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事例 企業

類型離職防止、地方人材の採用・育成、ワーケーション推進を目的とした企業等

地方の人材を掘り起こし 地域に生かす

高橋 亮介さん

株式会社クリーク・アンド・リバー社
エリア推進グループ

地域

東京都

加藤 寛之さん

株式会社クリーク・アンド・リバー社
ソーシャル・プロデュース・グループ

地域

東京都

株式会社クリーク・アンド・リバー社(以下、C&R社)は「プロフェッショナルの生涯価値の向上」「クライアントの価値創造への貢献」というミッションを掲げ、プロデュース(開発・請負)、エージェンシー(派遣・紹介)、ライツマネジメント(知的財産の企画開発・流通)事業を手がけています。東京本社と大阪支社の他、5拠点を開設して地域戦略を進め、新たな雇用を生み出すとともに地域の人材に活躍の場を提供しています。また、自治体との協働によりクリエイターを活用した地域産業の活性化にも取り組み、成功事例を積み上げています。二つの取組について、それぞれの担当者に伺いました。

地方創生テレワークのきっかけ

地方に眠る人材を発掘し活躍の場を提供する

高橋さん)C&R社は1990年に創業し、映像・ウェブ・ゲーム・広告制作などに携わるプロフェッショナルを企業に派遣するなどの事業を行ってきました。長年、東京・大阪・名古屋の3拠点で活動していましたが、「全国各地にはまだ活躍しきれていないクリエイターがいるのではないか」と2018年にエリア推進グループを立ち上げて地方展開を積極化し始めました。
最初に札幌に拠点を開設したところ、地元には実際に優れたクリエイターが多くいて、またそれらの人材を活用したい企業の潜在的ニーズも高いことが分かりました。「他の地域へ展開することで地方に住むクリエイターの生涯価値を上げ、活躍の場を作っていける」と考え、現在は札幌の他に福岡、仙台、沖縄にサテライト拠点を設けています。
沖縄以外の地方拠点は、進出前に進出先自治体に相談したり、お声がけしたりせず、まずは費用やリスクをミニマイズするために関係会社の支社や営業所の空きスペースを借りる形でスタートしました。(沖縄の拠点は開設時からコワーキングスペースを借りています。)

「クリエイター×仕事」で地域にイノベーションを起こす

加藤さん)私が携わるソーシャル・プロデュース・グループは、クリエイターの新しい活躍の場を日本全国で作るという高橋の部署と同じ思いのもと、異なるアプローチで事業を展開しています。高橋の部署では当社の既存ビジネスをローカライズしますが、私たちは地域発の事業に全国のクリエイターのアイデアを活用し、伴走支援を行います。ボトムアップ型の地方創生を目指すという取組を推進中です。地域内で人材と仕事を組み合わせることで、交流・関係人口の増加や経済の活性化、地域アセット(資源)の発掘につなげて、地域活性化につながるイノベーションを起こそうというものです。
地方の課題の一つに「UIJターン者向けの仕事が少ない」ことがあります。例えば製造業が盛んでも、大企業の下請けばかりでは首都圏で働く人にとっては魅力的に映らず、人口の流出も止められないようなケースも出ていると聞いています。既存事業を続けながら新たに「自分たちならではのものづくり」を開発することで、UIJターンを含む日本全国のクリエイターがスキルを活かせる仕事を生み出したい。そのような視点で、2018年頃から地域に根差す事業に新たな価値を付加する取組を始めました。

取組内容

「幅広い領域のプロフェッショナル集団」として地方へ展開

高橋さん)地方人材を獲得し、活用することを担当する私の部署で、進出先候補として選んだのはいずれも比較的規模の大きな地方都市でした。各拠点とも一定規模の人数の採用を想定していたこと、クライアントとなる地域の企業数が見込めることがその理由です。この条件に加えて、社内に地域の実情を知る札幌出身者がいたので、最初の拠点として札幌を選びました。彼を拠点長とし、もともとつながりのあったテレビ局や新聞社を通してクリエイターを紹介してもらうところから始めました。特に大きな広告を打っての募集はせず、紹介の他には自社の求人媒体やイベントを通して周知していきました。まず人材が集まらなければ始まらないわけですが、想定していた以上に多くの素晴らしいクリエイターに出会うことができました。
実際に動き始めると、「Uターンして、クリエイティブ関連の仕事をしながら農業や家業の手伝いをしたい」など柔軟な働き方を希望する人も多くいました。また、地方のクリエイターの傾向として「地元に愛着がある」「地方ならではの良さを発揮したい」という、「地方の時代」を体現する姿勢があり、そこから生まれるアイデアやクリエイティブ等は、地域を理解している人材を求めていた地域の企業から高く評価されました。

