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事例 企業 自治体

類型地域プロジェクトへの参加を目的とした企業等

キーワードは「防災・減災」 技術を活かし地域の課題解決に向けて協働

又江原 恭彦さん

株式会社ラック
新規事業開発部
部長

地域

東京都

稲森 伸介さん

株式会社ラック
新規事業開発部
スマートシティ事業室長

地域

東京都

白木 義宏さん

旭川市
企業立地課
課長

地域

北海道旭川市

上田 康平さん

旭川市
地域振興課
主査

地域

北海道旭川市

サイバーセキュリティを事業の柱とする株式会社ラック(東京都)は、2018年に新規事業開発部を創設し地域戦略を展開し始めました。全国の自治体との協働を模索する中で、モデルケースの一つとして成長しつつあるのが北海道旭川市との連携です。強みとするIoT関連の技術を活用した防災用センサーの導入を皮切りに、テレワーク施設および拠点の開設や、市主催事業への協力など関係性を深めています。ラック、旭川市それぞれの担当者にこれまでの経緯や今後の展望を伺いました。

地方創生テレワークのきっかけ

実証実験の最適地として選んだ旭川市

又江原さん)ラックは、情報セキュリティ事業を手がけるベンチャー企業としてスタートしました。主に、不正アクセス等の攻撃からシステムを防御するサービスを提供しています。新規事業開発部では、これから先の大きな成長を目指し、自社の得意な技術を地域の社会課題解決に活用できないかと、いくつかの自治体を候補とし、提案を行いました。その提案に興味を持っていただいたのが旭川市でした。
新規事業で実現したい最終的な目標は、地域内でさまざまな機器やデバイス等から提供される膨大な量のデジタルデータを取りまとめ、必要とする人に適切に安全に届ける仕組み「データのプラットフォーム」の実現です。その第一歩として、旭川市で各種センサーを活用した防災・減災分野での実証実験を計画しました。専門とする情報セキュリティ技術を応用して、積雪量や河川の水位、土砂崩れにつながる斜面の傾斜などを様々なセンサーで測定し、収集した膨大なデータから地域の異常状態を知らせるものです。実現すれば自治体の課題である人手不足を補うことができ、地域の安全や住民の命を守ることにもつながり、自社で培ってきた技術を、必要とされる場所で役立てられるのではないかと考えました。

積雪深センサー、水位センサーの設置例

旭川市を候補にした理由は、私たちが必要とする条件に合致したからです。一つは、空港から1時間圏内で一定規模の都市部があること。もう一つは、四季がはっきりとしていて、猛暑や厳寒もある地域であり、また、産業として農業等の地場産業があることでした。将来的に全国各地でサービスを展開するための実証実験ですから、さまざまな環境や条件を一つの地域内で試せる場所を求めており、その意味で旭川市は絶好の地でした。

日本で初めて開設された恒久的歩行者専用道路。2022年には開設50周年を迎え,今なお旭川市の顔として市民から親しまれている。

防災・減災の提案に課題解決への期待感

白木さん)当時の担当者によると、ラックからご提案のあった当初は課内でも戸惑いがあったそうです。企業誘致は先に拠点を作ってもらうのが基本ですから、「実証実験だけでは地元にメリットがないのでは」という思いと、そもそも経験のない提案を受けきれるのかという不安です。このご提案を受け入れることができたのは、センサーによる防災・減災というお話だったからです。実際に地域では大雪や河川増水の際のパトロールの人繰りが近年厳しくなっており、その課題解決につながるのでは、と思いました。また、ラックとの協働が実現すれば、他企業も旭川市に関心を持ち進出してくれるのではないかという期待もありました。

