やさしく解説!地方拠点強化税制について
企業の多くは、東京などの大都市圏に集中しています。しかし、企業が地方に移転するケースが徐々に増えてきており、企業が地方に目を向け始めていることがわかります。そんな企業の動きを後押しするのが、「地方拠点強化税制」です。令和6年度の税制改正では、この制度が令和8年3月31日まで延長され、内容も拡充します。改正ポイントをご紹介します。
地方拠点強化税制とは?
東京一極集中の是非が問われ始めてから十数年が経ちました。災害リスクの分散や地方創生を促進するため、政府は平成27年(2015年)の税制改正で「地方拠点強化税制」を創設しました。企業が、拠点の全部もしくは一部を都市圏(東京23区)から地方へ移転したり(移転型)、地方の拠点強化を行なった場合(拡充型)に、都道府県の認定を得た上で税額控除等を受けることができる制度です。
これまで、対象地域に近畿・中部圏を追加、対象部門に情報サービス事業部門を追加するなど、地方創生に向けた課題解決のために内容を改正してきました。
認定要件は、事務所や研究所、研修所の特定業務施設(※)において、特定業務に従事する常時雇用従業員数が5人(中小企業は1人) 以上増加することなどを満たす必要があります。対象となる業種や企業の規模に制限はありません。東京23区から地方に移転する場合に適用される「移転型」と、地方企業が地方拠点を強化する「拡充型」に分かれており、計画書(地方活力向上地域等特定業務施設整備計画)を作成して都道府県知事から認定を受けた事業者に対し、税額控除等の特例措置が講じられます。整備事業期間は、認定の日から5年以内です。
※特定業務施設とは、
①「調査及び企画部門」、「情報処理部門」、「研究開発部門」、「国際事業部門」、「情報サービス事業部門」、「その他管理業務部門」のいずれかのために使用される事務所のこと。
②研究開発に重要な役割を担う研究所のこと。
③人材育成において重要な役割を担う研修所のこと。
なお、工場及び当該地域を管轄する営業所等は本制度の対象にはなりません。
オフィス減税と雇用促進税制
地方拠点強化税制には、「オフィス減税」と「雇用促進税制」の2つがあります。
○オフィス減税
地方で拠点を新設・増設する場合に、建物等の取得価額に応じて、特別償却や税額控除が受けることができる仕組みです。対象は、事務所・研究所・研修所です。工場・店舗・営業所は対象になりません。
○雇用促進税制
地方で拠点を整備した上で、その施設の従業員を増やした場合に、その増加数に応じて税額控除を受けることができる仕組みです。対象者は、新規採用者や転勤者です(有期雇用やパートを除く)。原則として、企業全体で増加した従業員数が上限となります。
地方拠点強化税制改正(令和6年度)のポイント
今回の改正の大きなポイントは、期間を2年間延長するだけではありません。女性や若者、子育て世代にとって魅力ある雇用の創出を目的として、対象となる事業部門を追加し、企業内の子育て施設もその対象へ追加します。
拡充のポイントは4つ。
【1】税制の対象となる事務所(※)に、「インサイドセールス(電話やオンライン等を活用した事業所内での営業)」や「企業の管理業務(調査企画、経理等)受託事業」といった商業事業部門(一部)とサービス事業部門(一部)の2つを追加。
※現行制度の対象となる事務所は、調査及び企画部門、情報処理部門、研究開発部門、国際事業部門、情報サービス事業部門、その他管理業務部門のために使用されるもの。
【2】業務施設に加え、事業所内の保育施設等の育児関連施設を税制の対象に追加。
【3】移転型の転勤者要件(雇用増の過半数を東京23区からの転勤者とする)について、転勤者の移転期間を現行の「事業開始年度内」から「事業供用開始日から1年間を経過する日までの間」に変更。
※上記の要件に加えて、計画期間を通じて雇用増の1/4を東京23区からの転勤者とすることが必要
【4】施設を新設する場合の雇用促進税制の対象期間を、現行の「整備計画の認定年度から3年度間」から「事業供用開始年度から3年度間」に変更。
地方拠点強化に係る整備計画の認定実績は、令和6年1月末までに680件(内訳:移転型70件、拡充型610件)、計画に基づく雇用創出数は約2.8万人となっています。地方の移転先で働く従業員が住みやすい環境をつくることは、企業にとって非常に重要な課題です。独自の制度が用意されている地域(自治体)もありますので、ぜひ積極的に相談してみてください。
(2024年3月作成)