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事例 企業 自治体

類型離職防止、地方人材の採用・育成、ワーケーション推進を目的とした企業等

人材確保のために地方進出 拠点開設で採用が加速し 事業拡大を目指す

求人募集の地域を東京から地方に変えたら、山口で3人の採用が実現し、岩国市にサテライトオフィスを開設した株式会社メタ・インフォ(本社:東京都)。決め手の1つは相談から協定の提結まで2ヶ月という、岩国市と山口県が連携したスピード感ある対応でした。メタ・インフォは岩国市の中山間地域への企業進出第1号として、地域に溶け込みながら事業活動の場を広げています。

井村 邦博さん 

株式会社メタ・インフォ 代表取締役

地域

東京都

原田 悠生さん 

岩国市
産業振興部
商工振興課 主事

地域

山口県岩国市

地方創生テレワークのきっかけ

経営課題だった人材確保。地方での人材確保を機に拠点設置へ

採用から拠点進出を検討。決め手はBCP、利便性、行政のサポート

井村さん: 東京本社に通える範囲で求人をしていましたが、なかなか希望のスキルを持った人材に出会えないという経営課題がありました。2021年の夏前に思い切って地方に目を向けたところ、別々の知人経由で地方在住の人を紹介いただき、紹介された3人が偶然にも山口県在住でした。当社ではコロナ前からテレワークを導入していたので、当初は在宅でリモートワークを行ってもらう予定でしたが、3人とも山口県在住ということもあり、サテライトオフィスの検討を始めました。そこで、2021年7月に本社の近くにある山口県の東京事務所で、岩国市の担当の方に相談しました。

サテライトオフィスの進出を決定した理由は大きく3つあります。まず1つ目は、わたしたちは国の研究機関や企業のWebサイトの保守を行っており、東京から離れた西日本で比較的自然災害が起きない場所に拠点を持っていることは、BCPの観点でお客様へのアピールポイントになります。2つ目として、東京から岩国市内にある岩国錦帯橋空港へは1日5便もあり、朝9時には岩国市に着けるという交通の便の良さも魅力に感じました。最後に、岩国市と山口県両方の補助金の手厚さや、一体となってスピード感あるサポートをいただけるという点も大きな決定理由になっています。

岩国市の中でも玖珂という中山間地域にした理由は、メンバーの1人が玖珂在住ということのほかに、中山間地域と言っても空港から車で30分という立地であり、せっかく地方でオフィスを構えるなら東京とは異なるリラックスしたオフィス環境を創り出したかったからです。

県先導のIT企業誘致と市が連携強化

原田さん: 岩国市では、2014年から東京の山口県事務所に企業誘致担当を1人派遣しています。2017年に山口県が、IT企業の誘致、サテライトオフィスの誘致を先導していく中で、岩国市も連携して取組みを強化しました。その理由として、一つは岩国市として、工場誘致を積極的に取り組んできましたが、工業団地が完売し、新たに工業団地をつくるとしても、長い期間が必要になること、そしてもう一つは、市内に専門学校や大学が無く、さらに市内でのエンジニアの仕事や事務的な仕事の求人倍率が低いこともあり、若者の流出が課題になっていることが挙げられます。子育て施策に力を入れているものの、Uターンの施策として若者や女性の就職先の支援というところに取り組めていませんでした。そこで、就職先を増やすために、ITや事務系の企業の誘致、サテライトオフィス誘致に取り組むことにしました。

メタ・インフォの岩国オフィスは東京の社員にも人気が高い

取組内容

拠点開設前から地域と関わり認知を増やし、何ごともすぐに解決する

行政からの企業への熱意はスピード感で表す

原田さん:岩国市には、IT企業などが新たな拠点やサテライトオフィスを開設する際に、上限500万円を補助率1/2で補助する進出支援施策があります。そして山口県側にも同様の支援施策があり、基準を満たせば両方を活用することが可能になります。そこで、県の担当者と連携して、企業に対して一緒に支援内容の説明等を行っています。忙しいなか興味を持っていただいているので、視察や進出支援の手続きなどお待たせすることなくできるよう「スピード感」を大事にしています。企業側が拠点を置く地域を選ぶ際に、自治体担当者の熱意という話も聞きますが、わたしたちはその熱意を「スピード感」で表しています。

拠点開設前から地域に知ってもらう活動を開始

井村さん:はじめは、県と市の両方とのやりとりが煩わしいのではという懸念もありましたが、実際に7月に相談してから9月中旬には岩国市と協定を締結するというスピード感で進みました。手続き等もとてもスムーズでした。9月に協定を結んでから、翌年の2月に古民家を改装して拠点を開設しました。ただ協定直後から玖珂に住むメンバーを中心に、地域の人に自分たちを知っていただく活動を開始しました。手始めに駅前の商店街に取材に行き、わたしたちが作成した地域のホームページに一つ一つのお店を掲載する活動をボランティアで実施しています。

また、岩国市より高齢者のスマホ対応という課題があると聞き、ボランティアで高齢者向けのスマホ講座も行っています。これらの活動で、わたしたちの会社のことが口コミで広まり、地域のホームページ掲載希望も増加していますし、地域の人の目が温かいものに変わったと思います。

