働き方、ライフスタイルの多様化が「人口移動」に変化をもたらす
東京一極集中の是正は進むのか・・・。第一生命経済研究所総合調査部マクロ環境調査グループ副主任研究員の奥脇健史氏に話を伺いました。
総務省が発表した住民基本台帳に基づく人口移動報告によれば、2021年、東京圏(東京都、千葉県、埼玉県、神奈川県)では、転出者数が2014年以降最多となり、特に東京都では、転入者が転出者を上回る「転入超過」が前年から8割減の5433人となり、過去最少を記録しました。また、東京23区(東京都特別区部)に限れば、初めて「転出超過」となったことが注目を集めました。
この数字を見て奥脇氏は、「コロナ禍で自宅に居ながら仕事をする「テレワーク」が浸透したことなどが影響しているとみられ、2022年には、3年ぶりに超過幅が拡大したものの、今後も働き方やライフスタイルの多様化が人口移動に変化をもたらすことが予想されます。多様な働き方を選択しやすい環境が整いつつあり、業務のオンライン化、デジタル化が進んだ結果、出社を必要としないフルリモート勤務を採用する企業なども出てきています」といいます。
ただ、東京都からの転出先は、東京圏内(埼玉、千葉、神奈川の近隣3県)が多く、2022年では約56%を占めます。しかし、奥脇氏によれば、「『通勤時間30分以内』といったようなこだわりがなければ、勤務先が東京都心であっても、良い住環境を求めて通勤に2時間近くを要するような少し離れた東京圏外のエリアを選ぶ人は少なくない。特に、フルリモート勤務を採用する企業であれば、例えば地方に住みながら都市部にオフィスがある企業でも勤務が可能であり、地方でのテレワークで「転職なき移住」を実践できる土壌が育ちつつあるといえるでしょう」
人口移動では、20代を中心に若い世代の動向も注目されます。若い世代は進学や就職をきっかけに地方から東京圏など大都市圏に流出するケースが少なくありません。実際、東京圏への転入超過は20~24歳が最も多いのが実情です。ただ、変化の兆しがないわけではないようで、奥脇氏は「若い世代は転職への心理的なハードルが低くなっています。労働移動の活発化は比較的新しい考え方を持つ若年層から進むと考えられ、労働環境や住環境など個人が重視する条件を満たせば、Uターン・Iターン就職を希望する動きが見えやすくなる可能性がある」としています。
(2023年3月作成・肩書は取材時のものです)