的な標準化団体であるOGC(Open Geospatial Consortium)で策定された国際標準です。CityGMLでは、建物(Building)、土地利用(LandUse)、道路(Road)、橋梁(Bridge)のように、都市を構成する様々な地物やその基本的な属性があらかじめ「タグ」として定義されています。あらかじめ定義されたタグを使用することで、そのデータが何のデータであるかを機械的に解釈することが可能になるのです。そのため、データの分析や表示の切り替えが容易になります。また、i-都市再生技術仕様(案)はCityGMLにはない都市再生に必要な情報を、CityGMLの拡張ルールに準拠して追加したフォーマットであり、CityGMLの一種です。

2. KML(Keyhole Markup Language)

メッシュ単位の空き家率をKMLで記述した例
メッシュ単位の空き家率をKMLで記述した例
Google Earth上で容易に可視化できる
3Dグラフの高さが高いほど空室数が多く、メッシュの色が濃いほど空室率が高い

KMLは地理空間データとこれに関連するコンテンツを格納するためのXML形式の一つであり、OGCで策定された国際標準です。KML は簡単にインターネットで配信して、Google Earthなど多くの無料アプリケーションで表示できるため、地図やGISになじみのない ユーザと地理空間データを共有するための一般的な形式になっています。ファイル拡張子は、.kml または .kmz(圧縮された KML ファイル用)のいずれかです。Google Earthはフリーツールであるとともに、データも都市構造可視化サイト等のサイトからダウンロードが出来るため、最も簡単に可視化に取り組めるデータ形式の一つです。

3. 3D Tiles

3D Tilesは、3次元の建物データのようなオブジェクトのデータ、航空写真のような画像データ、BIMCIM で蓄積されるデータ、あるいは、レーザー点群のような点群データ などの 3次元の地理空間データをインターネット上で配信し、ブラウザで表示するために設計されたデータフォーマットです。空間データの構造とタイルフォーマットを定義しており、OGCにも標準として採用されています。3次元の地理空間データは情報量が多く、データ量も膨大となります。そのため、3D Tilesではデータをタイル化することで快適な表示パフォーマンスを実現することを目指しています。

ここで「タイル化」とは、データをタイル状に分割することです。タイルごとに処理を行うことで負荷を軽減できます。

Cesiumを使って表示した例
CityGMLで記述した建物データを3DTilesに変換し、Cesiumを使って表示した例
膨大なデータの表示を高速化できる

2.3 可視化の実践

本項では3次元地図上でのデータの可視化の方法と、可視化したデータの活用方法を説明します。

3次元地図上でのデータの可視化には、様々な方法があります。ここでは、「ブラウザを使用して可視化する方法」「可視化用のアプリケーションを使用して可視化する方法」の2種類に分類し、その方法を紹介します。

可視化の方法

可視化の方法 特徴
ブラウザを使用
(ウェブサイトの閲覧)

特別なソフトウェアをインストールする必要がなく、インターネットを閲覧するブラウザで3次元地図上でのデータの可視化が行える。ブラウザに対応する端末であれば、ノートパソコンやタブレットなど、様々なデバイスで閲覧できる。

ただし、閲覧先となるウェブサイトに登録されたデータしか閲覧ができない。また、閲覧にあたりインターネットへの接続が必要となる。

可視化用のアプリケーションを使用

可視化用のアプリケーション(ソフトウェア)を閲覧したい端末にインストールしなければならない。そのため、ソフトウェアが対応している端末、OS などの利用環境に制限がある。

一方で、自身が保有しているデータをアプリケーションで可視化できるため、利用に当たっての自由度は高い。

それでは、それぞれの方法について具体的な利用方法をご紹介しますが、特に本ガイダンスでは、都市構造可視化の実践に重点を置き、次の表の「都市構造可視化計画ウェブサイト」及び「Google Earth&Mandala」について具体に紹介しています。

2.3.1 可視化の方法

ブラウザ上で作業を行う方法は、作業端末にアプリをダウンロードできない場合でも可視化の実践ができ、導入性に優れた方法といえます。

一方、業務端末へのアプリケーションのダウンロードが必要な方法は、ブラウザ上での可視化に比べ導入性に劣りますが、「Mandala」を活用することで、各団体が所有するデータを3Dグラフに変換し「Google Earth」上で自由に可視化できるなど、自らのアイデアを実践する操作性に優れた方法といえます。

可視化の方法 特徴 可視化できる情報 必要な設備 データ形式 導入性
(1)都市構造可視化計画ウェブサイト サイト管理者による登録済みの各種統計データを選択し、3Dグラフの可視化が可能。KML等のダウンロードが可能。 サイトに登録済みの各種統計データ ブラウザ KML
(2)PLATEAU View 全国56自治体が保有する統計データやGISデータに加え航空測量で得た情報の可視化が可能。また、地物に対する属性情報の確認も可能。 建物の3Dモデル都市計画基礎調査、各種統計データ ブラウザ
CityGML
3DTiles
(3)Google Earth KML形式のデータを、Google Earth上で可視化する。 (1)でダウンロードできるデータ、Mandalaにて変換した独自データ GoogleEarth(無料) KML
(4)Mandala 自治体が保有する独自のデータやGISデータをKML形式に変換することが可能。 Mandala(無料) KML

(1) 都市構造可視化計画ウェブサイト

都市構造可視化計画ウェブサイト(https://mieruka.city)は、都市の様々なデータを可視化するサイトです。人口や商業販売額などの統計データをGoogle Earthの地図上に立体的に表示し、都市構造を一目で確認できます。

