農家のイメージを変える 梅ボーイズの挑戦
梅の生産量日本一を誇る和歌山県みなべ町。しかし、地域では梅農家の高齢化が進行。後継者も見つからず、そのまま耕作放棄地となる農園が増えています。このような梅農家のさまざまな課題解決に取り組んでいるのが、20~30代の若手梅農家たちからなる「梅ボーイズ」です。率いるのは、地元みなべ出身の山本将志郎さん。山本さんは梅農家の現状を打破するため、あらゆる可能性に挑戦。それに感化された若者たちが“自分も就農したい”とみなべ町に移住を希望し、全国から集まっているのをご存じでしょうか。梅ボーイズの取り組みを教えてもらうと、農家が抱える問題を解決するための手がかりがたくさん見えてきました。
がん新薬の研究から梅農家の道へ
山本さんの実家は5代続く梅農家。大学時代は薬学部でがんの新薬研究に打ち込み、梅農家になるつもりはなかったそうです。しかしある日、家業を継いだ兄から「梅の栽培にやりがいが感じられない」と生産者の本音を耳にします。みなべでは梅の生産・加工・販売が分業になっているのが一般的。生産者は自分の育てた梅がどのように加工され、どこへ販売されるのかが分からない実態があったのです。兄の言葉を聞き、山本さんは一念発起。製薬会社への就職を断り、大学卒業後、梅の生産・加工・販売を一気に手がける梅干し屋「株式会社うめひかり」を2019年に創業します。
梅の生産現場をもっと強く
生産・加工・販売を自社で担うビジネスモデルはSPA(製造小売業)と呼ばれ、これらを一気に行うことで中間マージン(手数料)を極力抑え、自社が儲かりやすくなるメリットが生まれます。うめひかりも例外ではなく、そこには山本さんの「生産現場を強くしたい」という思いが込められています。
「生産・加工・販売の中で、利益が出にくく一番取り残されやすいのが生産です。また、梅を作る人が少なくなっているのも現実。梅がなければ梅干しは作れません。これからもみなべを梅の一大産地として成立させるには、これらを切り離して考えていたらダメなんですね。改革に時間がかかってもいいので、機械化や技術の向上など、生産現場が進化していくことが大切だと思っています」
安定した雇用を生み出すために
生産現場が強くなれば、農家の安定した雇用も期待ができます。事業が軌道に乗り始めると 、“梅農家に挑戦したい”と就農を希望する全国の若者から問い合わせが来るように。そこで山本さんは、やる気のある若者たちへの就農支援を開始。「梅ボーイズ」としてうめひかりの従業員で雇い、農業の課題解決にチャレンジしていきます。
創業から約6年で、従業員54人を抱える会社に成長。将来的には約3倍の150人規模を目指したいとのこと。また、「2027年までに会社として梅生産量日本一を達成する」「5年後には生産者の平均年収を600万円に上げる(現在は約400万円)」「10年後には農地を100ヘクタールにまで拡大する」ことを目標に掲げています。「これらが達成できれば、農家の雇用を生み出す一つのモデルとなり、他の農業にも波及するのではないか」と山本さんはいいます。
採用希望者には1日農作業体験を
SNSでの積極的な発信もあり、梅ボーイズの取り組みは多くのメディアで紹介され、一躍有名に。それを見た若者からの問い合わせも途切れることなく来るそうです。
「月に3~4人はSNSを通して“就農したい”とメッセージが来ます。しかし、農家の仕事の実際は肉体労働です。採用希望者には面接に加えて作業を1日体験してもらい、“現場の仕事ができるのか?”をチェックするようにしています」
農作業は、その時期に合わせた内容(収穫や草刈り、木の枝の剪定、ネット張り)を実施。採用につながるのは、5人に1人の割合と狭き門です。
生活のサポートは会社の制度として
希望者へはあくまでも「農家として働けるか?」という部分をみる山本さん。移住してくる従業員へは、入社にあたり特別な支援はしていないといいます。
「田舎から都会の会社に就職するとき、自分で住まいを探したりすることと一緒です。町内周辺にアパートはたくさんありますし、生活基盤も整っています。特に行政の手を借りるということはしていないですね」
