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事例 企業 自治体

類型地域プロジェクトへの参加を目的とした企業等

民間が主導し 行政バックアップ体制で地域に持続可能な事業を作る人材を

東日本大震災後の避難指示で、約5年間無人の町となった南相馬市小高区。避難指示解除前から復興に向けてプロジェクトを展開していたのは、和田智行さん。活動拠点となる小さなコワーキングスペース開設から始まった取り組みは、2017年に官民連携の「起業型地域おこし協力隊」という形で動き出しました。コロナ禍以降は、リモートワーカーなども巻き込んでプロジェクトを実施しています。

和田 智行さん

株式会社小高ワーカーズベース
代表取締役

地域

福島県南相馬市

山本 遥香さん

地域振興課

地域

福島県南相馬市

地方創生テレワークのきっかけ

地域で100のビジネスを創出することが目標

必要とされている事業を少しずつ

和田さん:私は小高区の出身で、東京の企業で働きながら2005年にUターンで戻ってきました。震災後の避難指示が出ている2014年に、解除されたときに備えて事業をつくっていこうと南相馬市小高区で創業しました。創業時からのミッションは、「地域の100の課題から100のビジネスを創出する」。創業時、小高区は日中しか立ち入ることができず、まずは小さなコワーキングスペースをつくって、そこから作業員の方のための食堂開設、地域住民のための仮設スーパー運営、地域の若者の仕事を創出するためのガラス工房設置などの事業を、必要に応じ市からも支援いただきながら創り上げていきました。

山本さん:他の地域に避難していた住民の方々から、「小高に戻るにはスーパーなどが必要だ」という声があがり、既に小高区で食堂事業を開始していた和田さん達へお声がけしました。当時、ガラス工房の設置について工房の賃料などで市の助成施策を活用いただいたと記憶しています。

復興✖️地域おこし協力隊

和田さん:そのような行政との関わりの中で、2016年の12月に当時の副市長が「小高の復興のために地域おこし協力隊の制度をうまく活用できないか」と検討していることを知りました。私たちも同じ頃、「100のビジネスを創出するのは自分たちだけでは難しい」という課題を抱えていたことや、他自治体の事例から「起業型地域おこし協力隊員」の提案をしました。その話が出た1カ月後には副市長と視察に行き、Next Commons Lab 南相馬を立ち上げて、市から起業家としての地域おこし協力隊員の誘致育成事業を受託することになりました。

小高パイオニアヴィレッジのひな壇型のフリースペース。利用者の会話もはずむ

取組内容

自分の事業に集中できる環境の構築で起業家に選ばれる町に

地域への関わりを持続可能にするための「起業型地域おこし協力隊」

和田さん:協力隊員に取り組んでもらう事業として、まず、地域をよく知る市役所の有志の方40人ほどに集まっていただき、地域の資源、課題、人的資産などを棚卸してもらいました。それを私たちの方で、事業化できそうなもの、地域の課題解決ができそうなものを事業案としてまとめて協力隊員の募集をかけました。2019年から協力隊員のプロジェクトを開始し、現在までに14人が着任しています。最初に着任した5人は、3年の任期を終え4人が地域に定着し、1人は事業をするための準備として別の地域に行っています。現在月2回実施しているオンラインでの協力隊員募集説明会には毎回参加者が集まっており、起業を目指したい人たちから選ばれている取り組みだなと感じています。 協力隊員に対しては、地域に貢献したいという気持ちだけではなく、自分の事業をやるために来て欲しいということを話しています。やはり起業は簡単ではないので、地域の課題をテーマにしつつ自分の事業として形にしてもらうことが、3年間の協力隊員としての任期を終えた後も地域に継続的に貢献し続けられる鍵になると思っています。このことは市にも最初に説明し、協力隊員は市の臨時職員ではなく、フリーランスとして私たちが管理しています。

滞在型コワーキングスペースを開設

和田さん:協力隊員の募集や育成と並行して、協力隊員たちが孤立することなく、仕事以外の部分も含めて地域と繋がれる拠り所が必要だと考え、滞在型のコワーキングスペース「小高パイオニアヴィレッジ」をつくりました。今ではこの場所が、小高にいる人、小高と関わりたいと思っている人がリアルやリモートで集まる場所となっています。特にコロナ以降はフットワークが軽いリモートワーカーや学生が1カ月程度滞在したり、毎週来てくれたり、といった動きも出ていて、自分たちの仕事や勉強をリモートで行いながら何らかの形で地域と関わりたい、という意識や関心の高まりを感じています。