九州オフィスで働くクリエイター等

札幌の事業が軌道に乗ったことで「地方にはクリエイターが眠っている」と確信でき、福岡、仙台、沖縄へも順次展開しました。その中で、地方都市にはそれぞれ特徴があり、課題や未来の方向性も異なるということが見えてきました。C&R社の事業も画一的な横展開ではなく、それぞれの地域の実情や実態に寄り添った対応が必要になるので、地域の営業担当はなるべく地元出身者を責任者として配置しています。それでも初めは「よそもの」として壁を作られることもありますが、「東京の情報とノウハウを引っ張ってきて地元を元気にしたい」という思いを伝えながら営業活動をしています。各拠点には地元の派遣会社や制作会社といった競合もありますが、われわれの強みは、映像やゲーム、医療、法曹、ITなど18分野にわたる幅広い領域のプロフェッショナルネットワークや在籍社員が専門の知識を備えていること、東京の本社に集まった多くの情報の共有スピード、正確性にあると考えています。

製品開発・事業創出を担う人材を地域に生み出す

加藤さん)ソーシャル・プロデュース・グループンで行うのは、クリエイターに活躍の場を提供しつつ、地域の活性化を目指す事業です。飛び込み営業的なことは行わず、一つの事業から派生的に新たな仕事が生まれたり、紹介を受けたりして、自然に広がってきたところです。しかし地域のアセットや実情、課題はそれぞれ異なるため、事例は一つ一つ違います。
例を挙げると福島県の福島県商工労働部産業振興課からの委託事業である、公益財団法人福島イノベーション・コースト構想推進機構(福島イノベ機構)では、、下請けの仕事が多い製造業を提案型・開発型の企業へ転換するプロジェクト(「デザイン思考のモノづくり企業支援事業」)を実施しました。デザイン思考を活用した新製品開発や新規事業創出に向けてワークショップやセミナーを開き、各企業への個別支援も行いました。これらの実績が評価され青森県からは「青森県内でも実施してほしい」という依頼を受け、メーカーの製品開発に対する伴走支援を行いました。それぞれの地域で、プロダクトデザイナーやインダストリアルデザイナーはじめとするクリエイターと、高い技術を持った地域企業とのコラボレーションが実現しています。また、プロジェクトごとに様々な地域にいるクリエイターもテレワークを通じて有機的に関わり、新たな価値を生み出しています。香川県東かがわ市では、国内シェア90%を誇る手袋生産を観光に生かすプロジェクトにもお声がけいただきました。どのエリアでも大切なのは、地域の人材が強い意志で事業を担い発展させていくこと。われわれが主導するのではなく、主導する人材を育成します。

福島県での事業化プログラムピッチイベント

福島県でのワークショップ

地域によっては、「東京からきたプロデューサーに地域の課題や実状が理解できるのか」と懸念されることもあります。そのため、「この地域の魅力と価値を国内外に広く発信し、地域に流通するお金の総量を増やしたい」という思いを理解してもらえるよう心がけています。 最初は、産業支援機関や中小企業支援機関といった地元のリアルな課題を熟知している組織とつながりを作り、彼らと一緒に動くことから始めます。すると商工会の中心的存在や、商店街などでユニークな活動をしている団体・人と会い、話す機会も増えていきます。そこで仲良くなって「地域の資源を活用して面白いことを仕掛けよう」と提案ができるようになっていきます。 特に事業を承継した二代目、三代目といった人たちは、漠然と何かしたいと思っているのに「何か」が具体化できなかったり、親世代との価値観のギャップに悩んだり、動き出すきっかけがなかったりしていて、アイデアや後押しがあればイノベーションを起こせるケースが少なくありません。そういった熱意のある若手経営者らが共感してくれて、協働することが多いですね。