その一方、従業員としてのサポートは手厚くするよう心がけています。入社1年目からいろんな仕事を任せたり、各部門を回る社内ツアーを行ったりして、仕事の理解が進むようにしているそう。また、従業員が長く働けるような福利厚生も重視。地方で暮らすにあたって足りない部分を“会社の制度”として取り入れていきたいといいます。例えば、地元では子どもの預け先も少ないため、敷地内に託児所も設ける予定。料金も相場の約半額で提供し、従業員が仕事と子育てを両立できる環境も整備しています。
農業に本気で取り組む人が集まる
梅ボーイズのメンバーにも話を聞きました。
2023年2月に東京都から移住した梁拓夢(りょう たくむ)さん。山本さんの大学の同級生で、大学卒業後は通信会社でロボットトラクターの実証実験など、農業の効率化に携わる仕事をしていました。農業に関心が高まる中で梅ボーイズを知り、「自分もやってみたい」と山本さんに直談判、うめひかりに入社しました。現在は梅干し製造のほか、前職の経験を活かして農作業管理の効率化にも取り組んでいます。
「仕事は大変ですけど楽しいです。農業は昔ながらのやり方が残っていることが多いのですが、梅は収穫や選別もずっと手作業で、“えっ、こんなに手間がかかることをするの?!”と感じる場面は結構あります。効率化という面では伸びしろがあり、やっていてとても面白いですね」
また、“みなべにどんどん若者を呼び寄せたい”と話します。
「ここには、“農業を面白く変えたい”という熱い思いを持った若者がたくさんいます。それに賛同した人がもっと集まって欲しいです。その分、会社も大きくなっていくでしょうし、私は会社が上手く回るようにこれからも支えていければと思っています」
菊川義経さんは、元々農業が好きで大阪府からみなべに移住。初めは梅の仲買業者に勤めていましたが、自分で農園を持ちたいと思う中で梅ボーイズの活動を知り、うめひかりに転職しました。“みなべが若者が農業をしたいと思える場所になれば”といいます。
「ここでは梅栽培についてしっかり学べる環境があります。ちゃんとしたフォローもあり、皆目標に向かって楽しく仕事ができています。特に収穫時期の梅の実がなっているところを見ると、これまでの集大成を感じられ大きなやりがいがありますね。そんな梅農家のやりがいを、次世代につなげていきたいです」
そんな取り組みから、さまざまな人気商品が生まれています。ベストセラーになっている「梅と紫蘇」は、完熟して自然落下した南高梅を使用しており、皮が柔らかく、フルーティな香りが特徴。天日塩と宮崎から取り寄せた赤紫蘇で仕上げており、プレミア和歌山の最優秀賞を受賞しました。
“サラリーマン農園長”を増やしたい
耕作放棄地の再生にも精力的に行う梅ボーイズ。今後はこのような農地を買い上げ、農園の拡大を図るとともに、農家の仕事のやりがい創出を目指します。山本さんが掲げるのは“農家のサラリーマン農園長”です。
農園は一般的に、農地を借り受けて経営するのが主流だそう。梅ボーイズでは、細かい農地や捨てられた農地などを買い上げ、移住者へ貸す取り組みも実施。これからは地元の個人農家との経営統合を行い、農地を共同で経営したいといいます。
「経営統合することで、災害や不作など予測できない事態のリスク分散になりますし、個々の農家が受ける損害額の差も小さくなることが期待できます」と、山本さん。
その経営モデルは、農園毎にリーダーとなる“農園長”を任命し、経営を一任。農園に利益が出れば、その分農園長の収入に反映される仕組みを描いているそうです。
先進的な活動が評価
彼らの取り組みは、先進的なものとして多方面から評価も。2026年に入り、起業家精神を持つ農業経営者を表彰する「グラウンドブレイカーアワード」大賞、「地域再生大賞」準グランプリを受賞しました。山本さん自身も北海道や茨城などへ出向き、梅栽培のノウハウを伝えているそう。農家のイメージを変えようとするうめひかり・梅ボーイズの挑戦。農産業のあり方そのものを変えていく波が、和歌山から全国へ広まろうとしています。
(2026年2月作成)
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