取組内容

センサー設置からテレワーク施設、その他の協働へ

又江原さん)2020年の終わり頃から、市の除雪や土木の担当課とやり取りをしながら積雪量や道路の状況等を測定するセンサーの設置を進めています。現在はデータを集め、課題を整理しながら少しずつ増設している段階です。 当初は担当者が出張で対応していましたが、われわれは防災・減災のセンサーを置く事業だけでなく、セキュリティベンダーとして旭川市のまちづくりに参画し長いスパンで協働を進めたいという思いを持っていました。そのためには地元在住の社員が必要です。偶然にも非常に良いタイミングで、隣接する東川町に移住予定の女性デザイナーが入社を希望し、まちづくりへの思い入れも強かったため採用しました。実はこの人材を確保できたことが、旭川市との協働を強化し、セキュリティ事業以外にも手を広げるきっかけとなりました。 次の一手はテレワーク施設「Worcu-pet(ワークーぺ)」の設置でした。ラックは従来BtoB専門でしたが、今後まちづくりに参画するには一般消費者の動きを知るべきと考え、自社のビジネスにも活用できる施設の運営にチャレンジしました。旭川市内のICTパーク内の一角を改装し、作業用デスクとテレワークブース、会議室を備え、2021年から稼働しています。出張のビジネスマンや地元在住のテレワーカーなどにご利用いただき、先述の社員や私も使います。会議室はイベントに活用されることもあります。現在は「テクノセンター旭川」として自社の拠点にもなっています。

ワークーペ施設内の様子

他に、社員が旭川高専で特別授業を行ったり、市の女性活躍推進課主催の起業セミナーで講師を務めたり、自社として地元のプロスポーツやお祭りへの協賛を行うなど、少しずつ地域との関係性を深める取組をしています。

旭川情報ビジネス専門学校での講義の様子

取り組みの結果

職員の省力化への期待と、実証実験好適地としての発信効果

白木さん)センサーの実証実験によって役場がどの程度省力化できているかは、まだ検証の段階です。ただ、人の目で積雪量を確認しに行っていたところがセンサーに置き換えられているので、確実に職員が足を運ぶ回数は減っています。近年天候が極端化し、ドカ雪や集中豪雨、それに伴う水害や土砂災害が増えていることから、今後ますます重要性が高まるものと考えています。
先ほど「実証実験だけでは地元にメリットがない」という見方があったと話しましたが、旭川市では以前から自動車や空調機の実証実験も行われていて、特に耐寒性に関する実験に向いています。そこにラックも実績を加えてくれたことで注目度がさらに高まり、最近は物流会社の実証実験など新たな引き合いも増えています。地元の土地を企業に有効に活用してもらえるのは、お互いにとってメリットです。

地域の魅力向上と交流促進に貢献

上田さん)ラックは役所の各部署とも横断的に関わりを持ち、行事に協賛するなど地域に溶け込んで活動されているので、地元での知名度は上がっています。東京に本社のある企業が旭川市で本腰を入れて事業を行うだけでなく、地域活動に参画してくださることの効果は大きいです。旭川市のプロモーション要素の一つにもなっています。
テレワーク施設の整備支援先はプロポーザルを経て採択しました。採択理由は、施設を作って運営するだけでなく、自社の拠点としても活用したりイベントに使ったりと、地域の魅力向上や交流促進に貢献する計画だったことであり、実際にその通り運営してくださっています。また隣町在住の社員の方はテレワーカーですが、行政や地域と積極的に関わり、またそれらの活動をインターネット上で発信し、まちづくりに貢献してくれています。企業としても、社員の方個人としても、地域づくりに参加しようという熱い思いが伝わってきます。

AIを活用した地域課題の解決をテーマに実施した首都圏IT人材を招聘したワーケーションモニターツアー。地域の企業と大学生が参加したアイデアソンを実施し,首都圏からの新たな人の流れを創出する試み。

今後の展開

自社事業を発展させつつ、長期スパンでまちづくりに参画

又江原さん)現在では、進行中の実証実験を着実に積み重ね、さらに防災・減災に限らずラックのセキュリティ事業、ソリューション事業に関わるさまざまな実証実験を行っています。ある程度の成果が出たところでパッケージ化し、自社の事業として他地域へサービス展開をする計画です。その延長線上には、最初に話したデータのプラットフォームの実現を夢見ています。
旭川市とは10年、20年という長いスパンで協働したいと考えていますので、まちづくりにもしっかり参画して貢献し、地域採用も積極的に行います。拠点の開設により、札幌や函館などの都市在住者に関心を持ってもらえるようPRします。

白木さん)実証実験は担当部署が密接に連携を取り、課題を共有したり要望を出したりしているところです。実験から実装へ、官民が連携して取り組んでいきます。やはり人口減少や経済活性化といった地域課題を地元だけで解決することは非常に難しいと思っており、経験や技術力のある企業の助けが必要です。これまでの行政の意識を変え、壁を取り払っていく必要があると思っています。

上田さん)ワークーペが地域のハブ的存在となり、住民と外から来る人の交流が生まれるように、今後もラックさんと連携していきたいです。

(取材日:2023年11月7日)

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