ポストコロナ禍の移住、ポイントは
「ライフスタイルを変える移住」か「変えない移住」か
移住相談者は40代以下で全体の74.1%
コロナ禍によって、若者の地方移住に対する見方や考え方が変わってきているのではないか。こんな仮説をぶつけるため、ふるさ回帰支援センターで副事務局長を務め、市民協働のまちづくりを専門としている稲垣文彦さんに「20代、30代の移住観」について話を聞きました。
2020年の1年間、地方移住の相談を受け付ける「ふるさと回帰支援センター(東京)」での移住相談者の年代は20代以下が全年代の19.9%、30代は過去最高の30.5%になりました。さらにこれに40代を加えると、40代以下で相談者全体の74.1%に達し、過去最高の割合になりました。
かつては移住というと、「定年を迎えたシニア世代が第二の人生をゆったりと過ごす」というイメージもありましたが、次第に若い人たちが検討する機会も増え、さらに子育て世代の移住希望者が多くなっています。
移住を希望する地域に変化も
希望の地域では、県庁所在地など「地方都市」が68.5%と最も多くなっていますが、「農村」(22%)、「山村」(15.6%)を希望する人も少なくありません。また、希望する就労形態では「就職」が68.9%と最も多く、「農業」13.3%、「自営業(新規)」13.5%と続いています。
2020年度の傾向で特徴的だったのが相談者の希望地域についてです。例年人気の静岡県、山梨県、長野県といった地域に加え、神奈川県や群馬県、茨城県が上位に入りました。コロナ禍以前にはなかった新しい傾向です。これは、首都圏に勤務する人たちがコロナ禍で在宅勤務になったことが影響していると思われます。これまで「職場へのアクセス(の良さ)」を重視していた層が、同じ家賃で「もう一部屋増えるなら」と引っ越しに近い感覚で移住を検討したということではないでしょうか。移住しても、新幹線などで2時間以内にすぐに会社がある東京に移動できる。そういう意味で関東人気が高くなりました。
「ワーク・ライフ・バランス」と「地域貢献」
コロナ禍においては「テレワーク移住」や「ワーケーション」といった移住に関する新しいワードが聞かれるようになりました。首都圏に勤務する人たちがコロナ禍で在宅勤務となり、引っ越しに近い感覚で移住を検討するという、新たな移住のスタイルと言えるでしょう。その一方で、首都圏からは距離のある農村・山村を抱える自治体の移住相談担当者と話をすると、最近の移住相談におけるキーワードが浮かび上がってきました。それは、「ワーク・ライフ・バランス」、「地域貢献」などです。
この「ワーク・ライフ・バランス」と「地域貢献」をそれぞれ縦軸と横軸に取り、整理してみました。「ワーク・ライフ・バランス」は“ライフスタイル”と言い換え、ライフスタイルの変化度合いを表します。横軸の「地域貢献」は、“地域(人)との関わり(つながり)”と言い換え、その度合いを表します。
この中に相談者のニーズと希望する地域類型を入れ込むと、「地方都市(市街地)」や「農村や山村」を(表3)のように置くことができます。先ほど挙げた「コロナ禍で在宅勤務が増え、職場へのアクセスを重視していた層がもう一部屋の余裕を求めて移住を検討する」のは地方都市(市街地)での生活に該当すると思いますが、あまりライフスタイルの変化そのものには大きな変化を求めていないように思います。他方で、地域(人)との関わり(つながり)を重視する農村や山村での生活では、これまでの便利な都市生活から大きくライフスタイルを変えることになります。
移住そのものに出てきた多様性
最近では、「都市で消費するばかりの生活に飽きてしまい、地方で何か生産に関わりたい」といった若者の声も少なからず聞くようになりました。移住を検討する際はライフスタイルだけでなく、地域環境に対する考え方や価値観も大きく関わっています。
これは移住そのものに多様性が出てきたということだと思います。少し前まで、移住とは「地方移住」のことであり、仕事も変え、ライフスタイルも変えなければならないような大がかりなことでした。いまは、関東近県や今の生活とあまり変わらない地方都市への移住など、選択肢が増えました。もちろんこの中間にポジショニングするような移住の形や移住先もあり、その間にはグラデーションがあると思います。自分のライフスタイルや幸せに合った、しなやかな思考が必要とされていると言えるでしょう。
(2021年11月取材)