ここは深呼吸ができる… 故郷で見つけた色々な「好き」
尾花 理恵子さん

尾花 理恵子さん
栃木県佐野市出身。2021年9月から栃木県佐野市に移住。
- 移住時の年代:30代
- 家族構成:独身
- 移住スタイル:Uターン
- 職業:ヨガインストラクター、アーユルヴェーダセラピスト、文化活動コーディネーター
INDEX
移住後も週に複数回は都内で仕事 ホッと安らぐ地元の空
東京から高速バスに揺られ、約1時間半。栃木県佐野市のバスターミナルに降り立つ時、尾花さんはホッと心が安らぐのを感じる。「空が広くて、空気が美味しくて。東京に住んでいた時は、家に帰っても仕事のことを考えてしまいましたが、今は切り替えができています」。故郷の栃木県佐野市にUターンして3年余り。週に3〜4回は東京・神奈川のヨガスタジオで講師を務める傍ら、公益財団法人の非常勤職員として、地元文化の魅力を発信する仕事もしている。今の尾花さんにとって、故郷はチャレンジの場でもあり、ホッとする場所でもあり、「もっと知りたい」場所だ。

「道くらいは知っている場所から始めたい」と故郷でチャレンジ
尾花さんは、大学卒業後、都内の総合電機メーカーに入社。スケールの大きな仕事で、社会貢献性も高く、仕事に熱中する日々を過ごした。一方で、「自分で事業をしてみたい」という思いがあった。「リスクをとって、自分でゼロから事業を立ち上げる経験は、会社員ではできないこと。周りと比べてしまうこともあったからか、もっと自分に自信をもちたかったんです。せっかくなら、好きなヨガで事業をしようと決めました」
元々ヨガは趣味だった。上達したいとインストラクターの資格をとり、副業として講師を始めると、これまでの仕事とは違うやりがいが見えてきた。「スタジオで教えることで、目の前の人を幸せにできるお手伝いができるんだな、と感じられました。会社での仕事は、人々の生活を良くするためのものでしたが、その一人ひとりの顔は見えません。どちらも充実感はあったのですが、もっと『目の前の人を幸せにする』仕事がしたくなったのも、移住につながっています」
Uターンを決めたのは、チャレンジをするなら「道くらいは知っている場所から始めたい」と考えたからだ。「事業を始めるのは、リスクが伴うこと。それならば、少しでも知っている場所で始める方が安心だと考えました。一方で、大学進学と同時に故郷を離れたので、人間関係はほぼゼロからのスタートでした」。退職後、東京・神奈川のヨガ講師の仕事と並行しながら、佐野市にヨガスタジオの開設準備を進めた。2021年9月に佐野市に移住、スタジオもオープンした。「スタジオ自体は、同級生が紹介をしてくれましたが、その後の集客のための人脈はなく、経営も経理も初めて。SNSで発信したり、Webサイトを整えたりとできることは何でもしました。来た方が他の方を紹介してくださり、徐々に輪が広がっていきました。今は、インドの伝統医学に基づいたオイルトリートメント『アーユルヴェーダ』とプライベートヨガのサロンとしてリスタートを切りました」。苦労もあったが、Uターンしての事業を始めるのは「メリットが大きかった」と尾花さんは考えている。

離れて知った自然の美しさ 初めて知った文化の豊かさ
高校時代まで暮らしていた場所ではあるが、自然の豊かさも新鮮に感じた。「都会にいた頃はこんなに広い空は見られなかったなと。水がおいしいことにも驚きました。以前はペットボトルの水を買っていましたが、今は水道水をマイボトルに入れて持ち歩いています」
一度離れたからこそ知った、故郷の魅力。中でも大きな出会いが、佐野が誇る名産品である「天明鋳物」だった。天明鋳物の起源は千年以上前に遡る。茶の湯の「釜」を始め、鍋など生活用品にも使われ、千利休が使ったとされる。とある日、尾花さんは地元の公益財団法人「佐野市民文化振興事業団」が主催する、天明鋳物を知るためのイベントに参加した。たまたまSNSで知り、「面白そう」とすぐに申し込んだという。「室町時代の茶釜を、鋳物師さんたちが大切に修理しながら今も使えるようにしていると知りました。その茶釜を使ってお茶を飲む体験もして、堅苦しいものだと感じていた伝統が一気に身近に感じられて。こうして一生懸命文化を守っている人たちが佐野にいたんだなと知って、私も何かしたいと思ったんです」
この縁で、佐野の文化を発信する活動もするようになった。「私がそうだったように、同世代や下の世代はあまり佐野のことを知らないし、知る機会もない。地元の誇りや愛着がなかったから、私も一度出て行ったんだと思うんです。いつか地元に何かできたら、と引っかかっていた気持ちもずっとありました。この活動を通して、佐野の人がもっと故郷を好きになる手助けができたら」。師範から教わる日本舞踊体験の様子や、江戸時代から続く酒蔵に携わる人へのインタビューなどをインターネットで発信している。

ふとした日常の風景で「自分を取り戻せる」
佐野に戻って3年が過ぎた。東京との往復や、スタジオの運営、新しい出会いなど、目まぐるしく日々が過ぎていく中で、佐野は「自分を取り戻せる場所」だと感じているという。「朝起きた時に、鳥のさえずりが聞こえたり、ふと見上げた空がきれいだったり、夜空に浮かぶ月がハッとするほど美しかったり。慌ただしい日々の中で、『自分が一番欲しかったのはこれなんじゃないか』と感じるんです。車で20分ほど走ると、景色のいい出流原弁天池というところがあり、そこを『深呼吸スポット』にしています。これから新しいキャリアを作らないといけない、と焦りもある中で、自分を取り戻せる場所がすぐ近くにあるんです。ゆっくり深呼吸をできる幸せ、を佐野で見つけました」
(2024年11月5日取材)
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