海外中心の生活から、娘の希望で伊賀へ移住
寒河江 佐敏さん

寒河江 佐敏さん
東京都大田区出身。2021年7月に東京都から三重県伊賀市に移住。
- 移住時の年代:40代
- 家族構成:妻・子ども1人
- 移住スタイル:Iターン
- 職業:建設業
建設会社で海外勤務が中心の生活を送る
「海外で大きな仕事をしてみたいと思っていたので、その夢がかなって、それなりに充実した生活を送ることができたと思っています」
大学卒業後、電気設備関連のエンジニアとして建設会社に入社し、液化天然ガス(LNG)など大型プラントの建設を手がけてきた。32歳の時に中東のカタールに赴任して以来、海外での仕事が中心。ミャンマー、マレーシア、フィリピン、インドネシア、そしてオーストラリア……。これまでの会社員生活で、海外と日本で生活した比率を尋ねると、7対3で海外暮らしの方が多いという。
36歳で結婚。2011年10月に長女が生まれたが、海外での仕事は続いた。妻が東京都内の医療機関で働いていたこともあって単身赴任生活が続き、長女誕生の知らせも海外で聞いた。
家族ができて、これまでの仕事一辺倒の生活を見つめ直すようになったという。「特に娘が生まれてから、海外へ1人で旅立つ時、それまで体験したことのない寂しさを感じるようになったんです」

国内のプロジェクトで、初めて伊賀に滞在、移住へ
その後帰国し、日本国内のプロジェクトを手がけるように。2020年から三重県伊賀市で始まった大型プロジェクトに参加するため、伊賀で約1年半、単身ホテル暮らしが続いた。ただ、海外と違って家族が何度も遊びに来た。そうするうち、長女が「伊賀に住みたい」と言い出した。芋掘りなどを通じて、伊賀の自然が気に入ったようだ。何度確認しても決意は変わらない。「家族で一緒に暮らしたいとは思っていましたが、移住のきっかけとなったのは娘の一言でした」

2021年7月末に、自身が伊賀市に住民登録をし、翌月、妻と娘も転入。伊賀では空き家を探した。空き家バンクに登録をして、さまざまな物件を見たが、これはという家になかなか出会えなかった。そんな時、チラシで築17年の平屋が売りに出ているのを偶然見つけた。地元の大工が自ら住むために建てた家で、造りがしっかりしていて、手入れせずにすぐ住めるのが魅力だったという。
近くのスーパーまで車で10分。職場までは車で約30分。娘が通う小学校まではバスで10分ほどかかる。それでもちょっとしたものはインターネット通販でも注文でき、差し当たって生活に困ることはないという。

都会で感じることの少ない人の温もりを感じる
東京で住んでいた賃貸マンションは、約70平方メートルの3LDKで、家賃は月18万円。伊賀ではその家賃がかからなくなった。一方で、妻が仕事を辞めたため、その分の収入が減った。冬になると、気温が氷点下になることもあり、家が広いこともあって暖房費も意外にかかる。
ただ、外食やレジャーにかける出費は抑えられている。外食することの多かった一家が、伊賀ではほとんどしなくなった。自宅の畑で育てた白菜や玉ねぎを使って料理を作り、近所の農家からも収穫した野菜などをよくもらう。「以前はレンタカーでキャンプに出かけたりしていたのですが、ここでは遠くに遊びに出かけなくなりました。その分、庭の手入れをしたり、地域の行事に参加したり」

それ以上に、伊賀に移住して良かったと思うのが、地域の人たちの優しさに触れられることだという。地域に50世帯ほどしかないが、「何か困っていることはないか」と、何かと気にかけてくれる。都会ではあまり感じたことのない近所づきあいの温もりを感じられるのだ。
都会から来たよそ者の自分たちを受け入れてくれたことが嬉しかった。そのためには積極的に地域のコミュニケーションの輪に入っていくことが大切だという。傍観者にならないこと。「どこに移住しようが、受け身ではなく、進んで地域に溶け込もうとすれば、地域で受け入れてもらえるはずです」

これまでの経験を地元に還元したい
移住を考えている人へのアドバイスとして、「生活するために、何らかの形で収入の目処を付けておいた方が安心できる」と話す。「自分の場合、勤め先を辞めずに伊賀に移住できたので良かった。とにかく生活の環境を変えたいからと、何もかも投げ捨てて地方へ移住するのはおすすめできない」
家族がいれば、移住することに対して意思統一をしておくことも重要になるという。
「あえて移住しないという選択肢も含めて、さまざまな点を慎重に検討してから行動した方が充実した移住になる可能性が高い。行けば何とかなるというのでは、正直、移住の果実を得るのは難しいかもしれません」
伊賀でのプロジェクトが終われば、また海外赴任の話があるかもしれない。その時、どうするかは決めていないが、いずれにしても伊賀を生活の拠点にしていくつもりだ。
これまでの海外などで得た仕事の経験や知識なども、機会があれば、地域に還元したいと思っている。家族にとって、伊賀への移住はそれぞれの生活を見つめ直す豊かな機会となっているようだ。

(2022年1月21日取材)
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