「ローカルtoローカル」の広がりと人材育成

高橋さん)進出した都市の拠点で抱える登録者数が増え、札幌はウェブデジタル系、仙台はテレビ業界といった具合にそれぞれが特色や強みを持ち始めました。このことにより、地方企業のニーズとクリエイターのマッチングが効率的に進み、クリエイターは地方に住みながら自分の強みを生かした活躍の機会が広がっています。またテレワークを活用し、一つの案件に複数の地域のクリエイターが携わるケースも増えてきました。地方同士が弱みを補完しつつ強みを生かしながらつながる「ローカルtoローカル」は、地方のクリエイターにとって活躍のフィールドを大きく広げる可能性があります。また、全国で約400人のライター、カメラマンが登録するネットワークも保有しており、こちらも年々ニーズが高まっています。
新卒採用も年々増加し、2023年は関連会社を含まないC&R社単体で前年から約2倍となる200名超が入社しました。そのうち約20%が自ら地方拠点を希望して就業しています。ほとんどが入社後すぐにクライアント企業に常駐して現場を学び、クリエイターとして成長していきます。その間、勉強会やオンラインセミナー、情報提供といったサポートは切れ目なく行います。 また、C&R社ではスキルアップした社員への独立・転職サポートをしています。会社で力をつけ、やりたいことを見つけ人たちにどんどん自立してもらうことで、地方人材が育ち地域が活性化し、ひいては自社の利益にもつながると考えています。

地域にモノだけでなく「人」を残す

加藤さん)実例を挙げると、2020~2023年にC&R社が受託した福島県浜通りの15市町村の活性化を目的に実施しているビジネスアイデア事業化プログラムでは、4社が法人化を実現し、10社以上が事業サービスを開始するなどの成果を出しました。青森県での製品開発支援はこれまで8社を支援し、うち4社がすでにオリジナルの新製品を発売しています。

青森県での開発プロダクト一例

これらの事業は、支援を通して事業や新製品を生み出すだけでなく、地域に人材を残すことも大切な目的です。一連の取組で得たスキルや知見を生かして次世代を育成する側にまわる人や、視野を日本全国へ広げ人脈を構築した人は、彼ら自身の人生の可能性だけでなく地域の未来も変えることに繋がるはずです。誰か一人が新たなチャレンジを成功させれば、「自分にもできるかもしれない」と行動を起こす人が出てきます。その最初の導火線に火をつけることが、われわれの役目です。

今後の展開

仕事の掛け合わせで地域人材の活躍フィールドを拡大

高橋さん)今後はさらに広い領域のプロフェッショナルの仕事を掛け合わせていきたいです。C&R社を含むC&Rグループの事業分野は医療や法曹、会計、建築、ファッション、食など幅広いので、地方それぞれ独自の特徴にこれらを組み合わせて、他にない事業やサービスを地方から発信し、新たな価値の創造を目指します。地方在住のプロフェッショナルが居住地を変えずに東京や他都市、多業種と連携し活躍できるフィールドを確立させ広げていきます。新卒採用者のスキルアップ支援も含め、住む場所と働き方を自分で選べる事例を増やすことで地方人材の採用、育成に貢献できればと考えています。

イノベーションを起こす人材を各地で発掘

加藤さん)現状では事業の成果が少しずつ形になってきています。ただ、全国の各自治体でC&R社の知名度はまだまだ不足しているので、引き続き成功事例を積み上げていかなければなりません。地域ごとに担当者を置き、それぞれの案件に取り組みつつ情報や課題を共有し、チームで解決していくフォーメーションの構築が理想です。これを実現すれば、全国各地で地域住民を巻き込んだイノベーションを同時に起こすことができ、互いに刺激を与え合えます。 地方で眠っているイノベーションの種を芽生えさせ、地域の魅力を自ら創造し発信する人材を育成することが、地域創生の原動力になっていきます。その循環を生み出すサポートをしていきたいです。

(取材日 2023年9月7日)

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