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事例 企業

産官学連携で地域のITリテラシー向上とまちの活性化を目指す

山口県萩市にサテライトオフィスを開所し、地元の高校生の採用やIT人材の育成に力を入れている株式会社ネットケアサービス。その取り組みは産官学連携でまちづくりへと広がっています。萩市への進出の背景から人材育成の取り組みなどを伺いました。

金子 竜二さん

株式会社ネットケアサービス
代表取締役 

地域

山口県萩市

地方創生テレワークのきっかけ

都市部での採用やIT人材の育成の課題を。地方への進出と高校生に目を向けて解決する

2012年頃から都市部でIT人材を採用することが難しくなり、さらに採用後の人材育成にも時間がかかることに課題がありました。どうすれば良い人材を確保できるか、優秀なIT人材を育成することができるかを考えている中で、「都心部には行きたくない」「地元に残りたい」という地方出身者もいることを知り、私の出身地である萩にサテライトオフィスを開設しようと決めました。

地方は大学が少ないので、採用は高校生に目を向けました。新卒で会社に利益を生む人材になるまでに、私たちの経験上4年程度はかかりました。そうすると大学生の場合、22歳で入社して4年後は26歳ですが、高校生の場合は大学生が新卒入社する22歳の段階で即戦力となっています。また、地方では都市部に比べてIT企業も少なく、人材の流動性が低いこともメリットで、仮に転職しても活躍できる期間が長いため、高校生の採用と人材育成に投資する選択をしました。

世界遺産に登録された萩城城下町は現在も武家屋敷の町並みを残す

取組内容

高校生の積極採用と若者を中心としたボトムアップ型でまちのITリテラシー向上を

萩市に進出しようと決めた頃に山口県や萩市の方でも企業進出の補助金の整備が始まり、2016年に萩テクニカルセンターを開所し、2017年より事業をスタートしました。高校生の採用も2017年から始めましたが、最初は卒業後の進路にIT業界で働くという選択肢がなく、地元企業でもないため、高校生へのアプローチはうまくいきませんでした。偶然、とある高校の先生とご縁があり、実際に会社の説明をさせていただいて、その高校から2名を採用することができました。現在までにその高校から計6名を採用し、今年4月にも新しく2名が入社する予定です。

採用した高校生の育成は、はじめはソフトウェア開発のリーダーに大阪から転勤してもらって行い、また、テレワークを前提とした働き方ができるようにしたいとも考えていたので、遠隔での育成も行いました。私たちは「職人を育てる」という考えで人材育成を行っていて、ネットワークからサーバーまで全部わかっていて、お客様から「この人に任せておけば大丈夫」と言われるような人材を目指しています。ソフトウェアの設計・構築のノウハウを持った人材が長く所属することで、継続的にお客様の課題を解決することができますし、そのノウハウが社内に蓄積していくことも重要だと考えています。

松下村塾で多くの維新志士たちを育てた吉田松陰を祭神とする松蔭神社

2020年からは行政と学校、萩市に進出した他のIT企業と一緒に「萩グローバルIT人材育成協議会」を立ち上げ、ITの実践基礎知識を無料で学ぶことができるEラーニングカリキュラム「萩IT松下村塾」を始めました。きっかけは、高校生などの新卒を育成することができる中堅のIT人材がいないため、企業誘致やテレワークで働く環境づくりが進まないという萩市の課題がありました。この協議会は萩市全体のITリテラシーを向上させる実証実験でもあり、高いITスキル人材を育てることを目標に、現在はIT入門やITパスポート資格などの学習コンテンツを萩市に住む方にも無料で提供しています。

私たちが萩市の課題に取り組む理由は、専門分野が異なる多様なIT企業が萩市に集まることで、学生などの働く人の将来の選択肢を増やし、また、企業間の横のつながりから新しい価値をつくるためです。そのため、私たちはネットワークやソフトウェア開発を行う企業ですが、例えばeコマースを行っている企業やクラウド系のアプリ開発をしている企業、ハードウェアをつくっている企業など、異なる分野のIT企業を行政と連携して誘致しています。萩はまだITリテラシーが高くなく、未開拓の地でもあるので、実証実験や新しいビジネスを積極的に展開しやすい環境だと思います。

取り組みの結果

採用面は地元の高校生を中心に安定的に人材を採用できていて、当初、人が集まらなかった会社説明会は、今では多くの高校生に来ていただいています。また、行政も昨年7月にDX推進課が立ち上がり、産官学でよりデジタルを中心としたまちづくりを行う体制が整ってきました。その成果として、萩IT松下村塾は協力企業が増えたことでEラーニングのコンテンツが増えました。さらに、行政の協力のもと、多くの企業に萩市への視察を勧め、これまでに弊社の取引先だけでも10社以上に来ていただき、実際にITの実証実験の場を探していた企業と行政をつなげる機会ができました。

萩は歴史的に ” 学ぶ ” 文化がある、教育に適した町だと語る金子竜二さん

今後の展開

都心部では比較的年齢の高い方でもITリテラシーが高くトップダウン型でITリテラシーを上げるスタイルが可能ですが、地方ではIT教育を受けた若い世代が、上の世代に広めていくボトムアップ型で、まちのITリテラシーを向上させていきたいと考えています。また、その若い世代が一度萩を出て、多様な経験をする機会もつくり、そこでやっている仕事を萩に戻ってテレワークで行うような取り組みもまちの将来には必要だと考えています。そのために、行政や学校、他の企業と一緒にデジタルを活用したまちづくりに取り組み、雇用の創出や新たなビジネスの展開に今後より力を入れていきます。

(取材日:2022年1月26日)

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