【秋田県能代市】移住は「準備期間を長く、まずは現地を見て」
菅野 博子さん

菅野 博子さん
- 所属:秋田県能代市移住定住推進課移住コーディネーター
- 活動場所:能代市移住定住相談窓口「のしろ暮らす」
- 活動期間:2019年4月〜
北に白神山地、西に日本海の自然豊かな能代
世界自然遺産の「白神山地」の玄関口にある秋田県能代市。人口は4.7万人で、天然杉やネギが名産だ。能代市移住定住推進課の菅野さんは、旅行代理店での勤務を経て、2019年から移住コーディネーターとして働いている。「生まれ育った能代を離れた時期もあるからこそ、伝えられる魅力がある」と話す。「市の東西を一級河川・米代川が流れ、北には白神山地、西には日本海。山も海も川もある、自然豊かな場所です」。都会の喧騒からは離れた場所ではあっても、県内の二つの空港からもアクセスがよく、羽田空港からは2〜3時間だ。
年間約50世帯ほどの移住を手がけており、約半数がUターンだ。「家の仕事を継ぐためや、子育て環境のため、家族の介護のためなど、様々なライフステージがきっかけとなっています。県外で出会った20〜30代の方が、結婚を機に能代に戻ってくるというケースも最近増えています」。

体験ツアーで「移住後のイメージ」を固める
菅野さんが移住支援をしている中で、特に心掛けているのが「とにかくよく話を聞くこと」だ。「同じ場所への移住でもニーズは一人ひとり異なります。移住後どういう生活をしたいか、イメージを固めてもらうことが大切だと思っているので、どなたにも過不足なく提案ができるよう、話を聞くことを大切にしています」
イメージを固める上で、「移住体験ツアー」はぜひ活用してほしいという。能代市の移住体験ツアーでは、2泊3日で移住希望者の要望に沿ってオーダーメイドで行程を作っている。希望者は交通と宿泊の手配は自分で行い、市が半額を補助する形だ(1世帯あたりの上限あり)。
移住体験ツアーを通して、こんなこともあった。「Uターンして喫茶店やゲストハウスなどを経営したいという方から、店舗や物件探しのためにと、移住体験ツアーの申し込みがありました。希望通りアテンドしながら話を聞いていると、店舗をもつ前に『準備期間を持つために就職したい』という思いがあることを知りました。そこで、募集中だった地域おこし協力隊も選択肢として紹介したところ、興味を持って応募され移住した、という方もいました」
具体的に移住先を絞っていない段階でも利用できるという。「約半数が検討中、という方です。子育ての環境を知りたいという方は、幼稚園や保育園、小学校を実際に見学に行くこともあります。能代市は木材産業で有名なので、木材関連事業所への見学を行う『木都体験ツアー』も行っています」。
雪国ならではの「越冬セミナー」で転入後もサポート
菅野さんが勤務する相談窓口は、地元の人がよく利用するショッピングセンター内にある。「移住した後にも、買い物のついでに来られる場所にあります。近況を話しに来てくれる方もいますし、私も見かけたらお困りごとがないか、声をかけるようにしています」。
能代市では、転入後のサポートに隔月で「移住交流サロン」を開いている。「転入した人はまず、お誘いします。移住者を応援したいという地元の人、先に移住してきた『先輩移住者』と、情報交換ができます。移住を検討中の方も参加できますよ」。テーマは様々で、居酒屋でおしゃべりをする気軽な回もあれば、工場見学に行ったり、地元のサークルを紹介したりする回もある。
中でも特徴的なのが、雪国ならではの「越冬セミナー」だ。「移住希望者から最も多いのが、『冬の生活が心配』という声です。久しぶりに雪のある生活は心配、というUターンの方も多いです」。セミナーでは、雪かきの道具の説明、家の設備の凍結を防ぐ方法、車の運転の仕方など、越冬に必要な知識や装備を紹介するという。「転入して初めて冬を迎える人に好評ですが、実は私たち地元の人にとっても目から鱗の内容です」


移住希望者へは「準備期間を長くとっていい」
近年は、祖父母がいることで能代に興味を持ち、移住する若い世代の「孫ターン」も増えてきているという。「Uターンでもそうですが、家族の誰かが能代を知っていて『良さを知っているから住みたい』という方がいらっしゃいます。都会だと公園で遊ぶのも順番待ちだけど、能代だとのびのびと遊べる、などの声もよく聞きます。家族連れの場合は、小学校に入学するのを見据え、未就学児のタイミングで移住することが多いです」と菅野さん。「教育環境を迷われる方もいると思いますが、少人数教育のよさもあります。地域の人との交流が盛んだったり、学年を越えて仲良しだったり。移住はお金がかかることですが、45歳未満の若年層向けの移住支援制度もありますし、少しでも役立てていただければと思っています」
移住を検討している人に向けてのアドバイスとして、「準備期間を長くとってもいいのではないか」と菅野さんは話す。実際の生活と思い描いていた生活にギャップがないようにしてほしい、と願っているからだ。「移住していただいた方には、ずっと住み続けていただきたい。そのために、移住後の暮らしがイメージできるようにお手伝いしたいと思っています。気になった場所はぜひ現地に、足を運んでみてください」。

(2025年1月9日取材)
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