地元のスペシャリストと接して成長を実感
多田 陽香さん
多田 陽香さん
岩手県出身。2018年8月に神奈川県から岩手県遠野市に移住。
- 移住時の年代:20代
- 家族構成:祖母、両親
- 移住スタイル:Uターン
- 職業:インタラクティブスクール コーディネーター
満員電車の通勤に疑問
ゆとりある働き方を考える
横浜国立大学卒業後、4年間勤めた東京のIT企業を辞めて2018年に故郷の岩手県遠野市にUターンした多田さん。地元にシフトしたのは、満員電車に乗って通勤しなくてはならない働き方に疑問を持つようになったのがきっかけだという。
「今でこそ日本でもリモート勤務が広がりつつありますが、以前はそうではありませんでした。私の場合、神奈川県内の自宅から勤務地の東京・恵比寿まで通勤に約1時間かかりました。満員電車に乗っている人たちの表情は『無』に見えました。降りるときに前の人を乱暴に押すなど、人が人でなくなっているのを見るのがすごく嫌でした。仕事自体はとても面白かったのですが、働き方を変えられないかな、と思うようになりました」
地方への移住を選択肢の一つとして考え始めたが、初めは、故郷にUターンしようとは思わなかったという。「高校まで地元で過ごした私から見ると、仕事も少なく、とりたてて魅力がある土地には思えませんでした」
各地の移住フェアに参加するうちに、岩手県のことも気になってのぞいてみた。すると遠野のパンフレットが目にとまった。「とてもおしゃれなデザインで、私の知らないことばかり書かれていました。移住した起業家などが紹介されて、かなり面白い人が集まっている、と思いました。そこは私が知っている遠野ではありませんでした」
パンフレットをデザインしたのは、ネクストコモンズという会社だった。この会社では移住者たちを受け入れて起業を支援していた。「このパンフレットをきっかけに、故郷に帰るのも悪くないと思い、仕事先を調べ始めました。すると、ちょうどネクストコモンズがコーディネーターを募集していたんです。『ここしかない。こういう人たちと一緒に仕事をしたい』と思って応募し、幸い採用されました」
フェイスブックの友達が
1年で100人増えた
ビールやどぶろく作りなどの起業家を支援したり、草木染など地域のスペシャリストを講師にして講座を開いたり。パソコンを通じたオンライン講座も行っている。企業向けに、発想力あるリーダーを育成する教育研修事業も行うなど仕事内容は幅広い。
「東京の会社にいたころは交流がなかなか広がりませんでしたが、今ではいろんなスペシャリストの方と話をする機会が多く、とても充実した毎日です。地域の方だけでなく、全国の大学や企業、さまざまな法人の方たちが訪ねてくれる機会も多く、1年間でフェイスブックの友達が100人増えました」
それまで全く知らなかった人も、地元ネタで意気投合したり、小学校教師だった父の知り合いだったりして、話が弾んだ。他の都道府県からの移住者が地域の人と信頼関係を築くまでには多くの苦労があるが、「地元出身ということで一挙に人間関係の距離を縮められることもたびたびです」とUターンの利点も感じている。
温かく迎えてくれた
地元の人たち
実家に戻り、祖母、両親と暮らす穏やかな日々。「私の家は遠野の中でもかなり山間部にあります。地域の人たちも私が戻ってきたことはすぐに分かってくれて、車で通勤するときなど、道ばたでおしゃべりをしているおばあちゃんたちが手を振ってくれます。通勤電車のギスギスとした感じとまるで違って、とてもやわらかい気持ちになります」
東京で勤めていたときは、友人たちと1週間に3回くらいは食事をしていた。「お酒が好きで、よく飲んでいたのですが、車での通勤ということもあって、お酒を飲む機会は少なくなりました」。交際費は減ったものの、食事会のクオリティーは高くなったという。「新鮮な魚など食材が安く手に入りますし、魚をさばくなど料理できる人も身近にいます。パーティーを開いても、東京とは段違いの安さで、とてもおいしい料理を食べることができます」
「仕事は多岐にわたって大変な部分もありますが、さまざまな人と接して自分が成長できる環境に身をおくことができます。生活コストが下がり、以前は無理だとあきらめていた働き方ができます。『幸福度』という点では大幅にアップしました。観光ガイドの勉強を始めるなど、まだまだやりたいことはたくさんあります。これからもここ遠野から、多くの人に地域の魅力を伝えていきたいと思っています」
(2020年9月23日取材)
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