「ワーケーション」体験者が語る、
そのポイントとは
「ワーケーション」とは、Work(仕事)とVacation(休暇)を組み合わせた造語で、「テレワーク等を活用してリゾート地や温泉地、国立公園等、普段の職場とは異なる場所で余暇を楽しみつつ仕事を行うこと」(観光庁「新たな旅のスタイル」ワーケーション&プレジャー)とされています。移住促進の観点からは、「移住や定住を希望する人が二地域居住などを通じて、働きながら地方での生活の場を持つこと、ないしはそのトライアル」と位置づけられています。
仕事をする場所を変えることに何を求めるか
「滞在先での温泉や食事が楽しみ」、「ワーケーションで訪れた滞在先で異業種交流ができる」など、ワーケーションの目的は人によって異なりますが、コロナ禍でオフィスへの通勤が減り、在宅でのテレワークが中心になった人にとっては、「気分転換も兼ねて自宅以外で仕事をしたい」、「仕事をするのに合わせて、旅行もしてきたい」という欲求が多いのは無理もありません。
かく言う私も、2020年11月に今の会社に転職して以来、自宅での在宅勤務を余儀なくされ、オフィスにはいまだに行ったことがありません。テレワークによる在宅が常態化し、朝から晩まで自宅の一室で海外のスタッフや取引先とのオンラインミーティングなどの業務をしています。
「仕事以外で人と会話をしないと気が滅入ってしまう」、「とにかく月に一度は自宅以外で仕事したい」と考えるようになり、「仕事をする場所を変えてみよう」、「どうせなら自然環境の豊かな場所で仕事してみたい」と思い、ワーケーションを検討するようになりました。
2021年は北海道紋別郡の田畑が拡がるエリアでの民泊家屋や、八ヶ岳の麓の一棟貸しコテージ、駿河湾に面した海の見えるカフェ兼ホステルなど、様々なロケーションでのワーケーションを体験しました。
PCモニターから顔を上げたときに何が見えるか
最初は、「鳥が観たい」という考えで滞在先を選んでいたんですが、何度か旅先で仕事をしてみるうちに、自分が海よりも山が好きだということに気づきました。
ただ、朝9時を始業として、昼休憩をはさんで8時間働くことを考えると、日中の明るい時間には外出できない、と考えるのが現実的です。もちろん朝早起きして付近を散歩してみる、昼休憩でランチを食べに出かける、仕事を定時で終わらせて夕方から散策に出かけるといったこともできますが、ウィークデーの仕事は“主”であるべきで、旅行のオマケのようには考えられません。現実として、ワーケーションを検討できる職種の人は、日中の長い時間、パソコンのモニターに向かっているという人が多いのではないでしょうか。だからこそ、モニターから顔を上げた時、そこに何が見えるかということが重要なんだと思います。仕事の合間、窓の外に雄大な山並みや海が見える。リラックスできて、頭の中もリフレッシュする。これこそが、ワーケーションにおける滞在先を選ぶ上で重要なポイントだと思っています。
滞在先に仕事をする環境は整っているか
オフィスや自宅以外の場所で仕事をする上で重要な点は、滞在先に従来と同じ仕事をするだけの環境や設備が整っているのかという点です。
ワーケーションは一般的な旅行とは違い、普段と同内容で同レベルの「仕事もする」旅行です。従来の仕事で求められるパフォーマンスが著しく低下する環境設備や空間であれば意味がありません。机や椅子のセッティングから始まり、オンラインを可能にする通信環境や、電話で会話ができる場所など、仕事に適した空間を整える必要があります。
1年以上在宅ワークが続くと、自宅の仕事用の机や椅子、照明や室温・湿度に至るまで、仕事をする環境を整えようと検討される方も多いのではないでしょうか。滞在先でも、机や椅子の高さや大きさは十分か、1日座っていても疲れないか、部屋の明るさは適切か、日光は眩しくないか、室温・湿度は問題ないか、換気はできるか、音や匂いが不快でないか等、基本的なことですがとても重要なポイントです。
また、私の仕事はオンラインでのミーティングが多いので、Wi-Fi環境は十分なものである必要があります。地方でも一部エリアや滞在先施設によっては、メールやWEBサイトを閲覧するには問題なくても、オンラインミーティング中に通信が途切れて不安定になるなど、仕事に支障が出ることが多々あります。仮にWi-Fi環境が不十分な場合は、自ら持ち込んだ携帯キャリアのテザリングでまかなえるのか、それでも問題がある場合はすぐに自宅まで帰れるのか、自宅までの緊急アクセスやダイレクトフライトはあるのか等、もしものときのためのバックアッププランを準備しておく、というのは最低限必要だと思います。
ファミリーワーケーションの可能性
これまではただ余暇目的で行くことの多かった家族旅行も、ワーケーションとして「仕事もはかどる家族旅行」と捉えなおすことで、これまでとは違うパフォーマンスや発見があるかもしれません。
子育て世代のワーケーションは、旅程や時間割が子ども中心になりがちですが、あくまでワーケーションは仕事が主役。必ずしも、家族全員が同じ空間で同じ時間を過ごさなくても、そもそも家族全員が揃わなくてもいいのかも。例えば、家族のうち父と娘だけで出発してもいいし、「旅先で日中は母だけテレワークして、父や子どもたちは地域観光や娯楽にいそしみ、夜と休日だけ全員で過ごす」という形があってもいいかもしれません。
「春先の南アルプス、サイコー!」とか「やっぱり自分は“海”派だな」とか、率直に旅先の魅力を感じるだけでなく、土日や祝日を挟んで4~6日間を旅先で過ごせたら、家族の意外な一面を発見できたりもするのではないでしょうか。
【取材協力】ワーケーション体験者 秋本康行さん
都内のIT企業に勤務。武蔵野大学では、客員研究員として、デジタルマーケティングやマーケティングコミュニケーション戦略などの講義を担当している。ほとんどの業務がテレワークで完結できるので、ワーケーションを取り入れた働き方を実践中!
(2022年1月25日取材)