「奨学金の返還を肩代わりして、地方の未来を担う若者を応援する」
制度(奨学金返還支援制度)を活用しよう
若者の地方定着やUIJターンを促したい
地方で暮らす若者を対象に、大学などに在学中に貸与された奨学金の返還を自治体などが支援する制度があるのをご存じでしょうか。自治体ごとに一定の要件が定められ、それを満たす方の奨学金返還を支援する取り組みを行っています。実施している自治体の数は年々増え続け、2021年6月現在で33府県、487市町村に及びます。
多くの自治体が、その域内に一定期間居住することや就業することなどを、奨学金返還支援の要件にしています。というのも、大学生など若者の地方企業への就職を促進し、若者の地方離れに歯止めをかけたいというねらいがあるからです。
地方の人口減少、特に生産年齢人口といわれる15~64歳の層の減少傾向が続いています。地域社会の担い手が減っているだけでなく、地域経済の縮小がさらなる人口減少をまねくという負のスパイラルが、現実的な脅威となっているところもあります。そこでこの制度が、若者の地方定着や都市部からのUIJターンを促進するきっかけになることが望まれているのです。
経済的な支援でポジティブな将来展望を
これから社会に出る若者にとっても、経済的な負担が軽くなることは大きなメリットであると言えるでしょう。実際に制度を利用した人からは、「精神的な不安感の解消につながった」「新しいことにチャレンジする意欲が芽生えた」「奨学金を無理なく返還する計画を立てることができ、結婚を現実的に考えられるようになった」など、この制度が人生を前向きに歩むための後押しになったという声が多く聞かれます。
就職活動においても良い作用をもたらしています。数十年先まで奨学金を返還していかなければならないことに不安を感じていたという若者は、「本制度を利用できる企業であることが就職先を決める上で後押しになった」といいます。「UIJターンの決め手になった」といった声も少なくありません。
このように、自治体にとっては、地域の未来を担う人材の定着に繋がり、若者にとっては、ポジティブな将来のための経済的な支えになるというメリットがあり、双方にとってWin-Winな制度といえるでしょう。
要件は「まちに住み、まちで働くこと」
いくつかの自治体を例に、実際の支援の要件や内容を紹介しましょう。
先に触れたように、対象の自治体で何年間か就業するか居住することを要件にしていることが多いです。例えば岩手県は、県の認定した企業に8年間就業し、かつ県内に居住する見込みであることを要件としています。支援内容は、返還総額の2分の1です(上限(250万円等)を設定)。
徳島県は、大学などを卒業後、県内に居住し、6か月以内に就業した県内事業所で36か月就業する見込みであることを要件としています。支援内容は、日本学生支援機構の無利子奨学金から貸与された総額の2分の1(上限100万円)等です。
秋田県は、募集人数の制限を設けていないことや、正規雇用者だけでなく契約社員やアルバイトといった非正規雇用者も対象にしていることが特徴であり、支援人数や支援額の大きな自治体の一つです。ちなみに、京都府、鳥取県、福岡県福岡市、岐阜県高山市なども、支援人数や支援額の大きな自治体として挙げられます。
山形県(やまがた若者定着枠)は、県内すべての市町村と連携して、県内の高校等の出身者又は県内の大学等の在学者を対象に卒業後に奨学金の返還を支援しています。大学などを卒業後13か月以内に県内に就業し、5年間居住する見込みがあることが要件です。
特定の分野の人材を求める自治体が、その職業に就くことを要件としているケースもあります。例えば、高知県の四万十町は看護師や保育士、社会福祉士などを対象にした枠を設けています。福島県鮫川村も、医師、看護師、社会福祉士などのほか、農林業に就業することを要件としています。また、滋賀県甲賀市のように、ワーク・ライフ・バランスの推進に積極的に取り組む企業などに就職することを要件としている自治体もあります。
将来を見据え、ライフプランに合う地域の制度を
申請の時期によっては制度の要件や支援内容が変更になったり、新たな制度が導入されたりするケースもあります。奨学金返還支援制度の活用を検討している人は、事前に自治体のWEBサイトなどをチェックするとよいでしょう。内閣官房・内閣府のサイトでも全国の自治体の取り組み(2021年6月1日現在)を紹介しているので、確認してみてください。
『「奨学金」を活用した大学生等の地方定着の促進』(内閣官房・内閣府総合サイト)
https://www.chisou.go.jp/sousei/about/shougakukin/index.html
いろいろな情報をもとに、仕事を含めた将来の暮らし方について考えをめぐらせて、自分に合った自治体の制度を活用していただければと思います。
【取材先】内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局
(2021年12月22日取材)