茶畑の見える平屋に移住して見えた、都会にはないもの
安田 順さん

安田 順さん
東京都杉並区出身。2023年4月に東京都江東区から静岡県菊川市に移住
- 移住時の年代:40代
- 家族構成:妻、子ども2人(5歳、8歳)
- 移住スタイル:Iターン
- 職業:会社員
より広々した場所へと、家族のために移住
安田さんは2023年4月に一家で静岡県菊川市に移住した。マンション暮らし、満員電車、休日は子供達と自転車移動ーーといった都会の生活は一変。今は茶畑の見える新築の平屋で、「子供達と家でくつろいでいる時が一番幸せ」だと話す。
移住を決断したのは、「子供たちを広々とした場所で育てたい」という思いと、「妻の両親が心配」という思いがあったからだ。年齢的にも体調が気にかかり、少しでも近くに住みたい、とかねてから妻と話し合っていた。安田さんの妻の両親が暮らすのは静岡県湖西市で、東京からは新幹線や電車を乗り継いで3時間以上かかる。「移住を決めるには段階があって、まずは自分たちがどうしたいか、でした。『できるかはわからないけど、できるなら移住したいよね』という結論になり、実際に考えるようになりました」
家の前に広がる茶畑を見て、移住先を決意
移住を決めても、実際に行動に移すまでの段取りには様々な段階がある。安田さんは「住居、仕事、お金。様々な問題があります。まずは住む場所を決めないと始まらないので、住居から決めました」と話す。妻の実家がある静岡県湖西市の近隣を候補に、静岡県の中部と西部の二箇所に絞り、住居を探し始めた。二つの地域から候補地を回る中で、「バランスが良かった」と感じたのが菊川市だったという。妻の実家からは車で1時間ほどで、駅や高速のインターチェンジからもさほど遠くはない場所に、候補となる住居があった。「市街地もあり、緑もあり、移住先の環境としても求めていたバランスの良いところでした。移住にあたり、支援金制度も利用しましたが窓口の人もとても親切で。どんな質問にも快く答えてくれたので、決断を後押ししてくれました」

「東京ではマンションに住んでいて、移住先は平屋を希望していました。建売の新築でいい平屋があり、東京で購入したマンションの売却も勘案して、住宅ローンも現実的な金額で組めそうでした。そういった現実的な側面もありましたが、何よりも『ピンと来た』のが今の住まいです」と話す。住居を決めるまでは、菊川市に何度も下見に訪れたという。「家の前に広がる茶畑がいいなあと思ったんです。自分たちの肌に合う、という感覚を大切に決めました」
東京・静岡を行き来する生活を経て、地元企業に就職
住まいが決まった後は、仕事をどうするかが問題だった。安田さんは移住してから1年は、東京の仕事を続けていたという。「家族のことを考えて移住するという決断をざっくばらんに職場に話しました。『でもやり残していることがあるので、業務は続けたいと思っている』と伝えると、テレワークを活用しながら一部出勤する形で了承をもらいました。結果として退職はしましたが、働き方を柔軟に対応してくれた前の会社に感謝しています」。住環境が変わり、すぐに仕事も変わるのではなく、徐々に新生活に向かう「移行期間」を持てたことも安田さんの心の余裕につながったそうだ。
1年間、静岡と東京を行き来する生活が続き、2024年4月に移住先の会社に転職した。安田さんが選んだのは、静岡産の日本茶を国内外に広める茶問屋の関連会社だ。出店のサポートに携わっていた前職の経験も生かしながら、日本茶を楽しめる店舗のブランディング営業や出店サポートに携わっている。

茶畑の風景に心をつかまれ、次第にお茶に携わる仕事もしたいと考えたのだという。「収益性の課題もあり、茶畑もどんどん少なくなっています。長らく東京に暮らしていましたが、東京が成り立つのはやはり地方があってこそ。日本茶の事業に関わることで、地方や農業を少しでも活性化させるお手伝いがしたいと思っています」
もっと静岡のお茶を知りたいと、「日本茶インストラクター」の資格も取得したそうだ。「東京にいた時は『新茶』と言われてもピンと来ていませんでしたが、静岡はお茶が身近な存在。文化が違うと感じていたので、少しでも学びたいと」と話す。
都会にはない良さ、生活の変化を家族で楽しむ
休日の家族との過ごし方も、大きく変わったことの一つだ。「都内では電動自転車で移動していました。妻と私とそれぞれ自転車に乗り、子供を乗せて豊洲に行ったり、日本橋まで足を伸ばしたりしていました。ただ、子供も小学生になると自転車に乗せるのも大変になっていました」。移住後は車での移動がメイン。休日は近くの温泉に出かけたり、家族で公園に出かけるようになった。「地域のお祭りや大きな公園で広々と遊べる、というのも首都圏にはあまりありません。地元の人や子供同士の関わりも、東京と比べると密ですし、移住してよかった点だと感じています。当初は東京の友達と離れるのが寂しそうでしたが、すぐに新しい友人もできました。子供たちも、菊川に来てからのびのびしていると感じることが増えました」。家のウッドデッキで、友達を招いてバーベキューをすることもあるという。

移住は住居も、仕事も、子供の教育環境も変わる、大きな決断だ。事務手続きも煩雑で、家を整えるまでには工事やインフラの切り替えなど大変なこともある。安田さんは「引越し当初は手続きも多いが、それも最初だけ。日々の買い物でどこにいくか、を周囲にリサーチするのも人によっては大変と感じるかもしれませんが、私たち家族ではそれを楽しんでいました」と話す。
「菊川市の人に『東京から来ました』と話すと、『田舎だから何もないでしょう』とよく言われます。しかし、今の時代はオンラインで何でも買えますし、日常的に困ることは全くありません。むしろ都会にはないものがあります。自然、地域の特産物、人との関わり。その良さに日々気付かされています」
(2024年11月15日取材)
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