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事例 企業 自治体

類型企業等の地方創生テレワークを促す取組を行う団体等

官民が一体となり目指す「起業成功率ナンバーワンの島」

北見 太志さん

佐渡市
地域振興部
産業振興課
課長

地域

新潟県佐渡市

渡邉 一哉さん

佐渡市
地域振興部
移住交流推進課
課長

地域

新潟県佐渡市

榎 崇斗さん

NEXT佐渡

地域

新潟県佐渡市

新潟県の離島・佐渡市は、「起業成功率ナンバーワンの島」を掲げてスタートアップや企業誘致に力を入れています。シェアオフィス等の施設の整備や、地元の民間グループとの協働によるビジネスコンテスト開催および起業支援を行ってきたことで、誘致企業48社、雇用創出数419人の実績を上げています。

地方創生テレワークのきっかけ

地元に仕事を生み出したい

北見さん)佐渡は1島1市です。近年は人口減少が著しく、年間約千人のペースで減り続けて来ました。ひとつの要因として、島内には高等学校までしかなく、高校卒業と同時に9割が進学等で一旦島外へ出ること、さらに親世代を中心に「佐渡には仕事がない」という考え方が強いことが挙げられます。
佐渡市では産業振興や交流人口の拡大等を目指して2014年に「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を策定し、対策を本格化。2015年から地元の起業家らに意見を聞くなど民間との連携を始めました。民間側の中心となってくれたのが、地元出身でIT企業を経営する榎さんです。

榎さん)私が人口減少への危機意識を持ったのは、2015年に佐渡市の方から「まち・ひと・しごと創生総合戦略」をつくるに当たって、意見を求められたことがきっかけでした。
その際に、私が感じたことは「まち・ひと・しごと」という順番でした。そもそも「しごと」がなければ、「ひと」は定住や移住をしません。「ひと」が少なくなれば「まち」は廃れていきます。ですから、まずは「しごと」をつくることが急務ではないかと考えました。
佐渡島も、私が子どもの頃は8万人くらいだった人口が、今、5万人を切って、4万人台に突入しています。1年で大体千人減っている状況です。そこで、島内で散発的に立ち上がっては消えていく小さなビジネスが成功し定着できるように支援し、佐渡島での仕事を少しでも増やすことが当初の目標でした。
資金繰りが厳しくなって事業が継続できないなど、起業家に想定される課題に対して、私たち地元の経営者がそのノウハウを活かしチェッカーとして支援していくことで、「しごと」を増やせるのではないかと考えました。そして、私と同じような想いをもった経営者・行政担当者・銀行員・市議会議員が集まって生まれたのが「NEXT佐渡」という完全ボランティアのチームです。

取組内容

企業誘致のためのシェアオフィス施設整備

北見さん)2017年から特定有人国境離島地域における創業および事業拡大を支援する国の制度を活用して、進出企業に事業費の一部を補助してきましたが、申請者数がなかなか増えませんでした。2020年に就任した渡辺竜五市長は、この状況を変えるべく「起業成功率ナンバーワンの島」を合言葉に移住定住及び企業誘致に力を入れました。さっそく同年8月に市役所内に横断的なプロジェクトチームを立ち上げ、2021年には起業と移定住の推進を担当する移住交流推進課を発足させました。

渡邉さん)離島は物流面で不利なため、物流を伴う製造業よりも通信ネットワークを利用してパソコンなどで仕事ができる企業の誘致を考えました。まず必要だったのは、サテライトオフィスやテレワークスペースとして利用できる施設の整備です。新築はせず空き家や遊休施設を改装することとし、財源は地方創生テレワーク交付金(当時)等をあてました。島の玄関口である港のターミナルビルの空きフロアや、商店街にある古民家などを活用してこれまでに市で3施設を立ち上げました。並行して、市内の民間企業でもトレーラーハウス型のワーケーション向け施設などユニークな施設の開設が相次ぎました。
施設の入居者の誘致はNEXT佐渡と連携しながら進めました。彼らが持つ横のつながりは幅広く、「企業は呼んでくるから任せて!」と非常に頼もしい存在です。

