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LIFE STYLE移住者の暮らし

加賀の山里で、自然に浸りながら子育て。次は民宿を

近藤 裕佑さん

PROFILE
近藤 裕佑さんの写真

近藤 裕佑さん

千葉県柏市出身。千葉県習志野市から2023年4月、石川県加賀市に移住

  • 移住時の年代:40代
  • 家族構成:妻、子ども2人
  • 移住スタイル:Iターン
  • 職業:中学校支援員

長男に「人の暮らしの原点」を知る生活をと、移住を決意

北陸新幹線「加賀温泉駅」から車で南へ20分ほど走ると、山々に囲まれた「東谷地区」(石川県加賀市)に着く。ここは、江戸時代、藩の御用炭の生産で栄えた。赤瓦でふいた屋根に煙出しを設けた古民家群が、周囲の自然と独特の歴史的風景を作り出しているとして、国の「重要伝統的建造物群保存地区」に指定されている。千葉県で中学校の社会科教師をしていた近藤さんは、2023年4月、妻のなぎ沙さんと、当時、2歳の長男の3人で、地区内の集落のひとつに移住した。この10世帯ほどの山里を移住先に決めたのは、「子どもに、旅という一時的な滞在ではなく、日常的に自然に触れることで、“人の暮らしの原点”のようなものを感じてほしかったから」だという。

東谷地区

きっかけは、自然のなかで子どもたちと寝食をともにした経験

「自然のなかで子どもを育てたい」との思いは、大学卒業後に就職した長野県のNPO法人で、自然体験指導者を15年間した経験から生まれた。年間600人の子どもたちを受け入れてキャンプをし、山村留学制度に応募して来た子どもたちと、1年間、寝食をともにした。そこで、日を追うごとに変わっていく子どもたちの姿を見た。「自然は、土砂降りの雨や凍える寒さを見舞ってくる一方で、とてつもなく美しい星空も見せてくれる。子どもたちは、心動かす感動をしながら鍛えられ、たくましくなっていきました」。自身も、自然の流れのなかで心身が活性化し、生命力が引き出されたような感覚を味わった。「自分に子どもができたら、こんな体験をさせてあげたい」と強く思ったという。

「Google Earth」で地形を見て、候補地探し

教師になりたいという昔からの夢もあり、長野県での仕事に一区切りついたところで、出身地の千葉県の中学校教師に転職、充実した毎日を送っていた。しかし、結婚して長男が生まれ、「やはり、自然のなかで生活したい」との思いが強まり、子どもが都会の生活に慣れる前にと、「3歳までに移住を実現させる」との目標を立てた。
妻と決めた移住先の条件は三つ。「ある程度の高さがある山、渓流魚が住む川、シュノーケリングができるきれいな海があること」、「農作業ができる田畑があること」、「豊かな文化やコミュニティーがあること」。まず、千葉県や北関東で候補地を探したが、条件に合う場所がない。そこで、思いついたのが、宇宙から日本を俯瞰(ふかん)したように見る「Google Earth」で、地形を見ながら探すこと。候補地を、気候などから北陸地方に絞り、北から海岸線をたどっていき、最終的に、山と海の距離が近く、渓流魚が泳ぐ清流がありそうな加賀市に行き着いた。

かまくらを作る近藤さん家族

夏は川や海、冬は雪で遊び、畑仕事 毎日が新しい発見

加賀市には、相談に応じてくれる「移住コンシェルジュ」のほか、「移住コーディネーター」もいて、お試し移住の案内や、近藤さんがやりたかった自然体験教育に興味のある人の紹介をしてくれた。そこで出会った工場経営者と意気投合。工場で働きながら、経営者が始めたキャンプ場でアルバイトをさせてもらえることになった。住まいは、築100年近い古民家を購入、仕事の合間に、テニスコート2面分ほどの広さの畑で野菜作りも始めた。石をどけて土を耕すところから始め、キュウリ、ナス、大根、ジャガイモなど様々な種をまいた。長男とは、できるだけ一緒に畑仕事をすることにしている。虫や獣に食べられた葉や実があると、「虫たちは野菜を食べて頑張っているんだね。野菜も病気になったりしながら、いい実をつけようと頑張っているんだよ」という話をする。「子どもには、生きる力だけでなく、自然へのリスペクトも学んでほしいと思っています」。
冬はかまくらを作り、家族で体を寄せ合って食事をした。移住1年後に二男が生まれ、長男は「もっと大きいのを作らないと」と張り切っていた。夏は徒歩5分で川へ、車で30分ほど走れば、三つの海水浴場に行ける。長男は、浮輪で漂っているだけだったが、次の年はゴーグルをつけて海の中の魚を見て、「水族館みたい」と大喜び。最初は怖がっていた海に、毎日、「行きたい」と言うようになった。日々の生活は同じサイクルの繰り返しになりがちだが、子どもは成長と共に、毎日、新しい発見をして、楽しみを増やしていく。それを見るのが楽しみだという。

農家民宿「ゆうなぎ」

農家民宿を地域コミュニティーの拠点に

2023年秋に購入した築130年の古民家を改装し、里山暮らしの宿「古民家ゆうなぎ」を2025年春にオープンさせる。赤ちゃんから家族みんなで、ホタルの鑑賞会やサツマイモの収穫、ユズのジャム作りなどが楽しめる様々なプログラムを用意する予定だ。目指すのは、「何度も、違う季節に訪れたくなる宿」。工場を辞め、中学校の支援員のアルバイトをしながら、床のリフォームなど、開業準備を急いでいる。将来は、地域コミュニティーの拠点として機能させたいとの構想もあり、土間にテーブルを置き、カフェのような利用も考えている。その時には、なぎ沙さんが集めてきた、木のおもちゃが活躍することになりそうだ。なぎ沙さんは、保育士、幼稚園や小学校の教諭免許のほか、「おもちゃコンサルタント」や「木育インストラクター」の資格を持っている。「おもちゃは、お年寄りのリハビリなど、年齢に関係なく、コミュニケーションのツールとして使えます」となぎ沙さんは話す。宿泊者がおもちゃで遊べる空間を作ったり、子どもの年齢に合わせたおもちゃを、なぎ沙さんが選んで貸し出したりすることも考えており、市内の育児サークルの活動の場にするなど、様々な人たちが集まれる場所にもしたいと、2人で知恵を出し合っている。

近藤さんのお子さん二人

助成金など応募のタイミングも調べて準備を

移住を考えている人へのアドバイスとして、まず、近藤さんが挙げるのは、いろいろな季節に訪れてみること。自身も、家や就職先が決まるまでの1年間、お試し移住を4回利用して、山や海、川を訪れ、自分の希望に合う土地かどうかを確かめた。さらに、人とつながりを持てる機会を作っておくこともお勧めだという。「家を紹介してもらったり、私のように就職につながったりするかもしれない。移住後も困りごとの相談ができるし、本当に心強いです」。また、どんな補助金や助成金があるかも、移住先を考える際に大きなポイントになる。近藤さんは、加賀市から、移住者を対象にした住宅取得助成金90万円をもらい、自宅のリフォームなどに使った。ほかにも、石川県の里山振興ファンドから、2年間、助成金をもらえることになっている。「移住計画を立てる際、募集期間や応募の締め切りを組み込んで考えてみてはどうでしょう」とアドバイスする。

(2024年12月17日取材)

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