まずは小高に来てもらい、地域のコミュニティに接してもらう

山本さん:小高に若い人がたくさん集まっていることを目の当たりにし、町の変化を感じています。 私は、移住相談窓口をしていますが、和田さんの繋がりで来られる方も多く、人が人を呼ぶということを実感しています。小高区は観光資源があるわけではないのですが、「熱意ある人」が集まっていることが強みだと言えます。人の繋がりが強く、和田さんを中心にいいコミュニティが出来上がっています。和田さんたちの事業取り組みについては、小高区の住民も理解し、受け入れ、応援する土台ができていると思います。 また、市では、今年度、小高に来た人たちに地域や、地域で体験したことをSNSで発信してもらい、その謝礼として滞在費の補助を行う「遊ぶ広報」というプログラムを行いました。移住を考えている方などを和田さんに紹介いただき、小高をより知ってもらう為に、このプログラムを利用いただいたこともあります。インターネット上の情報だけでなく、実際に南相馬市に足を運んでもらい、現地を体感してもらう取り組みは続けていきたいと考えています。 また、実際に移住をされた方や移住を検討している方をサポートするために、「地域のお世話人」という制度を立ち上げ、市が間に入って地域の住民をサポーターとしてマッチングする取り組みも行っています。

全国どこからでも小高のプロジェクトに関わる仕組みを

和田さん:「小高パイオニアヴィレッジ」を利用するテレワーカーが地域と副業的に関わるなどの事例はまだ少ないですが、私たちとのイノベーティブなコミュニティが出来上がりつつあるのは確かで、ここを気に入ってクチコミでも広めてくれている人もいます。また、私たちの29歳以下を対象とした創業支援プログラムは全国で150人位の参加者がいて、その全員が移住して起業を考えているわけではないですが、「この地域で関われることがあればリモートやリアルで関わりたい」という人は圧倒的に多くいます。そういう人たちや、テレワークで小高に滞在している人たちも巻き込み、興味のある小高の事業やプロジェクトにさまざまな形で関わってもらう仕掛けや仕組みをつくれないかと検討しています。本当の関係人口をつくれることになるかと思います。

避難指示区域だったからこその課題

和田さん:一方で、最近の課題は、小高に集まってくれた起業家や移住者、リモートワークをしている短期滞在希望者たちが利用できる住宅や店舗用物件が足りないということです。行政が移住者向けに市営住宅の1年間貸し出しなども行っていますし、避難の関係や相続問題、片付けが終わっていないなどの理由で借りられる住宅が不足しているのが現状です。また、店舗や事務所が住宅と一体化しているものも多く、店舗だけを借りられる物件がほぼ存在していません。今後は、このあたりも解決しながら100のビジネスを目指していきます。

ひな壇以外にテーブル席やスタンド席も。思い思いの場所で作業に集中

約300本の桜の木が並ぶ美しい小高川沿い

取り組みの結果

やりたいことが実現できる町に

和田さん: 100のビジネスを創るというミッションにおいては、現時点で22事業が実現したこと、そして地域おこし協力隊がこれまで14人着任し、それを含め自社の社員やその家族も含めて70人以上の移住者を生み出したことが今までの成果です。
私が発信してきた、「ここは被災地ではなく、フロンティアだ。住民が一度ゼロになった避難指示区域だった町なので、まさにゼロから新しい暮らしや社会を構築できる唯一のフィールド。そこで自分が立ち上げた事業が町をつくっていく」ということに共感してくれている人も増えています。その結果、復興支援という意識や枠を超え、「やりたいことを実現しようと考えた時に小高が一番やりやすい」というマインドを持つ人が集まるようになってきたことも成果だと思います。

今後の展開

ゼロからイチを創り出し続ける

和田さん:今、小高にはどうしてもここに住みたい、という人しかいません。全員余所者になった経験がある人たちが集まっているからこそ、寛容で、暖かい目で見守る、手伝うという居心地よい環境があります。その中で震災前からの小高の良さを活かしつつ、「小高パイオニアヴィレッジ」のような場を通じて、ここに居住している人も一時的に滞在する人もリモートで関わる人も巻き込みながら「ゼロからイチを創り出す」ことを継続していきたいと考えています。

山本さん:全国の多くの方にとって"南相馬市"は「ニュースで聞いたことはあるが、実際にどんな場所なのかよく知らない」という場所かと思います。まずは知ってもらうことが大切、と考えていますので、「おだかる」というWeb媒体で和田さんをはじめ、小高で自分らしく暮らしている人たちを紹介するなど、「南相馬市小高区」の魅力を発信して、認知の向上に力を入れています。同時に、小高を訪れてくれる、関心を持ってくれる人のため、今後も住宅、貸店舗、補助金などについての情報発信や、移住を後押しする支援の継続が必要だと考えています。

(取材日:2022年9月12日)

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