インキュベーションセンター河原田本町

民間グループによる起業支援

榎さん)NEXT佐渡は、当初島内の起業を支援していましたが、その後、主な活動内容を企業誘致へとシフトチェンジしました。
その理由の一つ目は、佐渡島内の出生数に関する危機的状況を認識したことです。佐渡市の出生数は2016年から200人台が続いており、近いうちに100人台になると予測されています。人口4万人台の島で、もう何年も年間200人台の子どもしか生まれていないのです。もちろん出生率の増加対策は重要ですが、それに加えて、島外から子どもを連れて佐渡島へと移住してくれる若い世代を急いで増加させる必要があると考えました。そのためには、島内で生まれる起業だけでは、「しごと」の質も量も圧倒的に足りません。子どもを連れて家族ぐるみで転職したくなるような魅力的な企業を、それも可及的速やかに増加させるしかないと考え、私たちのリソースを企業誘致へと振り切ることにしました。
理由の二つ目は、島内の貨幣総量の減少に気が付いたことです。佐渡島内にどれほど良いサービスや良い物があっても、それらを交換するツールである貨幣がなければ経済は回りません。貨幣総量を増やすためには、島外に出るお金を減らすことも大事ですが、島外から入ってくるお金を増やす方が急務です。そこで、島内で内需をターゲットにする企業ではなく、島の外から島の中に貨幣を移動させる企業、日本全体や、世界をターゲットとしている企業をできるだけ呼び込んでくるしかないと考え、実行に移してきました。
これらの活動は、佐渡市の渡邊さん(移住交流推進課)や北見さん(産業振興課)とフォーメーションを組んで実施してきました。NEXT佐渡が気をつけていることは、ただ行政批判をするだけでは物事は解決しないという点です。「行政が良くない」「そんなことをしても意味がない」と言われる一部の方がおられますが、佐渡市は我々NEXT佐渡の活動にいつも前向きに協力してくださっています。

渡邊さん)「起業支援や企業誘致のノウハウは民間にこそある」が市長の持論です。行政は受け入れ環境の整備と事務手続き、と明確に役割を分けています。ただ、同じ方向を向いて進むために信頼関係作りは欠かせません。市の担当職員たちは民間が開催する様々なイベントなどにも顔を出してネットワークを広げていますし、職員であるにも関わらず進出企業の側に立って他の課とケンカすることもあります。行政は規制をかける思考に陥りがちですが、起業や誘致を推進するために必要な考え方は「やるために、どうするか」です。

北見さん)地元の企業・住民と進出企業・移住者との関係を取り持つことも行政の役割です。住民の中には、聞き慣れないカタカナの企業名だけで警戒感を持つ人もいます。われわれが丁寧に説明することで「若い人が街を盛り上げてくれている」「面白い人が入ってきた」と感じてもらいたいし、「佐渡には仕事がない」という考え方の払拭にもつなげたいです。

特色あるビジネスコンテストで関心を集める

渡邊さん)2021年からNEXT佐渡と共催で「佐渡ビジネスコンテスト」の開催を始めました。多くの企業に広く関心を持ってもらえるよう、入賞者には補助金審査への優遇措置やインキュベーションセンターの賃料補助など特典を設けており、実際に毎年佐渡での創業につながっています。

榎さん)ビジネスコンテストは他地域でも実施されていますが、ではその入賞者が当該地域で創業あるいは事業所を設置してくれるかというと、そう簡単ではありません。
そこで、新たな雇用を生む民間事業者に対して、設備投資資金や人件費、広告宣伝費などの運転資金を最長5年間補助してくれる特定有人国境離島地域社会維持推進交付金(雇用機会拡充事業)を、佐渡に来てくれる企業にも活用していただく入口となるように、佐渡市や内閣府の方々と一緒に、ビジネスコンテストの仕組みを創りました。すなわち、ビジネスコンテストの入賞と佐渡島内での事業所の設置を一定程度パッケージ化することにしたのです。

