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LIFE STYLE移住者の暮らし

ときめきから即決断、心の余裕が生まれた生活へ

桝林 佳生子さん

PROFILE
桝林 佳生子さんの写真

桝林 佳生子さん

東京都出身。2023年7月から滋賀県東近江市に移住。

  • 移住時の年代:30代
  • 家族構成:独身
  • 移住スタイル:Iターン
  • 職業:雑貨店オーナー、バイヤー

築100年の洋館に一目惚れし、移住を決意

琵琶湖の東側に位置する、滋賀県東近江市。静かな田園風景を走る私鉄の駅から、徒歩10分ほどの場所に、映画のセットのような洋館がある。東京でセレクトショップを立ち上げ、一人奮闘していた桝林さんは、街と人の温かさにひかれたのに加え、この建物の魅力が移住を後押しした。

約100年前、歯科医院兼邸宅として建てられたこの洋館に、桝林さんは一目惚れした。明治から昭和にかけて、日本で数多くの西洋建築を残したアメリカ人建築家、ウィリアム・メレル・ヴォーリズの手によるものだ。滋賀県はヴォーリズが活動の拠点とし、今も彼の建築が街並みに残っている。

「アーチ状の玄関ポーチから、室内に足を踏み入れると、時代を感じる焦茶色の木製階段。そして、白い漆喰の壁。日本にいながらにして西洋のディテールがあるたたずまいに、『ズキューン』と心を射抜かれました」と桝林さんは当時を振り返る。

現在、その洋館の2階に桝林さんの営むセレクトショップ『BUFFET(ビュッフェ)』はある。店内には、桝林さんのセンスで集められたカラフルな雑貨や、アクセサリーが並ぶ。店名の「BUFFET」には、スイーツビュッフェでデザートを選ぶときのように、自分の「好き」という直感に素直に、目を輝かせて手に取ってほしいという願いが込められている。彼女自身もまた、その店名の通り、自らの直感に従って東近江に導かれた。

「毎日が必死だった」コロナ禍から、運命の出会いへ

大学卒業後、大手アパレル会社でキャリアを積んだ桝林さん。自身が携わっていたブランドが終了したことを一つの区切りとし、雑貨などを扱う自営業の道に進み、期間限定のポップアップショップを各地で展開する日々を送っていた。自分の好きなものを扱い、顧客に直接届ける喜びはあったが、当時はコロナ禍の真っ只中。商業施設をぶらぶらと歩いて好きなものを探す、といった買い物をする人は激減し、先行きが見えない不安な時期だった。

「とにかく、毎日が必死でした。大きな荷物を抱え、夜行バスで全国を駆け回る日々。常に数字に追われ、心が休まる暇もありませんでした。これが持続可能な働き方ではないと頭では分かっていても、立ち止まる余裕さえ持てませんでした」

転機は、知人がふと見せてくれた一枚の写真だった。「ここ、桝林さんが好きそうだなと思って」。そこに写っていたのが、現在の店であるヴォーリズ建築だった。2023年4月下旬、遊び半分で訪れた滋賀だったが、予想もしない展開が待っていた。

「まず、建物の実物を見て一目惚れ。オーナーさんも温かく迎えてくださり、移住への思いが膨らみました。住まいの心配を口にすれば、近くにいた方がその場でシェアハウスを紹介してくれる。東京では『何かをするにはお金が必要』という前提で生きていたので、人の繋がりで物事が進んでいく光景に驚きました」

古い建物を大切に使い続ける街並みと、そこに住む人々のオープンな気質。すっかり魅了された桝林さんは、東京に戻るやいなや自宅の解約手続きを進めた。縁もゆかりもなかった滋賀の地へと移り住んだのは、最初の訪問からわずか3ヶ月後だった。

時間と心の余裕が育んだ、行政書士という新たな軸

移住後は、地元の移住支援金なども活用しながら、2023年8月に店舗をオープン。かつてポップアップ会場で出会ったファンが遠方から訪れてくれることもあり、店には少しずつ賑わいが生まれていった。現在は週3日の店舗営業がメインだ。東京時代に比べて生活費や固定費が大幅に抑えられたことで、金銭的な不安が和らぎ、驚くほど「心の余裕」が生まれたという。

「地元の人が温かく、自営業の仲間がすぐにできました。一人の繋がりから次々と輪が広がり、気づけば周りには自分らしく働く人たちがたくさん。彼らは『働く時は働き、遊ぶ時は遊ぶ』というオンオフがはっきりしていて、その姿に『自分も無理に詰め込まなくていいんだ』と学びました。かつては週7日休みなく働いていたので、彼らの姿勢に大きな影響を受けました」

そんな時間の余裕と、心の余白から生まれたのが、行政書士資格の取得という新たな挑戦だった。

「コロナ禍で補助金申請などを経験し、制度を正しく活用する大切さを痛感しました。店舗経営を知っている自分だからこそ、駆け出しの個人事業主をサポートできるのではないか。また、もう一つの仕事の軸を持つことで、安心して店を続けられるという思いもありました」

店舗の営業が終わった夜や、定休日の時間を勉強に充てた。東京にいた頃の自分なら、その時間も気力も捻り出せなかっただろう。猛勉強の末、難関試験に見事合格。現在は、自身の店舗を運営しながら、地元の事業者たちを支える行政書士としての準備も着々と進めている。

「今日もいい日だった」風と土が自分に合う日々を慈しむ

移住してから、生活の質は劇的に変わった。店舗からシェアハウスへ帰る道すがら、桝林さんはふと足を止めて広い空を眺める。何気ない瞬間に、「ああ、今日もいい一日だったなあ」と深く噛み締めるのだという。

「以前は、1日を振り返る余裕すら持てないまま過ぎ去っていました。今は、自分が可愛いと信じたものをお客さんに喜んでもらい、穏やかな人々と豊かな自然に囲まれて生活しています。この心理的な変化が、移住して得た一番の宝物かもしれません」

縁もゆかりもなかった東近江市だが、今ではこの土地の「風」も「土」も、自分の肌に合っていると感じている。最後に、移住を検討している人へのアドバイスを尋ねると、こう返ってきた。

「立地などの条件も大切ですが、最後は『ピンとくるか』という直感を信じてほしい。なんとなく自分に合うと感じるフィーリングが、大きな決め手になりえますから」

(2026年2月24日取材)

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