都市構造可視化の取組は2004年に国土技術政策研究所から始まり、2007年関東地方整備局、2011年には復興省、2013年には福岡県と様々な場所で使われながら発展してきました。2016年から現在にかけて、内閣府及び国土交通省都市局がその取組を全国に広げる活動を行っています。また、国立研究開発法人建築研究所、日本都市計画学会都市構造評価特別委員会の協力のもと、2015年に福岡県にて都市構造可視化計画ウェブサイトが作られ、いつでも、誰でも、容易に都市構造の可視化に取り組めるようになりました。

ここでは、可視化の特徴の一部を紹介します。詳しい使い方は、「研修資料(初級編)」をご確認ください。

<統計データを3次元で可視化:地域の特性(色)とデータ(高さ)を同時に可視化可能>

経年変化を連続的に可視化

<経年変化を連続的に可視化:都市の成り立ちと将来を連続的に可視化可能>

経年変化を連続的に可視化

(2) PLATEAU view

PLATEAU viewでは、全国56都市の3次元都市モデルやその属性情報をブラウザ上で可視化することができます

ブラウザ上で可視化できるデータは、自治体が所有するGISと航空測量で得られた都市情報を「i-都市再生」の技術仕様案であるCityGMLに集約し、それを3D Tilesに変換したものです

PLATEAU viewでは、例えば建築物の階層や階高の情報や洪水等による浸水高さの情報が集約されており、ブラウザ上で災害危険性が高いエリアを可視化することが可能です

こうした取組はProject ”PLATEAU”と題し国土交通省都市局が進めているところであり、3D都市モデルデータを活用したソリューションの創出を目指し、当該データのユースケースの開発やオープンデータ化を進めています。

Project “PLATEAU”で構築された3D都市モデルでは、様々な法定図書やオープンデータが利用されています。参加した自治体ごとに、それぞれのユースケースに必要な情報を検討し、利用可能な法定図書やオープンデータを組み合わせています。

<3次元で建物を可視化:1棟1棟の建物が属性をもち、属性を使った色分けや分析が可能>

3次元で建物を可視化

<様々なデータとの重畳:三次元の情報を重ね合わせることで都市計画や防災、景観等様々な分野で活用可能>

様々なデータとの重畳

Project"PLATEAU"で使用されたデータの例

3D都市モデルを構成する地物 利用された法定図書等
建物 都市計画基本図、家屋現況図、建物利用現況(都市計画基礎調査)、基盤地図情報
道路 都市計画基本図
地形 公共測量成果(レーザー点群、航空写真:各種法定図書作成時に取得された測量データ)、基盤地図情報
土地利用 土地利用現況調査(都市計画基礎調査)
都市計画区域、区域区分、地域地区、用途地域 都市計画図
災害リスク 国・都道府県で作成された洪水浸水想定区域図、津波浸水想定、国土数値情報(土砂災害警戒区域)
Google Earth & (4)Mandata(変換ツールを使った独自データの可視化) 自治体等が独自に保有するデータは、KML形式に変換することで3次元地図であるGoogle Earth上で可視化できます。ここでは、フリーソフト「MANDARA」を用いた作成方法と、ブラウザから利用できる「KMLファイル作成システム」を用いた作成方法があります。

2.3.2 可視化したデータの活用

ここでは、地理空間データ上で可視化したデータの活⽤⽅法・⾒⽅について紹介します。

(1) 経年変化の把握

我が国では時系列で蓄積された統計データがいくつもあります。また、過去だけではなく、将来の推計データがある場合もあり、これらを利用すると、過去から現在、そして将来に至る、都市構造の変化を容易に把握することができます。

経年変化の把握の例
経年変化の把握の例

(2) 都市間の比較・経年変化の比較

同一の基準で集計されたデータであれば、複数都市を同時に表示することで、都市構造を比較しながら把握することができます。また、複数の都市の経年変化を比較することで、これまでの都市政策等による都市構造の差異なども明らかにすることができます。立地適正化計画などの都市計画政策の効果を、先行自治体の都市構造の可視化により検証し、自らの自治体の取組に反映することも考えられるでしょう

都市間の比較例
都市間の比較例

(3) クロス分析

統計データをメッシュ単位に揃えることで、様々な分野の統計データをクロス表示することができるようになります。これにより、公共交通の利便性と夜間人口の関係など、指標間の関連性を可視化することが可能です

公共交通利用圏、インフラの整備状況、災害危険度のような地域の特性を「色」で、人口、小売業販売額などの統計データを「高さ」で表現することで、それらの相関を可視化することができます。

統計データのクロス表示

例えば、公共交通利用圏と人口とを重ね合わせてみましょう。すると、公共交通利用圏、特に鉄道沿線に人口が集積していることが分かり、都市の発展において公共交通が大きく寄与していることが推定できます。

クロス分析の例(公共交通利用圏と人口分布の関係)
クロス分析の例(公共交通利用圏と人口分布の関係)

また、津波被災エリアと人口とを重ね合わせてみましょう。すると、津波被災エリアに人口のほとんどが含まれていることが分かります。津波による人的被害が甚大となることが予想され、避難計画や防災まちづくり計画においては、この現状を考慮した検討が求められるでしょう。

クロス分析の例(津波被災エリアと人口の関係)
クロス分析の例(津波被災エリアと人口の関係)

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3.「i-都市再生」事例編