転職をきっかけに茨城県鹿嶋市へ

「これまでは、学校の中や会社の中で生きてきました。同質な人たちに囲まれて、その壁の中だけで生きてきたという感じです。でも、移住してそうした壁がなくなり、世の中には価値観や考え方の違ういろんな人がいるんだということを実感しています」
2021年10月に東京から鹿嶋市に移住した菊池さん。鹿嶋市と同じ茨城県の那珂市出身で、両親も本人もJリーグの地元サッカーチームのサポーターだ。そのチームの運営会社社長が、鹿嶋市周辺地域の活性化を目指す新会社を設立。その会社への転職を機に移住した。
ホームグラウンドであるスタジアムには何度も訪れており、鹿嶋市にはなじみがあった。サポーターとして社長のツイッターをフォローしていたところ、新会社のスタッフを募集する告知があり、初めは副業として参加するつもりだったが、本格的に転身し、鹿嶋市に移住することになった。
「両親も都内に住んでいて、以前から茨城県に戻る話をしていました。僕が今回、転職にともなって鹿嶋市に移住する時に『先に帰るよ』と言うと、とても喜んでいました。これまで僕の仕事については何も言われたことがありませんでしたが、初めて応援してくれました。移住を機に両親といろんな話をするようになり、以前より仲良くなりました」。その両親も、菊池さんの後を追うように、2023年2月に那珂市にUターンしたという。

若者に魅力あるコミュニティーづくりを目指す

以前から地域の活性化には関心があったという。「大学のころ、スキューバダイビングのインストラクター資格を取得して、いろんなところにダイビングに行きました。そして、魅力的な自然資源に恵まれているのに活用されず、さびれた地域がたくさんあることに気づきました。こんなに自然が豊かで僕たちは楽しいのに、地元の人たちは諦めている。なんとか地域を元気にできないか、できれば故郷の茨城でそれをやってみたい、ずっとそう考えていたんです」。新会社は、菊池さんのそんな想いと一致するものだった。
現在のスタジアムに代わる新スタジアム建設の構想が練られており、新会社の狙いは、行政と連携して地域を活性化することにより、地元チーム、ひいてはJリーグ全体を盛り上げること。大きな柱は、新スタジアムを軸とした新しいまちづくりと、若い世代の定着を図るための魅力あるコミュニティーづくりだ。
「この地域は工業地帯なので、工場の移転や閉鎖などが人口に大きな影響を与えるにもかかわらず、それについて危機感をあまり持っていないことが、僕には危機に感じます。また、地域に大学がないこともあり、若い世代が非常に少ないことも大きな課題だと思います」
菊池さんは現在、鹿嶋市や隣接する潮来市での取組などに携わっている。「潮来市は、水が豊かな水路の街なのですが、水路はお祭りの時くらいしか活用されていません。そこで、ボードの上に立ってパドルをこぐSUP（サップ）を提案し、20代、30代の人たちを集めて始めました。サウナが好きなので同好の仲間とテントサウナをしたり、新たにゴルフを始めたり。若い世代の仲間を増やすコミュニティー活動は、仕事の1つではありますが、自分の趣味の幅を広げるきっかけにもなっています」

自分にとって良いことづくしの移住暮らし

菊池さんは、大学卒業後、広告代理店やIT企業などに勤めてきた。「広告代理店で働いていた時は、朝まで仕事をすることもありました。移住前まで勤めていた会社は、割と自由だったのですが、それでも朝は満員電車に乗って通勤していました。今はそんな日々から解放され、仕事上のストレスはほとんど感じません。それに鹿嶋市は、高速バスを使えば東京駅まで片道約1時間半で行けます。週に1、2回は仕事で東京に行きますが、その後で友人と飲食を楽しんでから終バスで帰ることもできます。普段の生活は車さえあれば不便はほとんどありません。僕にとって移住は、失う物がなく、得る物ばかりです」
地域の祭りや行事に参加するのも新鮮に感じられる毎日。新たな環境にすっかりなじんでいる。「地域の人たちが元気になるように、そして若い人たちが定着するように、新たな活動の場を広げていきたい」と晴れ晴れとした表情で語った。

（2022年12月14日取材）