進出企業と地元企業のピッチ

取組の成果

進出企業41社、新規雇用の71%が30代以下

渡邊さん)2017年以降2023年4月時点で、首都圏などからの進出企業やスタートアップは41社にのぼります。そのうち4社は撤退しましたが、9割以上の37社は業務を継続しており、上場準備に入っている事業者もあります。起業成功率の高さはNEXT佐渡のサポートによるところが大きいと思います。

榎さん)起業家には、可能な限り自己資金と銀行からの借入分でオペレーションする、という当たり前の事業計画をしっかりと策定するお手伝いをしています。
この事業計画策定については、経営者としての視点だけでなく、可能な限り金融機関からもチェックを受けられるようにしています。また希望者には、佐渡市での事業開始後も定期的にチェックをすることで、起業家がどんぶり勘定に陥らないようにフォローアップしています。 一方で最近は、年商数億から10億円台というある程度成功しておられるスタートアップの進出が増えてきました。そのような企業に対しては、ニーズに応じてサポートをしています。島内でのパイプを繋げたり、オフィスを探したり、たまには従業員も探したりしています。

渡邊さん)新規雇用は419人を生み出しており、そのうち約71%が30代以下と若い世代の働き手が増えていることは大きな成果です。市が運営する3つのインキュベーションセンターおよび複数ある民間施設の稼働率は高水準を保ち、入居する多くが県外企業です。他の自治体から視察にこられることも増え、「起業するなら佐渡」というイメージも定着しつつあるようです。
佐渡に進出したり起業したりする企業は、オフ時間の充実も魅力として挙げています。釣りや山歩きを楽しめる自然豊かな環境、トライアスロンやロードバイク大会の開催、世界遺産登録に推薦されている佐渡金山やトキ保護センターなどは、佐渡ならではの魅力です。雇用側としては首都圏と比べ、ランニングコストを抑えられることはメリットであり、一方で首都圏企業に雇用され、市内のサテライトオフィスなどでリモートワークするような場合は地元より高賃金となることもあり、住民にとってメリットとなります。

榎さん)進出企業数が増加する一方で、島内の若者を採用したくてもなかなか見つからないという働き手不足の状況も出てきています。すると、佐渡に進出した企業が島外に対して「佐渡は良いところ。佐渡で働きませんか。」と強くPRをしてくれるようになりました。
これはいわゆる波及効果で、お金の使い方としては非常に有効であると考えています。良い企業の誘致にお金を使うと、その良い企業が自己負担をしながら島のブランディングと直接的な人口増加に向けたPRもしてくれるわけです。このような誘致企業による採用活動も、30代以下の若い世代の移住者が増えている理由のひとつであると分析しています。

佐渡市石名・海岸線に広がる田んぼ

地域資源×進出企業のコラボが続々誕生

北見さん)事業を継続し、地域に定着してほしいというのがわれわれの望みです。過去には補助金が切れるまでに事業継続の目途がたたず撤退となった例もありましたが、補助金を活用して利益を上げる事業に育て、しっかり自走していただきたい。そのため、市ではフォローアップ支援を専門事業者に委託し、事業のモニタリングや企業同士のマッチング、悩みや課題へのサポートを実施しており、必要に応じて金融機関にもつなぎます。

榎さん)インキュベーションセンターを運営する「REBIRTH佐渡」という法人を作って、佐渡市と一緒にイノベーションが生まれる場の管理もしています。この法人も地元経営者が資金を出し合って立ち上げたもので、ほぼボランティアで成り立っています。
また、若手起業家が月に一回勉強会をする「新潟イノベーションベース(NIIB)」という組織も、新潟の起業家仲間と作り上げました。多くの地域で、いざ起業した後に学べる場が少ない状況が課題となっているかと思いますが、佐渡市ではビジネスコンテストで入賞した若手起業家が学びを得られる場所を用意しています。これらの場で、進出企業同士が出会い、プロジェクトをコラボするなどの現象が起こり始めています。

