故郷の新しい動きにワクワク 前を向いてUターン
南 未来さん
南 未来さん
愛知県瀬戸市出身。東京都から神奈川県大磯町を経て、2018年5月に愛知県瀬戸市へ移住。
- 移住時の年代:30代
- 家族構成:夫、子ども1人
- 移住スタイル:Uターン
- 職業:ライター(もの書き)
何もないと思っていたふるさと
「何もないと思っていた故郷に人が集まり始め、面白そうなことが起きようとしている。ワクワクする思いでUターンを決めました」
神奈川県大磯町から、2018年5月にUターン。瀬戸市で夫が経営するゲストハウスを拠点に、主にWEBを使って瀬戸市の「まち」と「ひと」の魅力を発信し続けている。「戻って4年が過ぎても、次から次に取材したい人が現れて、時間が足りないぐらい」。
旅ライターを目指し、高校卒業後、アルバイトでお金をためては海外を放浪。3年後、出版社が集中する東京へ飛び込んだ。旅雑誌の編集を手がける東京・神保町の出版社に入社。2年後に独立し、旅と地域に関わる媒体に原稿を書き続けてきた。
帰郷を意識したのは20代後半。故郷で暮らす母が病気になり、看護のため東京と瀬戸市を往復するようになったのがきっかけだった。折しも、リモートワークが広がり、各地にはローカルメディアもあり、東京でなくてもライターを続けることはできそうだった。試しに東京から約1時間の神奈川県大磯町に移住し、そんな自信を深めていた頃、母が亡くなり、弟から瀬戸市で開業するパン屋を手伝ってほしいと連絡があった。
「最低限、働き口はある。でも、どうせ戻るなら、何か面白い要素が欲しい。そう思っていたところ、大学を卒業していきなり瀬戸にゲストハウスを開こうとしている人がいると知ったんです」。南慎太郎さんって、どんな人だろう。興味が湧き、会いに行ったことが人生の転機となった。
若者が集まる、ワクワクするまち・瀬戸
2018年3月、戻った故郷は様変わりしていた。現代アートを楽しめるアートスタジオができ、Uターンした4代目が営む喫茶店には、同世代の若者が集っていた。焼き物の産地として千年以上続く伝統のまちに、自由な感性でものづくりを楽しむ若い人たちが集まり、何かを始めようとしていた。慎太郎さんは、そんな瀬戸の日常を楽しんでもらえる場所をつくりたいと、1年かけてまちを歩き回り、自分を知ってもらい、相手を知っていったのだという。
「信頼できる人だなと思いました。それに、彼がやっていくことが面白そう、きっと何かが行われて、それを取材し続けられるだろうというワクワク感でいっぱいになったんです」。情報発信したいと考えていた慎太郎さんと、すぐに意気投合。2か月後には移住し、慎太郎さんが経営するゲストハウスを拠点に、まち歩きWEBエッセーの発信を始めた。
「そのゲストハウスに住めたので、一人暮らしの時より固定費を浮かすことができました。1年目は弟のパン屋で働く収入が主でしたが、エッセー以外にゲストハウスで使うマップを作ったり、事業を始める方のクラウドファンディング原稿を書いたりして。信頼を得るにつれ仕事も増え、4年目からライターだけでやっていけています」。2020年6月、慎太郎さんと結婚して公私ともにパートナーとなり、翌年には子どもも誕生した。
心強いパートナーの存在
コロナ禍ではゲストハウスを休業せざるを得なかったが、窯元と組んでオンラインの陶芸学校を開くなど、忙しさは変わらなかった。瀬戸市最大のイベント「せともの祭」の中止が決まった時には、「1か所に人を集められないなら、回遊型のイベントにしよう」と、市中心部の商店街と郊外にある窯元地区を、来場者が地図を片手に少人数単位で巡る「せとひとめぐり」を企画し、好評を得た。伝統を大事にしつつ、新しいひとやコトも積極的に受け入れる。居心地のいいまちだと感じる。「お店の数はもうちょっとあってもいいかなと思う時もありますが、選択肢が少ないほうが、コンパクトに暮らせていい面もあるんです」。とはいえ、店は確実に増えており、ゲストハウスの徒歩圏内に限っても、移住前後に15軒以上も新規出店があった。
移住を考えている人へアドバイスをお願いすると、「信頼できる人が1人でもいること」とすぐに答えが返ってきた。「私は慎太郎さんの人柄を信頼できたのでUターンし、夫婦にもなりました。瀬戸市の場合、夫婦に限らず、パートナーとして一緒に仕事をしている人たちはとても多いです。欠けている部分を補い合う相手がいることはすごく心強いです」。
もう一つ大事なのは、“お試し期間”を持つことだという。「完全に移住する前に、宿にしばらく泊まるなどして、まちの雰囲気を見てみることが重要です。お店の数であったり、雰囲気であったり。まちを歩いてみることで、肌感覚的なところで自分に合うかどうか、見えてくると思います」。ちなみに、2人のゲストハウスを訪れて、移住を決めた人も結構多いのだそうだ。
まちの魅力を“じわじわと”伝えたい
「火のまち、土のまち」といわれる瀬戸。そんな土壌の上に人が暮らしていることを大切にしたいという思いを込め、2022年1月、夫婦2人で出版レーベルを発足。4月に瀬戸の案内本を出版した。
「私が移住してからの3、4年、いろんな人が集まり、新しいお店が増えた一方で、歴史のある建物が取り壊されるようになり、今見ている景色を見られなくなるかもしれないという不安がありました。本にすることで、その景色を残してほしいという意思を伝えられたらと思っています」
文章を軸に信頼を生み、培った人脈をつないでいく。そうやって、まちで暮らす人やお店の情報発信を手伝いたいと考えている。
「ものづくりのまちというベースがあり、そこに面白い人が集まっている。それを、レトロな街並みも含めて丸ごと楽しんでもらいたい。面白いねと思ってくれる人が増えて、お店を開きたいね、となっていくのが理想。『瀬戸は面白いよね』って、うわさがうわさを呼ぶような状態を、“書くこと”でじわじわと作っていきたい」
(2022年10月24日取材)
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