自然豊かな奥大和の山村との出合い

「下北山村は山に囲まれていて、川の水がきれいで、自然の豊かさを感じます。日常の景色から四季を感じることもできます。昨年は12月中旬に初雪が降りました」
奈良県の南部と東部は「奥大和」と呼ばれ、下北山村はその奥大和の南端に位置する人口約800人の小さな村だ。東京で生まれ育った森田さんが地縁のない下北山村に移住したのは、総務省が推進する関係人口創出プロジェクトの一環である「奈良・下北山むらコトアカデミー」のワークショップに参加したことがきっかけだった。

現地の温度感を体感するため、移住を決断

「東京では、メンタル疾患からの社会復帰支援サービスを提供する会社に勤務していました。都市部での生き方や働き方の選択肢のほかに、環境を変えて社会復帰に向けたトレーニングができる場所を提供していて、新たな受け入れ先を探す中で、下北山村が企画した都市と村をつなぐためのワークショップが目にとまり、参加しました」
森田さんがワークショップで、自社サービスの利用者が社会復帰に向け下北山村での暮らしや仕事を体験するツアーを提案したところ、下北山村に企画が認められ、奈良県、下北山村と協定を結び、プロジェクトが始動した。
当初3年間は、東京を拠点にプロジェクトに携わっていたが、現地の温度感をより理解するために移住を決断。実際にツアーを実施し、2020年11月には、下北山村のシェアハウスで共同生活を行いながら、メンタルケアや社会復帰に向けたトレーニングに取り組むことのできる宿泊型転地療養サービスをスタートさせた。
村の人々からは親戚のような感じで、『よく来たね』と受け入れてもらったという。移住者に対しても気軽に声をかけつつ、干渉し過ぎることもなく、実際に暮らしてみてとても居心地がいいと話す。
「今では下北山村が第二の故郷と感じています。人生で故郷となる場所が複数あるとすごく心強いですね。移住して人とのつながりをより強く感じることができるようになったので、いつも誰かに守られているという感覚がありますね。下北山村には移住してきた人も多く、都市部にはない暮らし方や人生の選択肢があります。ここで多様な価値観に触れる機会を得て、自分自身の生き方や働き方を考えることができます。村ならではの豊かな人や環境も活用しながら、サービスを充実させていきたいですね」

休日はハイキングやカヤック。旬の食材で料理を作る楽しみも

毎週土曜日に開かれる朝市も気に入っているという。
「家庭菜園で作った野菜を持ち寄る朝市なので、旬の野菜が分かります。冬の今の時期は白菜とネギ。味が濃くて美味しいです。日用品は車で片道約40分のところにある隣市のスーパーマーケットで調達していますが、車があれば生活を不便に感じることはありませんね。同じ集落に温泉があって、毎日のように村民価格で入れるのも魅力です」
東京では、仕事帰りにコンビニエンスストアで買った食事ばかりだったが、今は食材本来の美味しさを味わう料理を楽しめるようになったそうだ。
「休日の過ごし方も変わりましたね。東京にいる時は、休日はウィンドーショッピングをしたり、お気に入りのカフェに行ったりして過ごしていましたが、今は豊かな自然を満喫し、ハイキングやダム湖でのカヤックを楽しんでいます」

納得感を持って人生を歩むことができている

「今は、やりたいことができて、納得感を持って人生を歩むことができています。これからもいろんな挑戦をしていきたいです。下北山村はそれぞれの人がそれぞれの人生を歩んでいることがわかる場所です。それに触発され、自分もいろんなことをやっていきたいと思える機会が多いですね」
移住を考えている人へのアドバイスとして、移住を決める前に、1か月くらいは実際に候補先で生活することをすすめる森田さん。
「観光とは違うので、地域の人たちと自身の『肌感覚』が合うかどうかを確かめた方がいいでしょう。現地で移住について相談できる知り合いを作ることができれば、情報も得やすく判断しやすいと思います」

（2022年12月16日取材）