北見さん)こういった取組を強化した結果、地域資源・既存産業と進出企業のマッチングによる地域の課題を解決していくような新規事業も生まれています。令和4年度第2次補正予算分「デジタル田園都市国家構想推進交付金デジタル実装タイプ地方創生テレワーク型(進出企業定着・地域活性化⽀援事業)」 に地元のキャンプ場指定管理業者と進出企業がノウハウを持ち寄りグランピングやサウナ、クラフトビール販売、ワーケーション設備といったキャンプ場の魅力化に取り組む事例や、空き家の利活用に向けた事業など4事業が採択されました。今後も既存産業と進出企業とのコラボには大いに期待しています。

今後の展開

働き手の確保へ「働く魅力にあふれる佐渡」を発信

渡邊さん)現在、シェアオフィスやインキュベーションセンターは高い稼働率で運営できています。これまではハード面での整備に力を入れてきましたが、これからは事業継続サポートの充実や企業同士の新たなつながりを作るソフト面に力を入れる段階です。持続的に発展するためには、新たな進出企業を迎える際、同業他社との兼ね合いに配慮する必要もありそうです。
もちろん今後も佐渡に進出いただく企業、佐渡でチャレンジしたい人は歓迎します。補助金の無料相談会も定期的に開催していますし、補助金が不採択になった事業者へも再チャレンジできるよう継続的にフォローしています。

北見さん)Uターン人口は増加傾向で2022年度は約600人です。「地方創生テレワーク」の推進やUIJターン推進の施策が奏功した部分もありますが、まだ島内は若い世代の人材が不足しています。せっかく企業誘致によって正社員採用の機会が増えても、働き手不足では発展できません。前述したように若者の9割が一旦島を離れますが、彼らが就職する際にぜひ佐渡へのUターンを選択肢の一つにしてほしい。そのための“佐渡出身の若者に刺さる情報発信”は喫緊の課題で、最優先で取り掛かりたいと考えています。さらに小中学生、高校生へのキャリア教育の充実も欠かせません。2020年度、市民に対する調査では「今後も佐渡に住み続けたいと思う人」の割合は78.4%でしたが、2026年度にはそれを90%まで引き上げることを目標としています。

渡邊さん)UIJターン推進と並行して、関係人口を増やす取組も必要です。現在当市では、お子さんを島の保育園に短期間通わせながら家族で滞在し、佐渡の魅力を体感してもらう「保育園留学」を実施しています。いかに「佐渡のファン」を増やすか、知恵を絞っています。少子化の時代、ある程度の人口減少は受け入れざるを得ません。その中でなるべく下降を緩やかにし、若い人たちが明るい未来を描ける島にしていきたいですね。

榎さん)今後の目標は、「佐渡島を魅力的な企業で埋め尽くす」ことです。 進出企業の数が増えれば、企業による採用プロモーションが日本中で展開され、人と貨幣が島内へ移動します。当初は30社くらい誘致できればスパイラルアップが起こるだろうと思っていましたが、現在はまだまだ足りないと判断しています。
一方で、進出企業の「数」だけでなく、魅力的であるという「質」にもこだわっていきたいと思います。現在佐渡島は転入者数が年間600人まで増えましたが、一方で転出者も増えています。これは「仕事で島に来た人は、仕事で島を去る」という当たり前のことが、データに表れているのだと思います。企業活動である以上、「転勤」で島を出てしまうのは致し方のないことです。しかしながら、「転職」で島から出ていく人数を減らすためには、いつまでも働いていたいと思える魅力的な企業を増やしていく必要があります。
中途半端をする余裕は佐渡島にはありません。「佐渡島を魅力的な企業で埋め尽くす」まで、企業誘致を頑張りたいと思います。

(取材日 2023年8月25日)


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