企業誘致のポイント
地方にとっても、人口の増加や関係人口創出、産業振興、税収アップなど多くのメリットがあります。しかし現状として、企業と自治体のマッチングがなかなかスムーズに進まない等課題が見られます。自治体が企業のテレワークやワーケーション拠点の誘致を成功させるには、どのようなアプローチの方法があるのでしょうか。
1.地域の強味を生かしたアプローチ
もともと地元にある観光名所や豊かな自然、産業、伝統など、都会にない地域資源は大きな魅力。
これらを生かして人を呼び込んだり、ビジネスに紐づけたりすることで、テレワーカーの移住や企業の拠点誘致に結び付けることができます。
1-1 観光資源
商業開発されたリゾート地でなくても、海や山、川などの豊かな自然、アウトドアスポーツやレジャーなどのアクティビティ、歴史スポットなどは素晴らしい観光資源で、首都圏の働き手に対し訴求できるポイントです。
観光資源に恵まれている他の地域との差別化や地域の特色を見直しPRすることで、サテライトオフィス誘致の可能性が広がります。また、観光資源やアクティビティを組み合わせたワーケーション・プログラムなどを通じて企業や働き手が地域との関係性を深めるような取り組みも有効です。
1-2 地元企業・商工業
地域に根差したニッチな産業や、高度な技術を持つ中小企業、他にないものづくり企業など、地方には首都圏の企業が「コラボしたくなる」地元の企業、産業が数多く存在していると思います。そのような地元企業、産業を軸とした企業誘致を進めるのも手段の一つです。進出企業とのコラボレーションにより、地域の特色ある産業、企業にもイノベーションが生まれ、地域の活性化が期待できます。
1-3 一次産業や伝統工芸
農林水産業の高齢化や、伝統工芸の担い手不足に対する課題を抱えている自治体の中には、例えば農業体験とワーケーションを組み合わせた「農ケーション」、農業との兼業としてテレワークを行うような「半農+半X」などといった「テレワーク+α」の取組みに注力する動きが増えています。
一次産業や伝統工芸の体験をプログラムとして企業に提案し、地域や産業への理解を深めてもらうことで、企業との関係性が強まるだけでなく、地域産業が持つ課題解決に向けた足掛かりになることも期待できます。
1-4 特産品の6次産業化
地場産品の6次産業化を切り口に連携の可能性のある企業へアプローチする、という方法もあります。
付加価値を付けることで、進出企業側からは商品開発や事業拡大に繋がり、自治体としても地域の産品のブランド力が高まり、地域のイメ―ジアップや地域の活性化に繋がる可能性が高い取り組みです。想定外に収穫できた産品の加工や規格外の産品の新たな商品化はSDGsといった視点から消費者の関心も高まっています。
2.地域の課題をキーとするアプローチ
人口減少や労働力不足、財政難など重い課題を抱える地域は少なくありません。一方で全国の企業には多彩なノウハウや技術、アイデアが蓄積しています。自治体と企業が協働で課題解決の道を探ることで、イノベーションが生まれる可能性があります。
2-1 地域課題を企業と解決
「診療所がない」「塾や学びの場の不足」「移動手段がない」など住人が感じる課題や、地域の産業が抱える「担い手不足」「高齢化」「IT化の遅れ」などの課題を、企業誘致によって協働で解決することは、企業にとっても事業拡大のチャンスに繋がる取り組みとなります。
地域課題に対し、どのような視点やアイデアが必要か、という点からアプローチする誘致を絞り込むという手段もあります。企業側では協働による付加価値の創出という点が重要なポイントになりますので、自治体側でも実証実験の機会を提供する、進出支援に対し、地域の企業や住民からの理解を得るなど、様々な調整が必要になることもあります。自治体・企業の双方がそれぞれ持続可能な事業となるような仕組みを作り上げることが重要です。
2-2 遊休施設の利活用
空き家となっている古民家や、シャッター商店街などにリノベーションを施し、高速通信網を整備することで、IT企業のサテライト拠点集積地として活気を取り戻した事例があります。国からの地方創生関連予算や企業版ふるさと納税を活用することで自治体側の負担を軽減できる可能性もあります。
3.人材を活用したアプローチ
「働きたいが仕事がない」「魅力的な仕事があれば地元に残りたい」といった人材は、地域にとっての財産です。
また地元出身者のネットワークを活用することで、企業誘致の可能性は大いに広がります。
3-1 働き手としての地域人材の活用
地域には学生、主婦層、アクティブシニア層、兼業・副業希望者などポテンシャルの高い人材が豊富に存在する可能性があります。希望の仕事に就けることでそれぞれの満足度を上げ域外への流出を抑えることが期待できます。
また、地域の人材がどのような仕事を希望しているかを分析することで、誘致したい企業像が見えてきます。企業側としても進出を検討する上で継続的に欲しい人材が確保できるという点は高く評価しています。
3-2 地域出身者の人脈を活用
県人会、中学や高校の同窓会等の人脈を活用し、首都圏等に本拠地を持つ企業とのパイプを構築するのも一手です。地域に対する知見があり、広いネットワークを持つ人材とつながることは、企業にとっても進出時に安心なだけでなく進出後の地域での協業などへのメリットも期待できます。進出企業がサテライトオフィスの責任者として地元出身者を置くケースも多く、また、Uターン希望者が直接会社に働きかけてUターン先でサテライトオフィス設置に至ったケースも少なくありません。
首都圏で勤務している地元出身者に直接アプローチしたり、地元に残る親、親族に対して呼びかけることも有効と考えられます。誘致に成功した地域・自治体に共通しているのは、積極的に動いていること、そして自治体の特長をチャンスと捉え、迅速に対応していることかもしれません。進出する企業にとっては、その地域に信頼して相談できる人がいるかどうか、ここが最大の決め手になっているのです 。