子どもたちの好奇心を育む「ふるさとホームステイ」とは
みなさんは、「ふるさと」と聞いて何を思い浮かべますか?
自分や家族が生まれ育った場所、祖父母や親戚が住んでいる場所、学生時代に過ごした場所など、人によって思い浮かべる場所はさまざまですが、なかには田舎の風景を思い浮かべる人も多いと思います。
そのような田舎の風景に子どもたちが触れあえるよう、(一財)都市農山漁村交流活性化機構(以下、『まちむら交流きこう』)では「ふるさとホームステイ」として、子どもたちが農山漁村で「ふるさと」を体感できるよう、様々なプログラムを用意しています。まちむら交流きこう 業務第1部グリーン・ツーリズムチーム長の花垣 紀之さんにお話を伺いました。
子どもたちに「ふるさと」体験を
日本で農山漁村滞在に目が向けられたのは、今から32年前-平成4年(1992)に農林水産省において「新しい食料・農業・農村政策の方向」を公表したことがきっかけでした。以前から農村に滞在するバカンスが普及している欧州の状況を踏まえ、日本でも緑豊かな農山漁村において、自然、文化、人々との交流を楽しむ滞在型の余暇に注目が集まりました。こうしたグリーン・ツーリズムの機運はさらに高まり、2年後には「農山漁村滞在型余暇活動のための基盤整備の促進に関する法律」(平成6年法律第46号。いわゆる農山漁村余暇法)が議員立法で成立し、都市住民を受け入れる農林漁業体験民宿業者の登録制も始動しました。グリーン・ツーリズムの機運はその後も衰えず、農山漁業者や団体以外でも農林漁業体験の民宿も、都市の人々が農村に行く際の受け入れ先に加わるなどして、現在に至ります。
「ふるさとホームステイ」では、子どもたちが学校教育・社会教育等の宿泊体験の機会に、国内の農山漁村地域で生活している家庭に寄宿し、その家族の「一員」として過ごすなかで、地域の農業や林業、漁業や、それらを取り巻く文化や人々への理解を深め、ひいては日本の「ふるさと」を体感することを促しています。「ふるさとホームステイ」の受け入れ先は登録制で、全国の農山漁村地域の市町村153ヶ所(令和4年6月現在)が登録されており、小中高校の修学旅行や林間学校、セカンドスクールなどで活用されています。
「『まちむら交流きこう』が活動を始めた当初は、農林漁業家のお宅に泊まるだけのイメージでスタートしました。しかし、子どもたちが地域の人や文化と密に交流している様子を見て、『私もやってみたい』と声が上がり、農林漁業家だけでなく、『受け入れたい』と手を挙げてくださるすべての方々が登録できる仕組みが整備されていきました。これまでホームステイを受け入れてくださった方々の年齢が上がっていき、若い世代の方々もホームステイ先になったり、移住者の方が受け入れ家庭を担われていることもあります」
ふるさとホームステイの特色は?
自然豊かな農山漁村に滞在し、農業や漁業、林業の仕事体験や郷土料理づくり、伝統芸能に触れるなど、都会では経験できない暮らしを学ぶことができる「ふるさとホームステイ」。主に6つの特色があります。
「受け入れ先が農山漁村地域であるため、農作業のお手伝いをすることももちろんありますが、子どもたちが滞在先の家事や家業を一緒に行ったり、地域の活動で人手が足りていないことがあればお手伝いに行くなど、訪問先地域の生活体験活動全般を経験します。普通の宿泊とは異なる過ごし方で、滞在が終わる頃には涙ながらにお別れすることもあります」
子どもたちを地域のファンに
親と離れて見ず知らずの人の家に泊まるという経験は、子どもたちにとっては不安もあるかもしれません。一方で、「ホームステイ先のご家庭には、子どもたちを自分たちの家族として、可愛い我が子、あるいは孫だと思って接してもらっています。地元の食材を使ったごく普通の家庭料理を、一緒に作って一緒に食べる共同調理を行うため、食べ物のアレルギーなどは事前にしっかり情報を共有し、お互いに不安のないようにします。また、ホームステイ先の家庭には事前に研修も実施しています」。
「ふるさとホームステイ」は子どもたちだけのものではありません。1泊2泊子どもたちと接するだけでも、ホームステイ先の家庭や地域は、和やかな雰囲気になります。「受け入れ前には多少の不安があっても、ホームステイ先の家族や地域の方々からは、『思ったほど大変ではなかった』『子どもたちの楽しそうな声が聞こえるのはありがたい』という声も多く聞きます。また、受け入れ後には晴れやかな表情をされる方々もいらっしゃいます。『ふるさとホームステイ』を通じて、『本当に地域の活性化の役に立っている』『地域のファンづくりが地域のためになるんだ』という気持ちになっていただけているようです」
ふるさとホームステイで生まれる地域との交流
ホームステイ先の家族は、受け入れる子どもたちに対して家族の一員のように接するので、参加した子どもたちは受け入れ先の家庭や地域への関心が継続するようです。
「子どもたちがホームステイから帰ってくると、受け入れ先での体験や楽しかったことを、早速、お父さんやお母さんに一生懸命お話しして、気づけば疲れて眠ることもあるそうです。子どもたちにとって『ふるさとホームステイ』は楽しく貴重な体験になっていると思います。農家にホームステイした子どもが成人し、自分の子どもを連れてホームステイ先に遊びに行ったり、自分のお父さんお母さんと一緒に移住したりという話も聞いています。受け入れる方々が思っている以上に、子どもたちはホームステイ先の地域に思い入れや関心を寄せるきっかけになり、保護者も子どもを通じて、地方の農山漁村に関心を持っていただくいい機会になっています」
地方の農山漁村での生活体験や家業体験は、食文化を支える一次産業への理解を深め、地方ならではの暮らしぶりを経験することで、子どもたちの好奇心を刺激しているようです。
(2024年2月作成)