人材採用が好調で進出メリットを実感

井村さん:採用の方は、協定締結が地元の新聞に掲載され、それを見た人から連絡をいただいたり、現地のメンバーから紹介してもらったり、という形で進めることができ、現在は5名体制となりました。玖珂には3名が常駐しており、山口市在住のメンバーが月に1回ほど来ています。わたしも、メンバーの教育、現地での人脈づくり、ビジネスチャンス開拓、そして何よりオフィスの居心地の良さから月の半分以上は岩国に滞在しています。サテライトオフィスの近くに家も借りました。その後も複数人から求人の応募をいただいており、進出をしてよかったと実感しています。

将来的にはサテライトオフィスでの新卒採用も検討していて、長期的なプロジェクトとして今は高校生向けに2週間のサマースクールを開催しています。高校生の段階でITの仕事やメタ・インフォを知ってもらい、就職活動時に「就職先としてあの企業があったな」と思い出してもらえたらと考えています。わたしは「的の中心を射ようとすると大変だが、先に矢を射って、落ちたところを中心として円を描くのは簡単」という思いを持っています。今は玖珂への進出という矢を放ったので、あとは当社が中心になる円を描けばいいという思いで、地域での活動を行っています。

大盛況のDXセミナー

岩国市が世界に誇る名勝「錦帯橋」

行政として企業進出後も継続的なフォロー

原田さん:拠点開設前から自発的に地域で活動していただき、とても感謝しています。昨年度にメタ・インフォを含めて4社進出があり、企業誘致の取り組み開始からの進出企業は5社になりました。その横のつながりをつくるIT企業の交流会なども開催しています。まだコロナ禍で実施回数は多くないですが、今後は進出後の課題について意見交換を行なったりする場もつくる予定です。

また、今までは首都圏企業が視察する際には市街地を案内するのみだったのが、メタ・インフォさんの古民家オフィスは一味違った進出イメージを持ってもらうにも、岩国を知ってもらうにも、とても参考になる例なので必ず案内に加えるようにしています。そのため、メタ・インフォの皆さんとは月に1回位は顔を合わせています。

わたしたちは2017年に補助金もないところからIT企業の誘致を始め、視察ツアーを組んで企業の生の声から得た気づきを蓄積して、シェアオフィス「Class Biz.」をつくったり、スピード感を重視したりと試行錯誤してきました。そして今は各種の進出補助金をはじめ、物件の視察・検討から進出後の定着のためのアフターフォローまで手厚く対応できるようになりました。ハローワークとも連携していることから、進出企業から人材確保の相談があってもハローワークを通してすぐに解決した事例もあります。いただいた相談はすぐに対応することを心掛けていますし、企業のイベント等も可能な範囲でお手伝いするようにしています。

また、市内の高校生や学卒者の保護者向けに市内企業を紹介する冊子をつくり、そこで進出企業をご紹介しています。このように、若者やUターン向けの事業でも進出企業を支援できるよう取り組んでいます。行政では担当が変わると対応が変わってしまうこともあるのですが、マニュアル化を進めて、企業に対して熱意を持った継続的な支援ができるような仕組みづくりにも取り組んでいます。

取り組みの結果

拠点開設が人材確保の追い風に

井村さん:岩国市と協定を結んでから2名採用も決まり、応募も順調に来るようになり、人材確保の面では成果が出ています。また地域での活動も広がりを見せ、認知も広がってきました。先日は商工会主催のDXセミナーに登壇し、そこで地元の企業とのつながりもできました。今後この横のつながりを生かして、より大規模な提案につなげていけたらと考えています。

原田さん:まだメタ・インフォさんに続く中山間地域への進出企業はありませんが、多くの企業が関心を持たれ、何社も企業視察に訪れているので、岩国市に進出した企業を首都圏の企業に知ってもらうというところで実績は出ていると感じています。

今後の展開

拠点単独の黒字を達成し、人員倍増を目指す

井村さん:拠点をつくったからには、やはり3年後には岩国オフィスの単独黒字を目指しています。今は、既存の保守の仕事を岩国に一部持っていく、もしくは新規の仕事を東京のメンバーとシェアしてやっています。今後は行政案件なども含めて山口県内で案件が獲得できるようにしていきたい。そして、黒字化の目処が立った際には、人員の倍増を計画しています。ビジネスのリスク分散という意味でも、山口県および周辺で仕事を獲得するのは重要だと判断しています。

また、岩国市は日本の縮図だと考えています。玖珂は、人口が1.1万人で、わたしたちの会社がチャレンジできる規模感です。こういう地域に対してどういうビジネスがつくれるのかを模索し、新しいビジネスを創造して他の地域への展開へとつなげていきたいです。

原田さん:若者の雇用促進という面で、進出した企業の認知度を上げていきたいと思います。学生たちに戻ってきても働く場所があるということを知ってもらえるように活動していきます。市内企業の人材確保という点でも、リモートワークやDX化の推進事業などを始めました。こういった面でも、進出企業が市内企業と協働できるようサポートを行い、地域全体の活性化につなげていきたいと考えています。

(取材日:2022年10月7日)

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